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アートを「革新の起爆剤」に。PART1

アートを「革新の起爆剤」に。PART1

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  • 堀 達也

    堀 達也TATSUYA HORI
    文化庁 文化経済・国際課
    専門官

    2011年、東京大学経済学部金融学科卒業。同年、中小企業庁に入庁、事業環境部金融課でキャリアをスタートさせる。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(総括担当)付政策企画専門職、資源エネルギー庁電力・ガス事業部政策課 課長補佐、経済産業省経済産業政策局産業人材政策室 課長補佐を歴任し、2019年から現職。

  • 長谷川 一英

    長谷川 一英KAZUHIDE HASEGAWA
    株式会社E&K Associates
    代表

    1990年、東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。協和発酵工業(株)(現 協和キリン(株))に入社、創薬研究や経営企画、企業広報などに携わる。スタンフォード大学客員研究員、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社を経て、2018年より現職。現代アートコレクターでもあり、アーティストと産業界との協業による双方の活性化に取り組む。

  • 林 幸弘

    林 幸弘YUKIHIRO HAYASHI
    株式会社リンクアンドモチベーション
    モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員
    「THE MEANING OF WORK」編集長

    早稲田大学政治経済学部卒業。2004年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。組織変革コンサルティングに従事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員として、日本で働く外国籍従業員のエンゲージメントやマネジメントなどについて研究。現在は、リンクアンドモチベーション内のR&Dに従事。経営と現場をつなぐ「知の創造」を行い、世の中に新しい文脈づくりを模索している。

ビジネスの常識を覆し、新たな価値を生み出すための「アート思考」に注目が集まっている。異なる価値観とアイデアの化学反応は、行き詰ったビジネスに何をもたらすのか。「アート×ビジネス」という、かつてない取り組みを主導する二人のプロフェッショナルに話を伺った。

活用と連携で、文化芸術を日本の力に。

林 幸弘

「Society5.0」の概念や、デジタルトランスフォーメーション(DX)、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)など、企業やそこで働く個人は大きな変革を求められています。資本主義の限界を迎えている中で、新たなアイデアや価値を生み出そうにも、なかなかブレークスルーを生み出せずにいる企業が多く存在します。そうした中、注目を集めているのが、アートを思考の軸にしようという新しいムーブメントです。まずは、文化庁が2017年から推進している「文化経済戦略」についてお聞かせいただけますか。

文化芸術を起点とした価値連鎖(バリューチェーン)
堀 達也

2017年12月に策定された「文化経済戦略」は、文化を起点に産業等の他分野と連携して新たな価値を創出し、その価値が文化芸術の保存・継承や新たな創造に対して効果的に再投資されることにより、文化が自立的・持続的に発展していくメカニズム、つまり「文化と経済の好循環」を形成することを目指したものです。この戦略には大きく2つの方向性があります。一つは、これまでの文化政策では文化芸術の保存に大きなウエイトを置いてきたところから、それらを積極的に活用していく方向にシフトしようという「保存」から更なる「活用」へのシフト。そしてもう一つは、産業や観光、街づくりなど「他分野との連携による振興」を図ること。ポテンシャルに満ちた文化芸術が持つパワーを多方面とのコラボレーションによって、新たな価値創造につなげていこうというわけです。

林 幸弘

活用と連携によって、文化も経済も活性化していこうと。ただ、ビジネスに文化、アートを活用すると言われても、「何をするのか」「どんなメリットがあるのか」などイメージしにくい部分がありますね。

堀 達也

今回のテーマになっているアートを例に挙げると、アーティストの多くが世の中の課題を発見・抽出することに取り組んでいるんですよ。そして、その課題に対する問いかけを作品としてアウトプットしていくのです。そこで求められる能力って、企業に対しても、個人に対しても問われている部分じゃないですか。文化庁では文化経済戦略推進事業と題して、企業のオフィスでアーティストが制作活動や社員との対話を行う「Artist In the Office」や、経営層の方々が美術館で作品を鑑賞し、その後、作品の感想やビジネスの課題についてディスカッションする「Culture Thinking Tour」などの実証事業や調査を重ねてきましたが、参加者の声や反応から、アーティストにとっても企業人にとっても確かな意味があると手応えを感じています。

林 幸弘

話を聞くだけでワクワクしますね! そうした刺激や発見の機会は、多忙なビジネスの世界ではなかなか得られませんから。

アート×テクノロジー。起源はアポロ計画の時代?

林 幸弘

普通にビジネスを行っていると、アーティストに出会う機会はほとんどありません。日本にはまだまだ、アートを身近に感じられる土壌がないようにも思えます。

堀 達也

そうですね。欧米の一部の国では、民間資金がアーティストなど文化芸術への支援に流れる仕組みが整っていますし、その仕組みを支援する税制等の制度がしっかりと整っているんです。日本では、ビジネスと文化芸術をどこか別の世界のものだと捉えている風潮がありますね。実際に行った調査で、美術品を保有している企業に「それをどう活用しているか」という質問をしたのですが、保有していること自体を公言できないと答える企業が多数存在していました。その理由を聞いてみると、顧客や株主等からのあらぬ風評や憶測を避けたいという声が多く聞かれました。本来は美術品の活用にも意味を見出せるはずなのに、日本においては、まだ「大義がない」状況なんです。人材投資も同じ側面がありますが、美術品をはじめ文化芸術への投資に関する明確な効果を算出できないのは苦しいところですね。文化庁でも独自の評価スキームを試作するといった取り組みが進んでいますが、エビデンスをどう積み重ねていくかが最大の課題と言えるでしょう。

長谷川 一英
長谷川

ビジネスとアートの距離という意味では、日本はかなりの距離があると思います。海外では、アーティストと企業を結びつけるプラットフォームが整っていて、アーティストが企業のプロジェクトに参画する事例も増えています。1990年代から企業文化の浸透・変革、事業や新製品のコンセプト作成など、さまざまな事例が報告されています。「ビジネスパーソンだけでは出てこない発想が生まれた」「組織文化の醸成に寄与する機会だった」といった声が上がっています。さらに、Microsoft社やFacebook社などでは常にオフィスにアーティストがいる状況をつくっていて、Microsoft社で行われている技術研究職の人材とアーティストが共同で作品を創作をするプロジェクトは有名です。出来上がった歴代の作品は、同社ウェブサイトで見ることができますよ。

林 幸弘

“Japan as No.1”といわれた時代、アメリカはすでに生みの苦しみの中にあって、そこを脱却するための取り組みをしていた……。アートから創造性のヒントを得る取り組みは、今に始まったことではないのですね。

長谷川 一英
長谷川

そもそもアメリカにはそうした文化が根づいているのだと思います。1960年代、NASA(アメリカ航空宇宙局)で、アーティストの目を通して宇宙探査の歴史を記録するプロジェクトが実施されました。ノーマン・ロックウェルや、ロバート・ラウシェンバーグ、アンディ・ウォーホルなど、時代を象徴するアーティストに依頼が寄せられたそうですよ。

アート×テクノロジー。起源はアポロ計画の時代?
林 幸弘

アポロ計画の時代からですか!日本はかなり遅れて、同じテーマに向き合っているんですね。

堀 達也

海外に浸透している寄付文化が芸術を支え、広めていく土台になっている点も大きいのでしょう。日本の場合、文化芸術の保存・振興などにかかる大部分の資金は公費によるもの。なかなか難しい面があったのかもしれません。

長谷川 一英
長谷川

私はリベラルアーツ教育の影響も大きいと思っているんです。アメリカの大学はリベラルアーツが中心で、経済やサイエンスの専門分野はスクールになっていますよね。日本の大学は専門教育です。

林 幸弘

やはりリベラルアーツは大切です。近年、その重要性はますます高まっていますから。

抽象化から思考への飛躍。アーティストのすごさ。

林 幸弘

ここからは長谷川さんに、Art-Driven Innovation Platform事業を立ち上げた経緯について伺いたいと思います。企業とアーティストをつなぎ、新たなコンセプト創出のファシリテーターを担う。非常に革新的な取り組みですが、長谷川さんが薬学ご出身であることには驚きました。

長谷川 一英
長谷川

はい。専門教育ばかり受けてきたタイプです(笑)。製薬会社に勤務し、主に創薬に携わってきました。常に考えていたテーマは「イノベーションの効率を高める」こと。新薬が誕生する確率は1/25000といわれていますから、ほとんどのプロジェクトが失敗に終わることになります。

林 幸弘

なるほど。ビジネスの世界で、サイエンティストとしてイノベーションに向き合っていた。そんな長谷川さんがアートというテーマに出合ったきっかけは何だったのですか。

長谷川 一英
長谷川

私の場合、アートの中でも現代アートが重要だと思っていますが、香川県の直島へ旅行して、現代アートと出合いました。“現代アートの父”と呼ばれるマルセル・デュシャン(1887-1968)という人がいます。1917年に、男性用便器にR.MUTTという架空のサインをしただけの「泉」という作品を美術展に出展しようとして、拒否されてしまいました。デュシャンは、アートはそれまでの美を表現するものではなく、「鑑賞者がその作品を見て、アートと何かを考え、創造的行為に加わることで完結する」ものへとパラダイムシフトを起こしたのです。そして、今創られている現代アートは、潜在的な社会課題を提起しているものが多く、新たな気づきや価値観を得ることができるのです。

抽象化から思考への飛躍。アーティストのすごさ。
Photo credit: filosofianetdadaismo via VisualHunt.com / CC BY
林 幸弘

作品を観る人と思考のキャッチボールのようなものがあると。

長谷川 一英
長谷川

そうですね。私はアートイベントの主宰もしていて、多くのアーティストと話す機会があります。作品のコンセプトを聴くと、私が全く気づいていない事象に着目していたり、とんでもなく発想が飛躍していたり、いつも驚かされます。

林 幸弘

実際に体験されたからこそ、事業を立ち上げられたと。

長谷川 一英
長谷川

彼らは、社会課題を発見し、それがどういうことかを抽象化します。そして、そこから思考を飛躍させて作品を創造するんです。私たちのビジネスでも同じようなプロセスを踏みますが、その飛躍のさせ方がとにかくすごい。想像もできないような場所に行ってしまう。その時にハッとしたんです。「これは、イノベーションの創出に活かせるぞ」と。

堀 達也

長谷川さんのようにビジネスとアート両方に理解がある方の存在は、私たちにとって本当にありがたいです。まだ日本では、アーティストとビジネスをつなげる基盤が十分ではないですから。どんな戦略も社会に実装できなければ意味がない。アート思考は現代ビジネスに必要不可欠な力。産業、観光、行政などさまざまな分野の人たちに、同じような驚きと発見を届けていきたいですね。

林 幸弘

今回は、非常に多くの発見をいただきました。次回は、文化庁の事業としてE&K Associatesが行った、コニカミノルタ株式会社でのプロジェクト事例について伺っていきたいと思います。

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