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第2回資本主義の再定義~サーキュラーエコノミーが企業の組織や人事の在り方、個人としての働き方にどのような影響を与えるのか

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  • 加藤 佑

    加藤 佑YU KATO
    ハーチ株式会社 代表取締役(IDEAS FOR GOOD編集長)

    1985年生まれ。東京大学卒業後、リクルートエージェントを経て、サステナビリティ専門メディアの立ち上げ、大企業向けCSRコンテンツの制作などに従事。2015年12月に Harch Inc. を創業。翌年12月、世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」を創刊。現在はサーキュラーエコノミー専門メディア「Circular Economy Hub」、横浜市で「Circular Yokohama」など複数の事業を展開。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格保持者。

  • 大島 崇

    大島 崇TAKASHI OSHIMA
    モチベーションエンジニアリング研究所 所長

    大手ITシステムインテグレータを経て、2005年リンクアンドモチベーションへ中途入社。中小ベンチャー企業から従業員数1万名超の大手企業まで幅広いクライアントに対して、プロジェクト責任者としてコンサルティングを行う。現場のコンサルタントを務めながら、商品開発・R&D部門責任者を歴任。

第1回目では「資本主義の再定義 〜持続可能な経済システムとしてのサーキュラーエコノミー」と題して、いま世界で移行が進みつつある「サーキュラーエコノミー」という新たな経済システムについてご紹介しました。

第2回目は、このサーキュラーエコノミーが企業の組織や人事の在り方、個人としての働き方にどのような影響を与えるのかについて、サーキュラーエコノミーに詳しいIDEAS FOR GOODの編集長・加藤佑氏をゲストに迎え、モチベーションエンジニアリング研究所・所長の大島との対談形式で、より深く掘り下げていきたいと思います。

サーキュラーエコノミーの3原則をベースにHRを考える

大島 崇
大島 加藤さん、今日はよろしくお願いします。まず、加藤さんが考える、サーキュラーエコノミーと人事や組織との関わりについてのお考えを教えていただけますか?
加藤 佑
加藤

前回「資本主義の再定義 〜持続可能な経済システムとしてのサーキュラーエコノミー」の中で紹介されていた、英国のエレン・マッカーサー財団が提示するサーキュラーエコノミーの3原則というものがあるのですが、僕はこの原則を人事システムに置き換えて考えてみると面白いなと思っています。

1. 自然のシステムを再生(Regenerate natural systems)

有限な資源ストックを制御し、再生可能な資源フローの中で収支を合わせることにより、自然資本を保存・増加させる。

2. 製品と原料材を捨てずに使い続ける(Keep products and materials in use)

技術面、生物面の両方において製品や部品、素材を常に最大限に利用可能な範囲で循環させることで資源からの生産を最適化する。

3. ゴミ・汚染を出さない設計(Design out waste and pollution)

負の外部性を明らかにし、排除する設計にすることによってシステムの効率性を高める。

例えば3原則の中でも一番大事だと言われる「ゴミ・汚染を出さない設計」を人事システムに置き換えると、早期退職者やメンタルを悪化させてしまう従業員や活躍できない従業員など、自社の事業成長の過程で発生する負の外部性を排除できるように採用から組織までをどのように設計するか、という話につながります。

また、二番目の「製品と原料材を捨てずに使い続ける」は、人材を採用した以上、配置転換やリスキリングなどを通じてできる限り長く活躍し続けてもらうという話につながります。一人の人材は多様な可能性を秘めているという前提に立つと、Aという仕事ではうまく成果を出せなかった人が、Bという仕事では輝くというケースはよくあります。

サーキュラーエコノミーでは、リユースやリペア、リパーパスなどを通じてひとつの資源からどれだけ多くの価値を引き出し続けられるかという資源生産性が問われますが、HRにおいても、どのようにその人の価値を最大限に引き出し続けることができるかはとても大事だと思っています。

そして、その結果が一番目の原則となる「自然のシステムを再生する」につながっていきます。組織としての活動を通じて、そこに関わる個人やその先にある社会、地球というシステム全体がよりよくなっていく仕組みをどのように作るか、まさにリジェネラティブ(再生的)な組織づくりが大事であり、これら3つの原則はHRのエッセンスにも置き換えられるのではないでしょうか。

大島 崇
大島

1997年にスマントラ・ゴシャールという学者が共著で書いた『個を活かす企業』という本があるのですが、まさに「個を活かす企業」が現実に要求される時代になってきているのかなと思います。

企業に対しては「人材を使い捨てにしない」ことへの期待が高まっていますし、何より日本では労働人口が減少していくなかで、簡単に使い捨ててしまったら「もったいない」という話があります。大量生産・大量消費・大量廃棄する時代の終焉をHRの文脈で語るとすれば、バブル崩壊後に就職氷河期を経て若手がいなくなったから大量に採用したものの、育てることができずに大量に辞めていき、非正規雇用が増えましたという時代から、やはり次の時代へと変わっていく必要があります。その意味で、サーキュラーエコノミーはHR業界とすごく符合する話なのかなと思っています。

加藤 佑
加藤

サーキュラーエコノミーは、先ほどの3原則に基づいて経済成長と環境負荷をデカップリング(分離)させるところがポイントなので、いわゆる「Planet(環境)」と「Profit(経済)」の話はすごく結びつくのですが、欧州でも議論されているのは、それだけではなく「People(社会)」の視点も大事だよねという観点です。

経済を移行させるのはもちろん人ですし、経済の在り方が変われば新しい雇用が生まれる一方で失われる雇用もあるので、どのように包摂的に移行を実現し、その恩恵を全員にもたらすことができるのか、という論点があります。

また、経済モデルが変わるということは、企業の在り方も変わるということ。企業が変われば、ビジネスモデルが変わり、ビジネスモデルが変われば人事のモデルも変わります。そして人事が変われば個人の働き方も変わるということで、HRの世界にも大きな変化をもたらします。

例えば、これまで静脈産業と呼ばれていたような産業や仕事に注目が集まり、新たな人材ニーズが生まれたり、新しい経済ルールに対応できる新しいスキルを身につける必要性が出てきたり、そもそものトランスフォーメーション(移行)自体を推進できるリーダーシップを発揮できる人材の重要性が高まったりなど、様々な変化が考えられます。

大島 崇
大島

おっしゃる通り、人材戦略は事業戦略、企業としての在り方や成長戦略とリンクしており、分かちがたいものです。少し遠いところからお話をすると、日本企業には「系列」というグループ会社のシステムがありますよね。日本企業には「出向」という概念があり、例えば私の前職のIT業界だと、現場のシステムコンサルタントやプログラマーが、ITとは全く関係ない人材育成を担うグループ会社に出向になったりするわけです。こうした出向ってネガティブなイメージがあるかもしれませんが、IT企業にとってはユーザーのトレーニングなど、教育する人たちも必要なわけですよね。出向により出世街道から外れてしまったというマイナスの考え方ではなく、サーキュラーな組織の中での役割が変わっただけで、そこでの貢献によって個人も誇りを持てるようなコーポレートカルチャーや、リスキリングを通じてその人に再び光が当たるような事業モデルをどのように構築していくのか、そこへの転換がセットになるかなと思います。

サーキュラーエコノミー時代に求められる「日本型雇用2.0」

加藤 佑
加藤

日本的な経営とサーキュラーエコノミーとの兼ね合いは僕も興味があります。いわゆる日本型雇用には新卒一括採用やジョブローテーション、年功序列、終身雇用など様々あると思うのですが、その中にももしかしたらサーキュラーエコノミー時代のHRを考えるうえでのヒントもあるのではないかと思っています。

なぜかというと、これからビジネスモデルがサーキュラーなモデルへとシフトしていくと、職種の在リ方も変わっていくのではないかと思うからです。例えばデザイナーの仕事は、これまでは「売れる」デザインを作っていればよかったのが、サーキュラーエコノミーでは回収やリユース、リファービッシュ、リサイクルなどを前提に考えるサーキュラーデザインが求められるようになります。製品を解体しやすいモジュールデザインなどですね。これを実現するためには、デザイナーが素材や製造だけではなくバリューチェーン全体の仕組みを深く理解する必要があります。

また、営業も、これまでは「売るまでが大事」だったのが、サーキュラーエコノミー型ビジネスの核となるPaaS(Product as a Service:メーカーが製品の所有権を手放すことなく、ユーザーに貸し出す仕組み)モデルに移行すると「売ってからが大事」になります。購買や調達の仕事も、これまではサプライヤーからバージン素材を購入すればよかったのが、これからはユーザーから製品を回収し、そこからリユースやリサイクル素材を取り出すことになるので、調達先がサプライヤーから顧客に代わり、営業やカスタマーサポートの仕事との境界線がシームレスになっていきます。エンジニアリングについても、これまでは技術を囲い込むことが重要でしたが、サーキュラーエコノミーの中で製品の回収効率やリサイクル率を高めるためには競合同士が協力して原材料や機能に関する技術的な部分を標準化・規格化していく必要があり、よりオープンなイノベーションが求められるようになります。

これまでのリニアな時代の組織は、いわゆる機能ごとに縦割りに最適化をすることで効率を高めようとしていたと思うのですが、サーキュラーエコノミーの場合、素材の調達、製品のデザイン、販売、顧客対応、製品の回収といったバリューチェーンを横断的に考えていく必要性が高まります。そうなると、いわゆる日本型雇用におけるジョブローテーションのように、職種別採用ではなく様々な部署を横串で経験していける人事システムのほうが、結果としてサーキュラーなモデルを実現するうえで早道になる可能性もあります。仮にジョブローテーションはしないとしても、職種・部署横断的な取り組みを進めやすくするようなガバナンス、組織モデルが求められることは間違いありません。

大島 崇
大島

そうだと思います。だからこそ、ジョブ型雇用に対する形でのメンバーシップ雇用、それも、従来のモデルをアップデートしたメンバーシップ雇用2.0や終身雇用バージョン2.0のようなものが求められているのではないでしょうか。日本企業にはグループ会社も含めて最初から循環的な事業モデルが存在していて、上も目指していきながら横にも戦略的にローテーションを回していくということを得意としてきました。営業経験を積んだ人が一度は製造や生産に近いところに異動する、本社に異動するなど、様々な経験を積ませることで人を成長させてきたという日本の強みに光が当たるチャンスでもあるというのは、HRの観点からもその通りだと思います。

終身雇用2.0と申し上げたのは、これまでの終身雇用は「一生雇用を守ります」という会社からのメッセージであり、従業員もそれをよいものとして合意していたわけですが、これからは企業と個人の双方がロングタームでの持続的な成長を実現するために、どのような関係を築いていくのが一番良いか、という話に移行していくと思っているためです。リンクアンドモチベーショングループでは相互拘束関係から相互選択関係への変化ということで、創業当初から提唱していた話です。

例えば、日本は100年以上続く企業が世界で一番多いわけですが、中長期的に持続している企業というのはもともとロングターム思考を持っていて、変化の激しい世の中であっても自分たちの明確なコアがあり、目先のことで一喜一憂しない思考法・雰囲気が醸成されています。それが会社の中で代々受け継がれ、従業員にも受け継がれてきた結果、企業も個人も様々な変化を受け入れながら持続的に成長している。これが終身雇用2.0なのかなと。

一度入社したら安泰なのではなく、企業も個人も持続的な成長のために努力をし続けなければいけません。個人もリスキルをし続け、常に会社から要求されるものに対して学び続ける姿勢が求められるので、終身雇用が持つ「ぬるい」イメージではなく、お互いに一定のテンション、緊張感がある状態です。

変化が激しいからこそ、サーキュラーな形で成長していくためには、企業はこれまで以上に経営能力を高めなければいけないし、個人は学び続けなければいけない。サーキュラーエコノミーの話をするまでもなく、企業と個人の関係はこのようにだいぶ様変わりしているのではないかと思います。

個人が企業の枠を超えていく時代に必要なのは「コントリビューション・マネジメント」

加藤 佑
加藤

大島さんの終身雇用2.0の話、とても面白いですね。サーキュラーエコノミーでループを実現するためには、同業種同士や異業種同士、バリューチェーン上にいる企業同士など、企業が自社の枠を超えてパートナーシップを進めていく必要があります。

企業内における部署の連携もそうですし、このような企業と企業の連携も必要になっていくということを考えると、サーキュラーエコノミーの時代では自分の専門性を持ちつつも、自分の領域をクロスボーダーできる人材のニーズは非常に高まっていくのではないかと思っています。これは人材のタレントシェアリングという話にもつながってくると思うのですが、個人が様々な職能を持っていて、あらゆる部署や会社で仕事ができる状態が、個人の視点ではとてもレジリエンスが高い状態だなと思っていまして、そういう時代になったときに、企業はどのようなスタンスで個人と関わっていけばよいのかが気になるところです。

人材のシェアが当たり前になると、自社のために人材を囲い込むというのは難しいと思うのですが、その中でも自社へのエンゲージメントを高めてもらうためにどのように努力をすればよいのでしょうか。

大島 崇
大島

僕はHRM(人的資源管理)という概念がもう古いのだろうなと思っています。サーキュラーエコノミーへと変化していくと、大事になるのは「コントリビューション・マネジメント」だと思っています。

コントリビューション・マネジメントとは、その人のこれまでの経験や職能から、どのような貢献を引き出すか、という意味です。例えばよくある話として、副業のメンバーがいたときに、その人をヒューマンリソース(人的資源)として捉えるのではなく、その人からどのようなアウトプット、アウトカムを引き出すかという観点から、様々な関係を作れるように企業側が変化していくとよいのではないかと思っています。

これはもともとリンクアンドモチベーションが大事にしているチェスター・バーナードの『経営者の役割』という書籍にも書いてあるのですが、組織というものは人間、個体というよりも貢献、コントリビューションの概念で構成されているので、その意味では古くて新しい考え方とも言えます。本来的には、その人からどのような貢献を引き出したいから、人間個体としてのエンゲージメントにアプローチしていくというのが正しい順番なのかなと思いますね。

加藤 佑
加藤

なるほど。どのように貢献を引き出すかという視点から優先順位を考えると、副業で関わってもらったほうがよい人もいれば、完全に自社にフルコミットしてもらったほうがよい人もいますよね。

大島 崇
大島

そう思います。クロスセクションで活躍できる人材は、その状態からの貢献を引き出したいのでやはり結果的に副業・兼業という形になると思いますし、逆に、ひとつの会社で深いレベルで職人的に貢献するという形もあると思います。一律に「副業・兼業万歳」ということではなく、そもそもその人の貢献を最大化する手段として副業や兼業があるのではないかということですね。

人材が流動化する時代だからこそ、企業は教育に力を入れるべき

加藤 佑
加藤

とても勉強になります。その流れでもうひとつ質問なのですが、副業や兼業なども増えていく中では、教育というテーマがとても大事だと思っています。人材が流動化していくと、究極的には個人のスキル開発の責任を企業と個人のどちらが持つのかという議論が出てきますよね。一般的には、人材の流動性が高まるほど企業にとっての人材教育の投資対効果が下がってしまうため、個人にスキル開発の責任を委譲していき、個人は自分に投資することで身につけたスキルを切り売りすることで企業から対価をもらうという形になっていくのではないかと思います。フリーランスや業務委託としての働き方のイメージに近いですね。

一方で、僕はこれからも生き残る企業は、自社にとって投資対効果があるかどうかというよりも、社会全体のために人材を教育していくというか、ある意味で学校のような組織なのではないかと思っています。教育は社会にとってのコモンズ(共有財)を作ることと一緒なので、自社のためにというよりもその人の能力が開花するような機会を十分提供してあげられる企業ほど、結果的には選ばれるのではないかと思います。

今の時代だからこそ、せっかくお金をかけて教育をしてもすぐに辞めるかもしれないという考えを捨てて、人の育成にしっかりと取り組むことがとても大事なのではないかと思うのですが、大島さんはどのようにお考えでしょうか?

大島 崇
大島

教育・育成の機能を持たない企業というのは、やはりサーキュラーエコノミーとの相性が悪いというか、責任を外部化している状態ですよね。人の能力をどう開花させて貢献につなげていくかということについては、個人の責任だけにするのはよくないし、教育・育成を通じて企業のカルチャーやパーパスなどが染みわたっていくということを考えても、流動性が高いから教育・育成の外部化が100%になるというのは筋が悪そうだなという気はしますね。

加藤 佑
加藤

公共の人材プールをいろんな企業がみんなでつくるというイメージが良いかなと思うのです。そこに参加しなければ、当然ながら他の会社が教育してくれたことで優れたスキルや経験を身につけた人材も手に入らない。だから自社も一生懸命従業員を教育して、将来的には辞めてしまうかもしれないけれども、その分同じように他の企業が教育してくれた人をそのプールから調達するという。大島さんのおっしゃる通り、サーキュラーエコノミーの視点でも効率だけを考えて教育を外部化しないという視点はとても大事だなと思います。

大島 崇
大島

近代国家が成立、存続の要件に入れているのは教育ですよね。人間として相手に関わり、影響を与えていくという意味では、教育・育成はそれほど難しくないというか、どんな人でも関われる余地があると思うのです。教育・育成という軸があれば、企業の中にいる人は様々な形で貢献できるのではないかなと思います。例えば営業のパフォーマンスは光らないけれども、部下からの信頼は厚いとか、面倒見がいいとか。杓子定規にパフォーマンスだけを見て「下位3%は辞めてください」みたいな世知辛い話になると、人間の社会にあるような多様なものさしが企業の中にもたらされず、結果として多様な人材の活躍の場が失われていくのかなと思いますね。

サーキュラーな組織と多様性

加藤 佑
加藤

今日は多様性の話もしたいと思っていました。サーキュラーエコノミーは、結局のところ、限られた資源やひとつの製品からどれだけ長く、多くの価値を引き出し続けられるかというのが一番のポイントになっています。その意味では大島さんがおっしゃるように、多様な価値を引き出せる多様なものさしを持っていたほうが、サーキュラーエコノミーが実現しやすくなります。

誰かにとってのゴミが、誰かにとっての資源になるというのがサーキュラーエコノミーですが、そのマッチングを実現するためにはやはり違う立場の違う価値のものさしを持った人同士が出会う必要があって、その意味で多様性はサーキュラーエコノミーの実現にとって、とても大事なキーファクターになっていると僕は思います。

最近は組織においても「多様性」が議論テーマになっていると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?

大島 崇
大島

私の中では先ほどの「貢献を引き出す」という点とセットなのかなと思っています。よく多様性の議論で注目されがちなのは、人の価値観や能力の多様性だと思うのですが、少し引いてドライに考えると、それは当たり前ですよねと。もともと人はそれぞれ多様で異なるのだから、多様性を企業の中に取り込むというよりも、そもそも多様な人たちからどのようにその人ならではの貢献を引き出し、企業成長につなげていくかという、マネジメントと経営の話なのかなと思います。

今の日本企業が掲げている理念って、実際には個人はとても多様なのに、会社で求められる一様性に従業員をフィットさせて無理やり制服の中に押し込めるというか、それでも価値を発揮できる人たちだけからしか貢献を引き出せていないという状態だと思うのです。

加藤 佑
加藤

たしかに、”ひとつのものさし”しかないと、必ず競争社会になるので勝ち負けが生まれ、そのものさしの中で勝てる人しか評価されないですよね。多様なものさしを持つことで多様な個人から引き出せる貢献を最大化するというのは、まさにサーキュラーエコノミーそのものですね。

サーキュラーエコノミーがシニア人材の活躍を広げる

加藤 佑
加藤

今の話もとても勉強になったのですが、もうひとつ仮説としてあるのは、サーキュラーエコノミー時代になるとシニア人材の価値もさらに見直される可能性があるという点です。サーキュラーエコノミーはバージンマテリアルといわれるような地球から新たに採掘された資源よりも、一度ユーザーが使ったリサイクルマテリアルのほうが優先されるシステムです。

新しいものをこれ以上使わないようにするということが大事な価値観となると、企業も新たにどんどん新規事業をやるというよりも、今すでにある事業や今すでにいる人材からどれだけその価値を最大限に引き出すか、という方向に価値観も変わっていく可能性があるのかなと。すると、いま多くの企業で課題となっているシニア人材の活用というテーマも、すごくポジティブな文脈になるのではないかという期待もあります。

新しい人をどんどん採用するということも大事なのですが、採用してダメだったら使い捨てるというのではなくて、今いる人たちからどうやって最大の価値を引き出すか、多様なものさしを持つことで今まで光が当てられていなかった一人ひとりの価値を見出し、新たに貢献できる余白を創り出すという考えもあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

大島 崇
大島

日本の場合、特にシニア人材は年齢で分けられていたり、役職定年などもあったりしますが、仮に新卒で入社したタイミングから年齢的にシニアと呼ばれるまでのキャリアを早いうちからロングタームで考えられる機会があれば、急に役職定年になって気分を害するとか、へそを曲げるということもなくなるのかなと思います。

シニア人材になってから既存素材としてどう活用するかと話すのではなく、22歳の大卒のメンバーに、50歳のときの状況をきちんと伝えていき、どういった活躍や貢献の仕方があるのかを丁寧に伝えていく。そうすることがサーキュラーエコノミー的なHRというか、コントリビューション・マネジメントを考えるうえで大事だなと思いますね。

加藤 佑
加藤

今の話は、本当にサーキュラーデザインの考え方そのものですね。製品をつくる最初のタイミングから、回収やリサイクルするときのことを考えてデザインしておくという。人事制度も同様で、その設計がないと、最終的にどこにも活躍の場を見出せない人が出てしまうというのはお話を聞いていて思いました。

モチベーションは「貢献」の実感から生まれる

加藤 佑
加藤

ちなみに、従業員のモチベーションという視点で行くと、サーキュラーエコノミーはどのように関わってきますでしょうか?

大島 崇
大島

繰り返しになりますが、操作主義的にテンションを上げようとか、モチベ―ションを高めようということよりも、一人ひとりの従業員からどのような貢献を引き出したいのか。その手段としてエンゲージメントやモチベーションという観点を捉え直すことが大事だと思います。

僕が「貢献を引き出すのが大事」だと言っているのにはふたつの理由があります。ひとつ目は、もう「ヒューマンリソース」という言い方はしないほうがよいのではないかという考え方。もうひとつは、個人の視点から見ても「これはお客様の役に立っているな」「社会の役に立っているな」「自分はよいことをしているな」という貢献の実感は、働くモチベーションやエンゲージメントにつながると思うからです。

マネジメントとしては、従業員に対して、その仕事がどのように役に立ち、貢献しているのかをしっかりと伝えられるようにレベルアップしていく必要があると思います。どのように貢献しているという実感を持ってもらうのか。そのためには、経営者やマネジメントが思ってもいないのに貢献があるかのように語ろうとしてもだめで、どうすれば一人ひとりが多様な自分らしさを活かして全体に貢献できようなシステムを作れるかというマネジメントが必要なのではないかなと思います。

経営が従業員を「使う」という概念ではなく、同じ生態系にいる一員としての役割分担が経営やマネジメントというだけなので、本当に世の中の役に立っていこうという考えがカルチャーとして根付いていて、それが従業員のモチベーションにつながっていないと、これからの企業はうまく回らないのではないかと思いますね。

加藤 佑
加藤

企業としては個人から貢献を引き出す。一方で、ただ貢献を引き出すだけではなく、実際にどのような貢献だったのかをしっかりと伝えいくということがとても大事になりますね。また、ここでいう貢献は、最終的に企業が儲かったということではなく、お客様とか、その先にある社会全体とか地球全体に対して貢献できているという、個人からの企業に対する貢献と、その企業の社会に対する貢献のベクトルが一致していないとこれからの時代はだめだということですね。

大島 崇
大島

そうですね。ロングタームというのはまさにそういうことなのかなと思っています。終身雇用2.0というか、サーキュラーエコノミーの時代では、企業の側が絶えず個人の空間軸・時間軸を広げる方向にマネジメントしていかなければいけないと思うのです。これは結構大きなパラダイムシフトで、「僕の仕事はゴミ拾いです」という人に対して、心の底からそうではなく、その仕事が世界や地球全体につながっているのだという手触りのある実感を持ってもらう必要があるのかなと思っています。

最近は企業よりも個人が強いと言われますが、それは個人のほうが企業をワン・オブ・ゼムだと捉えているからです。つまり、個人が考えている時間軸・空間軸よりも、一社が提供できる時間軸・空間軸のほうが小さくなってしまっているということだと思うのです。

私も今の新卒のメンバーを見ていると、自分が全然考えていなかったような視野の広さを持っているので、とてもリスペクトしています。この地球は大丈夫なのか、という視点で人生や世の中を捉えている人に、1日100件テレアポをやってくれという指示をするまでの間にはだいぶ距離があるわけです。

加藤 佑
加藤

なるほど。確かに、企業が個人に提供できる時間軸や空間軸が狭いと、当然その枠を超えた瞬間に離れていきますよね。だからこそ企業はその軸をより広く提示できる必要があって、それがいわゆるパーパスとも呼ばれる部分になるのかなと思います。

企業と個人は、「意味」でマッチングされる

加藤 佑
加藤

企業としてどのように社会に貢献していくのかというパーパスが明確にあって、そしてそのためにはあなたのこうした貢献が必要なのだというストーリーを一気通貫して伝えていく必要がありますよね。THE MEANING OF WORKというのは本当にすごくよい名前だと思うのですが、今求められているのはまさにこの企業のパーパスと、個人のパーパス(THE MEANING OF WORK)のマッチングだと思うのです。

だからこそ、企業もうちはこういう「意味」を提供できるということを言えないと、同じ意味を探している人とはマッチングができないし、それを伝えないとミスマッチになってしまう。お金とか、手段でマッチングするのではなく、WHY(存在意義)の部分でマッチングしないといけない時代には、パーパスを掲げられる企業は強いなと思いますね。

大島 崇
大島

そうですね。これは反省も含めてなのですが、「貢献を引き出す」という考え方を持った次の段階が、なるべく短時間で最大の貢献を引き出そうみたいなことになるのもだめだと思うのです。例えば、従業員のライフステージに応じてなど、焦らずにときには休むことも大事にしながら長期的に貢献を引き出していくという考え方もあるわけです。

私もスピードはひとつの価値だと思っているのですが、変化が激しいということと、スピードを上げなければいけないということは別だと思っています。働くうえで人が持っている時間軸は様々にあります。個人によっても違うし、ライフステージによっても違う。そこにも多様性が大事だなと思いますね。

先ほど加藤さんがおっしゃっていたように、ものさしがひとつしかないと競争がはじまって、スピード、スピードとなるのですが、自然には草食動物もいれば肉食動物もいるし、昼行性もいれば夜行性もいて、まさに生物多様性なわけです。サーキュラーな地球のシステムが存在しているとすると、早いことはもちろん価値にはなるわけですが、それだけではない。

パーパスを考えるうえでも、やはり時間軸というかどんなスピード感でやっていくのかを考えることは結構大事だなと思いますね。僕も基本的にはスピードは速いほうがよいと思っているのですが、できる限り短時間でたくさんの貢献を引き出そうとなってしまうと、また大量生産・大量消費・大量廃棄みたいな話になってしまうなと。即戦力とかという言い方はもう辞めようといった価値観があってもよいし、大器晩成みたいな考え方も大事になってくるのではないかと思うのです。

多様なものさしが、多様な人の貢献を引き出す

加藤 佑
加藤

本当にそうですよね。生態系の多様性そのものだと思うのですが、アリやハチにも、働かない個体がいますが、それによって全体としてのレジリエンスを高めているという側面があります。例えば、普段は全く働かないけれども、今のパンデミックのような緊急時になると、とたんに活躍するという人もいたりするわけで、そうした多様な人々をひとつのものさしで一律に評価するというのは本当に難しい。だからこそ、組織の中に多様なものさしが必要で、それこそが組織のレジリエンスにもつながるのではないかと思います。

もし人を大事にする会社が失敗するとしたら、そうさせてしまう世の中のシステムのほうがおかしいと思うのです。できる限り一人ひとりの潜在能力を引き出してあげて、うまく組織や社会に貢献できる余白を作り、そこに生きがいもやりがいも報酬も提供し、辞める、辞めないに関係なく人として長期的な関係性を築いていく。それがすごく安心につながるし、素敵だなと思います。

大島 崇
大島

先ほど「包摂的に」という言葉がありましたが、僕もこれはキーワードだなと思っています。「人が大事です」とコーポレートサイトに書いてある会社はたくさんあるのですが、本当に人を大事にしている会社はあまり多くありません。

言行不一致というか、多くの場合、人を大事にしますというのはその人がもたらしてくれる営業成果が欲しいだけで、全人格的に包摂するという発想ではない。ロングタームで考えて中長期的にその人から貢献を引き出そうと思えば、終身雇用1.0の社宅とかも、単なる福利厚生ではなく、中長期的に活躍してもらうための投資となっているわけです。赤ん坊にいきなり「自活・自炊しなさい」とは言わないのと一緒で、若いうちは一定程度生活の基盤を提供してあげたほうがよいよねと。福利厚生などもそういう光の当て方や位置づけで捉え直すのがよいかもしれないですね。

加藤 佑
加藤

まさにそうですね。サーキュラーエコノミーへの移行を実現するのも、その新しい経済システムの中で生きるのも、結局は私たち「人」です。組織も企業も、関わる人をどれだけ幸せにできるかという視点からシステムを考え直していくと、自然とサーキュラーな仕組みになっていくのではないかなと思いました。今回は本当にたくさんの新たな視点をいただき、本当にありがとうございました。

大島 崇
大島

ありがとうございました。

【編集後記】

サーキュラーエコノミーが、企業の組織や個人の働き方にどのような変化をもたらすのか。その答えは誰もが分かっていませんが、大きな経済システムの転換が、企業や組織の在り方を根本から再構築していくことは間違いありません。

人も組織も、地球と同じ生態系の一部として存在している有機的なシステムであり、地球が持つ循環型のシステムと切り離して考えることはできません。その意味で、今こそ38億年をかけてR&Dを繰り返してきた生態系という循環型のシステムに学びながら、地球と共生する組織の在り方を模索していくことが、来たるサーキュラーエコノミー時代を生き抜く企業にとっての大きなアドバンテージになる可能性があります。

サーキュラーエコノミーの時代に個人から選ばれ、一人ひとりの才能や貢献を引き出せる組織の在り方とはどのようなものなのでしょうか。ぜひこれからも皆さんと一緒に議論を深めていければ幸いです。

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