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問う力と語る力

問う力と語る力

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  • 広江 朋紀

    広江 朋紀 Tomonori Hiroe
    株式会社リンクイベントプロデュース ファシリテーター

    産業能率大学大学院卒(組織行動論専攻/MBA)出版社勤務を経て、2002年に(株)リンクアンドモチベーション入社。HR領域のエキスパートとして、採用、育成、キャリア支援、風土改革に約20年従事し、講師・ファシリテーターとして上場企業を中心に1万5,000時間を超える研修やワークショップの登壇実績を持つ。参加者が本気になる場づくりは、マジックと呼ばれるほど定評があり、「場が変わり、人がいきいき動き出す瞬間」が、たまらなく好き。主要書籍5冊、論文寄稿、大学での特別授業、日経MJへの連載寄稿等、多数。育休2回。3児の父の顔も持つ。

変化が激しく、絶対解を示せない不確実の時代、リーダーには、皆で共創解を生み出す対話の切り口となる「問いかける力」と、未来に向けてメンバーの心を束ね、集団としての力に変えてゆく「ストーリーを語る力」の両方が必要だ。良い問いには、思考を深め発見を促したり、良いストーリーには、理屈を超え人の感情を揺さぶる力がある。本コラムは、これからのリーダーが磨くべき問う力と語る力を伝える。

指示・統制型リーダーの限界

これまでリーダーは、問題が起こるとメンバーへ質問し、状況を把握、指示を与え、解決に向けリーダーシップを発揮してきた。置かれた状況がシンプルで、環境も安定している際には、リーダー自身の経験則を活かしながら対応可能な効率的なスタイルといえる。一方、変化が激しく、先の見えない今、これまで通りのやり方に限界がきているのは明白だ。特に、従来の一方的な確認や質問の形を借りた指示・命令は、問題の対処療法的な反応はできても、根本的な解消や新しいアイデアの創発を引き出すことに限界がある。

そこで提案したいのが、状況把握、指示型の問いかけから、メンバーを支援し、皆の知を持って、肯定的な未来を探求していく新しい問いかけへのシフトだ。古くは、フランスの哲学者、ヴォルテールも「人を判断するには、どのように答えるかではなく、どのような問いを発するかによるべきだ」と格言を残しているように、これからのリーダーは、一人で答えを出すのではなく、優れた問いを立て、周囲に問いかけ、対話し、最適解を創ってゆくことが必要だ。そうした時代に相応しい4つの問いかけと陥りがちな罠を紹介する。

指示・統制型リーダーの限界

4つの問いかけ法と陥りがちな罠

状況別問いかけ法

1.調査的問いかけ

When(いつ) Where(どこで) What(何が) の疑問詞を使いながら、事実情報の収集、調査を行う問いかけ。陥りがちな罠は、一方的な質問を相手にし続け「取調べ」と化すこと。特に、Whyを使った「なぜ、こんなことに?」やWhoを使った「誰がやった?」と「なぜ」や「誰」を繰り返すと相手を問い詰める「詰問」「尋問」になりがち。原因を追究しても、問われたほうは「すみません。」と謝るか、「なぜなら・・・」の言い訳につながりやすい。あくまで、現状把握のために事実ベースで状況を確認することが有効だ。

2.提案的問いかけ

「問題を解決するために、この案を実行してみるのはどうだろうか?」と実行に向けた提案をする問いかけ。特に未経験者や若手など、該当分野における習熟度が低いメンバーには、育成とスピーディーな解決のために、この問いを使うことが効果的な局面もある。

陥りがちな罠は、相手に同意する以外の反応を認めない押し付けや、質問の形を借りた命令になりやすいため、強制にならないように相手の意思を尊重したり、その提案を実行することの目的、意義、価値を伝え、相手の納得感を醸成する工夫も必要だ。

3.探求的問いかけ

従来の既成概念に縛られずに柔軟な発想で探求する問いかけ。複雑性が高く、問題の因果関係も不明瞭な際は、目に見える事柄だけを扱うのではなく、全体構造を俯瞰したり、要素間のつながりに注目するなど、事柄を真正面から捉えるだけではなく、距離感や角度を多面的に変えて問いかけることが有効だ。具体的には、時間軸「この状態が続くとどうなる?」 空間軸「ひいて全体から見ると?」 目的軸「そもそもなぜ必要?」 他社軸「競合ならどう考える?」 IF軸「もし無限に予算を使えたら?」…といったようにリフレームすることで思考の行き詰まりを突破する。

陥りがちな罠は、「○○すべき」と考える常識や通説、過去慣例の踏襲といった既存の枠組み。何でもありの発想で自由に問いかけてみよう。

4.共創的問いかけ

明白な答えを誰かに与えるのではなく、「わたしたちは、どのようにすれば、それが可能となるのだろう?」と主語は相手(You)ではなく、わたしたち(We)に置き、どのようにすればという(How)を中心とした視点を拡げるオープンな問いかけ。答えを限定せず相手が自由に回答できるオープン・クエスチョンは、一緒に問題を考えようという共創的なメッセージが伝わる。また、姿勢として、相手に偏見を持たないこと、自分の判断を保留して謙虚に問いかける姿勢も必要だ。関係者全員で本音の対話がなされ、自らの意見や価値観を変容させながら、生み出された解には、一方的に提示された解よりもはるかに多くの責任感が生まれ実行に向けたエネルギーが湧いてくるはずだ。

陥りがちな罠は、自分で何でもやろうとする、閉じようとするリーダーの執着心。リーダーの1歩より全員の100歩の大きさを踏まえよう。このように、正解のない時代に、状況に応じた「問いかけ」をすることを、新しいあり方として取り入れてみるのはいかがだろう。いつもの問いを、探求や共創的問いかけに変えてメンバーの意欲を高め、問題解決と未来創造に導いていくリーダーシップが必要だ。

そして、上記の「探求的問いかけ」や「共創的問いかけ」をチームで行うことが対話だが、そもそも「対話」とは何だろうか?

勘違いしがちなものに、ディスカッション(議論)やカンバセーション(会話)がある。ディスカッション(Discussion)は、語源に「打ち砕く」という意があるように、どちらの意見が正しいか、正しくないかを表す。それは、AとBという異なる意見があった場合、議論をしても、その本質は変わらず、どちらかが勝ち、どちらかが負けるという形になる。またカンバセーション(Conversation)は、語源に「共に交わる」という意があるように、互いに意見を主張して終わることが多く、そこから新たなものが生まれる可能性は低い。一方、対話は、共同で達成されるものであり、AもBも意見が変化し、かつ双方が新たなステージにたどり着くことができることを意味する。

この対話のプロセスでは、個人が持っている既存の枠組みや発想を、いったん「保留」することに価値がある。相手の考えにレッテルを貼り、早急に判断を下すことや、落としどころを用意することを「保留」しよう。相手の話をじっくり聴くだけでも、慣習となっているパターンとは異なる反応が引き出され、視座の転換がなされたり、新たな発想やアイデアがその場所から生まれることが可能になるはずだ。

感情を揺さぶるストーリーテリング

人類は、遥か有史前から数千年に渡ってストーリーを語り継いできた。狩猟民族時代、夜、猛獣から部族の身を守るために、火を焚き、囲み、自らの体験や部族の冒険談、神話、教訓、戒めなどのストーリーを子々孫々、脈々と語ることで、集団の規範、DNAを継承し、生きるための行動に活かしてきた。こうしたストーリーには、ロジックによる理解を超えて、聞き手の感情に訴えかける共感や想像を掻き立てる不思議な力がある。こうした感情に訴えるパワフルなストーリーを語るには、どんなことに留意すべきだろうか?聞き手が奮い立つ、ストーリーを語るコツを紹介する。

1.ワクワク(情熱)から始めよ

他人を感動させるには、まず自分が一番、感動していなければならない。言っていることと、信じていることが不一致の状態では、他人に影響を与えることはできない。自分がどんなワクワクに突き動かされているのか、心躍り、震える、情熱から始めよう。

2.素の自分をさらけ出せ

ストーリーは、着飾って話す必要はない。人は、リーダーの個人的な体験や失敗談、弱さに親しみを覚える。話し手と聞き手の間には見えない距離も、リーダーが自らをさらけ出すことで、親しみを覚え、つながりを感じてくれる。

3.障害・葛藤をど真ん中に

人が物語を愛するのは、障害や葛藤のハードルを乗り越える変容というキーラインがあるから。身近な人が好ましい状態に変化したのを見たときに自分にも可能かもしれないという希望が立ち上がることがある。苦闘と救済は、太古から続く人類共通の心に響くテーマであり、物語の成功に欠かせない要素なのだ。

4.聞き手の状況を理解して組み立てよ

ストーリーは、話し手だけのものではなく、聞き手との相互作用によって命が吹き込まれ発展する。ゆえに、聞き手の状況を理解し組み立てることが必要だ。いきなり変化を強要するのではなく、現在への感謝や承認を行った上で変化の必然性を訴える配慮も必要だ。

5.ストーリーは、その場から創れ

ストーリーは、繰り返し語ることで新鮮さが薄れたり、慣れによる慢心が生まれるリスクを孕む。常に心地よい緊張感を持って語るには、いつもの話を繰り返すのではなく、当日の聞き手の反応によって伝え方や配分を変えるなど、そのとき、その場で起こっていることをリソース(資源)として活用し「その場から創って語る」ことも重要だ。

職場で実践!「問う、語る」のための場づくり

人は、客観的な事実の世界に生きているのではなく、自ら解釈し意味づけた世界のなかで生きていると捉える社会構成主義という考え方がある。

例えば、人と交流することが苦手で営業で売れずに自信喪失している人がいたとして、本当にその人は他者より営業力が劣っているのだろうか?答えは否で、実際には、「自分が営業に向いていないという物語」を自身でこしらえているに過ぎない。幼少期からの体験の中で、営業に向いていないという物語を選択して、自らの不適正さを証明しようとする可能性があるということだ。

その「物語」を作った人は、キャリアの選択肢に営業職を外すかもしれないし、人付き合いで苦労しそうな職業やポジションは避けたり、距離を置くかもしれない。しかし、実は選択されていないエピソードに、「ひとつのことを深く掘り下げることが得意」だったり「オリジナリティのある発想力がある」などが隠れている可能性がある。

語られていないエピソードを焦点化する

語られていないエピソードを焦点化する

この語られていないエピソードに光を当て、自分でも気づいていない新たな一面と出会い、その気づきを分かち合うことで職場を活性化する一助になるのが、これから紹介する「他己紹介インタビュー」だ(他己紹介インタビューシート参照)

他己紹介インタビューシート

この語りえぬエピソードの中に未来の新しい自分をつくるリソースを探すには、「問い」の切り口を変える必要がある。子供の頃から好きだったこと、夢中になったこと、今の会社を選んだ理由、胸に秘めた将来の野望など「営業に向いていない」自分以外を焦点化する問いを立て、他者にインタビューで引き出してもらう。そして自分で解釈するのではなく、他者に総括的に、「○○さんは、実は○○なことを大事にする人なのです。」と他己紹介してもらう。すると、自分では、解釈や意味づけのできなかった新しい自分(本来の自分)がその場に立ち上がり、それを互いに紹介しあうことで、場にエネルギーが吹き込まれる。リモート環境でもできる簡単な対話なので、ぜひ、あなたの職場でも実践してみて欲しい。

職場でもコナトゥス(本来の自分)を取り戻せ!

最後に、17世紀の哲学者スピノザが説いた「コナトゥス」という考え方を紹介したい。コナトゥスとは、ラテン語で「努力」「試み」「衝動」などを意味するが、スピノザ思想においては自身の本質、すなわち「本来の自分であろうとする力や衝動」のことを指す。一方で、私たちは、コナトゥス的な、「本来の自分であろうとする力や衝動」を大切に生きているであろうか。社会生活を送っているうちに、知らず知らず、社会通念的な常識やモノサシに毒されて、本来の自分とはかけ離れた状態になっていることが多いのではないだろうか。先に紹介した「他己紹介インタビュー」は、「営業は、外向性の高い人間が成果をあげる職種である」という社会通念の呪縛から本来の自分を取り戻すコナトゥス発見、回復を狙いとしたものである。

職場でもコナトゥス(本来の自分)を取り戻せ!

エンゲージメントの高い職場の本質は、組織の共通の目標(共通善やパーパス)に向かって個人の多様性のあるコナトゥスが束ねられて力が発揮されている状態に他ならない。ゆえに、リーダーは、常に心理的安全な場をつくり、個人のコナトゥスを問う力と組織の共通の目標を語る力、そして、両者を統合するファシリテーティブなリーダーシップが不可欠なのである。

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