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ファシリーダーは、話すより聴く

ファシリーダーは、話すより聴く

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  • 広江 朋紀

    広江 朋紀 Tomonori Hiroe
    株式会社リンクイベントプロデュース ファシリテーター

    産業能率大学大学院卒(組織行動論専攻/MBA)出版社勤務を経て、2002年に(株)リンクアンドモチベーション入社。HR領域のエキスパートとして、採用、育成、キャリア支援、風土改革に約20年従事し、講師・ファシリテーターとして上場企業を中心に1万5,000時間を超える研修やワークショップの登壇実績を持つ。参加者が本気になる場づくりは、マジックと呼ばれるほど定評があり、「場が変わり、人がいきいき動き出す瞬間」が、たまらなく好き。主要書籍5冊、論文寄稿、大学での特別授業、日経MJへの連載寄稿等、多数。育休2回。3児の父の顔も持つ。

リーダーが、聴く力を高めることで、メンバーの感情報酬を満たし、組織へのエンゲージメントを高めたり、チームの創造的な活動を支える土台となる「心理的安全性」を高めることにつながる効用がある。本コラムでは、聴く力の本質と傾聴の秘訣について探求していく。

リーダーに求められることは、組織の結節点、つまり車輪の外周と車軸をつなぐスポークが集中する「ハブ」として、一緒に働く人と人をつなげること。そして、未来に向かって前進するためにあらゆる情報を収集・受信し、モチベーションを引き出し、人をまとめチームを前進させていくことである。

いわば、リーダーの仕事の大半は、コミュニケーション活動に費やされる。

コミュニケーションというと、話し方や伝え方に焦点が当りがちだが、聴く力を高めることで、メンバーの親和欲求・成長欲求・承認欲求・貢献欲求など、感情報酬を満たし、組織へのエンゲージメントを高めることができる。そして一人ひとりと向き合い、その声を聴くことを通じて、メンバーの自己効力感を高めることにもつながる。

そして、何より特筆すべきは、チームが創造的な活動をする上での土台となる「心理的安全性」を高めることにつながる点にある。

聴き合うことで心理的安全性を高める

「心理的安全性」という概念を最初に提唱した、ハーバード大学のエイミー・エドモンソン教授(Amy C. Edmondson)によれば、その定義は、「チームにおいて、他のメンバーが、自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態」(1999年/Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams)とされている。

聴き合うことで心理的安全性を高める

表現を変えれば、お互いがその発言をジャッジすることなく、聴き合っている状態ということもできる。発言がジャッジされないのであれば、メンバーが疑問や懸念、アイデアをなんでも提起できる雰囲気がつくられ、イノベーションの生成につながるだけでなく、隠蔽されがちな組織にとっての不都合な真実(クレームや不正などのバッドニュース)も早い段階で上がってくる正の効用があることは想像に難くない。

ファシリーダーシップの発揮に向けた、6つの機能の最初に「聴く」機能を置いているのもここに理由がある。まずは、リーダーとして、組織やチーム活動の基盤となる心理的安全性を高めておく必要があるからだ。それでは、心理的安全性を高めるような傾聴力は、どのようにして高めればよいのだろうか?

童話モモに学ぶ、傾聴の本質

傾聴の本質を教えてくれる物語に、童話作家ミヒャエル・エンデの「モモ」という作品がある。

童話モモに学ぶ、傾聴の本質
『モモ』 ミヒャエル・エンデ著、大島かおり訳(岩波少年文庫)より

彼女は、じっと座って聴いているだけ。でもなぜか彼女に話を聴いてもらうと、相談した人々は、頭に次々と解決策が思い浮かんでくる。ポイントは、彼女は「話を聴いているだけ」というところにある。リーダーが良かれと思ってしがちなアドバイスの類は、一切していない。

よく会話の中で、メンバーが考えたプランを改善すべく、リーダーがもっと良いやり方を助言することがある。確かにメンバーよりも経験豊富なリーダーの介入によって、当初の案よりも5%くらいはプランが改善されるかもしれない。

しかし、そのアドバイスによってメンバーの自主性が削がれ、実行の度合いが50%落ちてしまったら本末転倒である。あなたもメンバー時代に、上司の口出しでやる気が削がれた 経験は、心当たりがあるのではないだろうか。

傾聴を妨げる8つの落とし穴

傾聴を妨げる8つの落とし穴

 「本当に話を聴けているか?」ここで改めて、問うて欲しい。よかれと思って発した自らの台詞が、部下に思わぬ反応を与えてしまう「傾聴を妨げる8つの落とし穴」を紹介する。自分が陥りがちな落とし穴(パターン)は、いくつ当てはまったであろうか?私たちは、自分のいつもの「落とし穴」に邪魔され、相手の話を聴けなくなることがある。しかし、あらかじめ自分が陥りがちなパターンを認識することができれば、回避することができる。次に傾聴を実践する5つの秘訣を紹介する。

傾聴を実践する5つの秘訣

傾聴を実践する5つの秘訣

その1 リラックスした姿勢

聴くには適した姿勢がある。話を真剣に聴こうとするがあまり、力を入れると、強ばり、緊張し、心に余裕がなくなる。また、それは相手にも伝染し、建前だけの表層的な会話になりがちである。リラックスして聴くには、力を抜き体の重心を下げ、落ち着いてから聴くことが必要だ。また、相手の話を聴いているうちに自分の呼吸が浅くなっていることに気づいたら、深く呼吸しよう。心を落ち着かせたいときには、「吸う息は自然に、吐く息は長く」が基本である。長く深い呼吸で横隔膜が動くと脳幹が刺激され、脳内ホルモンのβエンドルフィンなどの物質が出て心身がさらにリラックスしていく。

その2 相手の目を見すぎない

子供の頃から人の目を見なさいと教えられるが、目の見すぎはかえって緊張を誘う。特に、上位役職者がメンバーの目を凝視すると、メンバーは萎縮したり、上司が喜ぶことを言わねばと真意を伝えづらくなる。意図して相手の目を見るのは、会話が始まった時や相槌を打つ時だけで構わない。私は、あなたのことを評価、判断しようとしているのではなく、理解しようとしているという姿勢が伝わればよい。

その3 うなずき、相槌の認知

うなずきや相槌は、「私はあなたのことを聴いている」ということを伝えるサインである。余計な言葉を挟まないことで、話し手に自由を与える。「うん」「ほぅ」「なるほど」「へぇー」といったシンプルな言葉に、気持ちをしっかり乗せよう。話し手も聴き手の反応には敏感なので、その場しのぎの相槌だと、話し手のエネルギーが下がるので要注意である。相槌はただ打てば良いのではなく、話の流れに沿って打つことが必要だ。相槌の語源は、鋼を鍛えるときの相方の打ち出す槌のことで、タイミングよく打ち手(話し手)のリズムをつかみ、それに合わせて槌を打つ。するとさらに豊かな流れが生まれ、束なり、調和していく。そうして平面から立体的なストーリーに展開し、聴く力を最大限に発揮することにつながる。

その4 「相手の言葉」で繰り返す

繰り返すことで、「私はあなたの話に興味を示している」ということを伝えられる。重要なのは、「相手の使った言葉」で繰り返すことである。言い換えは禁物だ。言い換えには、聴き手の解釈が入りがちで、良かれと思って綺麗な言葉で言い換えてしまうと、自分の言葉を他人の持っていきたいところに持っていかれたように感じてしまうので、注意が必要だ。

その5 沈黙を恐れない

沈黙は金なりと言われるが、沈黙には、相手に本音を打ち明けるスペースを与える。話し手が話し終わり、区切りがついたように見えても何かを考えているような様子があれば、黙して待とう。本当に伝えたいことは、全部話した後にフッと出てくることが多い。焦らず、穏やかに微笑み、体の力を抜き、視線を外して、相手の話をゆっくりと待てばいい。

聴くは、浄化(クリアリング)

これまで述べてきたように、よく「聴く」ためには秘訣がある。相手のマイクを奪わない。自分が舞台に上がらないことが必要だ。ともすると相手の話を最後まで聴かずにマイクを奪ってアドバイスしたり、舞台にあがって自説を展開したり、途中で遮って説教を始めてしまうようなことがあるが、リーダーが心の底から耳を傾ける態度が、メンバーや場にポジティブな影響を与えることを忘れてはいけない。もし、「あなたは、こうすべきだ」という相手に向かっていく「At」のコミュニケーションを取ることが多いのなら、いったん評価や判断を脇において、相手の現状を一緒に受け止めて聴く「With」のコミュニケーションへと変換してみよう。

最後に余談ではあるが、日本古来の古典芸能に「能」がある。「能」は、主役をシテ、脇役をワキと呼ぶ。多くのストーリーでは、ワキが旅をしている僧や神官であり、道中で成仏できない霊(シテ)と出会い、その霊(シテ)が僧(ワキ)の前で抱えている恨みや嘆きを謡ったり、舞ったりする。これを僧(ワキ)が、足を止めただひたすら寄り添い、聴く。

聴くは、浄化(クリアリング)

最初は霊(シテ)も怒りや恨みの情念のエネルギーが猛々しいが、聴いてもらっていることでだんだん落ち着きを取り戻し、最後に僧(ワキ)に供養されると、おだやかに成仏していくというようなストーリーで構成されている。

つまり「聴く」ということは、抱えているわだかまりや、成仏できない未消化な思いを解きほぐし、浄化(クリアリング)する効用があることを「能」は教えてくれている。このような点でも「能」は大変興味深い。

リーダーの新しいあり方として、「話す」より「聴く」を意識した実践を取り入れてみるのはいかがだろうか。

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