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ファシリーダーは、見るのではなく、観る

ファシリーダーは、見るのではなく、観る

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  • 広江 朋紀

    広江 朋紀 Tomonori Hiroe
    株式会社リンクイベントプロデュース ファシリテーター

    産業能率大学大学院卒(組織行動論専攻/MBA)出版社勤務を経て、2002年に(株)リンクアンドモチベーション入社。HR領域のエキスパートとして、採用、育成、キャリア支援、風土改革に約20年従事し、講師・ファシリテーターとして上場企業を中心に1万5,000時間を超える研修やワークショップの登壇実績を持つ。参加者が本気になる場づくりは、マジックと呼ばれるほど定評があり、「場が変わり、人がいきいき動き出す瞬間」が、たまらなく好き。主要書籍5冊、論文寄稿、大学での特別授業、日経MJへの連載寄稿等、多数。育休2回。3児の父の顔も持つ。

ファシリーダーは、深層に根ざす不変の本質を見抜く眼力を持つことが必要だ。そのためには、立場の違いによって生じる視界の差を認識し、偏見(バイアス)を外し、時には、メンバーのメンタルモデルの変換をも促す。これからのリーダーのための「観る」技術について明らかにする。

リーダーとメンバーは異なる階に住んでいる

なぜ、上司と部下は、すれ違うのか?伝えたことが伝わらないのか?それは、立場や状況によって、見えている景色が異なるからだ。

上司と部下の見える景色の違い

絵の喩えでは、新人は、1階に「住んで」おり、路上の木々や緑が目に入り会社の前を行き交う人や車などの交通音も聞こえる。リーダーは、木々は見えないが、周囲に別のビルが建っていることを把握できたり、眼下の交通量も分かる。社長は、自社のビルが、他と比べて高いか低いかに気づいたり、雲の流れから、数時間後の天候まで予測できるかもしれない。

このように、人は同じ場所にいても、見えている視界や視座に違いがあるということを前提にコミュニケーションを図ることが肝要だ。

組織は、成長と共に、効率と能率を担保するため、機能分化としてのヨコの分化(営業部、制作部など)と階層分化としてのタテの分化(課長、部長など)が進む。そこで生まれるのが、ビルの喩えで示した「時間観」と「空間観」の差だ。

時間観でいえば、階層が上がるほど長くなり、逆に下がるほど短くなる。経営者は、今日のことを考えるよりも、5、10年先の将来を見越した計画を策定する一方、現場は、今月の予算達成や、今日やるべきアクショ^ンを追いかけている。

空間観でいえば、経営者は、全部門、全業務のことを俯瞰的に考える一方で、現場は、自分の業務、自部門のことを中心に考える。

これは、単純にどちらの視界が良い、悪いという話ではなく、リーダーは「視界の差が物理的に存在している」という真実を認識する必要があるということだ。

リーダーの役割は、視界一致のための結節点

視界の差を認識した上で、リーダーに求められることは、見えている景色を一致させるための結節点を担うことだ。現場には、トップのビジョンを咀嚼し、メンバーに伝わる言語に翻訳して情報提供する。トップには、現場で起こっている課題や状況を経営サイドにフィードバックする。リーダーから働きかけ、間を繋ぎ、変えてゆく、ミドルアップダウン型のアプローチが必要なのだ。

童話モモに学ぶ、傾聴の本質

この動きなくしては、経営と現場における、物理的な階層による視界の分断や溝は、永遠に無くならない。

「問題は、人ではなく、間にある」

互いの違いをリスペクトし、分断を超えて全体を見ようとする根気と勇気を持つことが重要なのである。

バイアス(歪んだ視点)を外せ

視界の差を認識したら、対象を正しく観ることが必要だ。しかし、人は、どうしても置かれてきた環境や慣習から、無自覚に陥りやすいバイアス(偏見、歪んだ視点)を持ちがちである。あらかじめ知っておいて欲しい4つのバイアスを紹介する。

感情人としての特性をあらわす4つのバイアス

「行動経済学」では、人間は、「限定合理的」であり、ある程度は、合理的に考えたり、振舞ったりするものの、感情で判断が大きく左右される「感情人」であるとされる。また「感情人」としての特徴を表す4つのバイアスをこのように整理することができる。

この4つの中で、自分が陥りがちなバイアスはないだろうか。どんなリーダーも、つまるところ「人」である。人が人を絶対的に正しく観ることはできないが、その精度を高める努力をすることは可能である。そのためには、自分が陥りやすいバイアスを認識した上で客観的に観る努力をすることが必要だ。

「氷山モデル」で、隠れた前提を見抜け

私たちが日ごろ目にするあらゆる事象は、多様な因果の結果、生じている。それを表すのが「氷山モデル」だ。氷山をイメージすると、海面に現れているのは一部で、多くは海中に沈んで姿が見えない。しかし、私たちは、目に見える出来事だけを捉え、問題があれば、すぐに反応をする傾向にある。しかし目先の出来事に反射的に対処しても根本が変わらなければ、同じことを繰り返し、抜本的な変革にはつながらない。一歩立ち止まり、状況を観察することが必要だ。

氷山モデル

出来事

起こっている問題を紐解くには、表層部分の目に見える『出来事』だけではなく、通常は見えない深層部分にアプローチすることが有効だ。

行動パターン

まず、どんな変化が起こっているのか、『行動パターン』に着目する。起こっている出来事は、何かしらの変化の結果や繰り返される行動がパターンとして強化されることで表出することが多い。

構造

そのパターンに影響を与えるのが、『構造』。構造は、流れ、しくみ、ルールなどを指す。

メンタルモデル

根底には、こうした構造を生み出す『メンタルモデル』と呼ばれる、自分が前提や世界を解釈するための思考の枠組みが存在する。成果を阻害してしまうメンタルモデルを持っている際には、枠組みそのものを変える修正が必要になる。


このように、氷山モデルは、目の前にある出来事のみを反射的に捉えるのではなく、その根底にあるパターンや構造、前提となっている思考の枠組みをシステムとして総合的に把握して、最も解決に向け変化を起こしやすい「ツボ」にアプローチしようとするものだ。

具体例を紹介すると、『出来事』として、仕事の際に報連相をせず、いつも失敗をしてばかりのメンバーがいたとする。そこで、『行動パターン』で、その出来事が起こる際に、いつも繰り返し起こることに、どんなパターンがあるのかを確認する。すると、いつも上司や先輩に指摘や確認をされるまで、自分から仕事の進捗や相談をしないということがメンバーのパターンとして見えてきたとする。そして、『構造』でなぜ、そのパターンに陥ってしまうのかを探ると、彼は自分の知識や経験よりも難易度の高い仕事を先輩から丸投げされ、かつ仕事として受けられる能力やキャパシティも超えた状態だったという職場の構造が見えてくるかもしれない。さらに、最後に彼の思考の枠組みである『メンタルモデル』をみると「一度任された仕事は、最後までやりきるべきだ」と決め付け、視野狭窄に陥っているかもしれない。ゆえに出来事の根本的な解決を目指すには、深層レベルに働きかけ「任された仕事は一人でやりきるべきだ」ではなく、「目的は、お客様に期日までに品質の高いサービスを提供すること、そのためには、先輩・上司も巻き込んで仕事を遂行するほうが好ましい」と思えるようなメンタルモデルの見直しにつながる働きかけを行うことが有効となる。

メンタルモデルを転換する「5P」の観点

改めて、メンタルモデルとは、自分が現実の世界を解釈し、判断、行動する上での思考の枠組みのことを指す。この枠組みは、私たちの過去の体験や学習をもとに良くも悪くも形作られ、目の前の課題をその都度考えることなく、素早く、自動的に処理することを助ける。しかし、誤ったメンタルモデルに支配されると自分の可能性に制限をかけてしまうこともある。

成果が出ないパターンが繰り返される際には、メンタルモデルの見直しをすることをお勧めする。リーダー自身が、立ち止まって自分自身を見直してみることは、とても有効だ。そして、成果の出ないメンバーを導く際にも、この枠組みを見直すよう働きかけることは有効である。ここで、枠組みを転換する5つの頭文字からなる5Pの観点を紹介する。

「Purpose(目的)」

そもそも何の目的のために行動しているのか?ゴールに立ち返ることで見直す。

「Position(立場)」

上司だったら、どう考える?お客さんだったら?愛する人だったら?と自分と異なる視点(立場)から枠組みを見直す。

「Period(期間)」

将来までの先の長い期間なのか、すぐに着手すべき今の期間なのか、時間軸を切り替える。長い目で見ると?今、判断すると?過去、現在、未来?で見直す。

「Positive(ポジティブ)」

課題のポジティブな側面に光を当てる。得られるメリットや機会にも注目することで見直す。

「Pain(痛み)」

課題の痛みや恐れ、ネガティブな側面に光を当てる。失う点にも注目することで見直す。


例えば、5Pを使ってメンタルモデルを転換してみると下記のようになる。

5Pを使ったメンタルモデル

資料作成を依頼した部下のデータに不備があることを注意したとする。目に見える表層の振る舞いだけを捉えて叱責すると、注意された瞬間は、メンバーは謝るかもしれないが、根底のメンタルモデルが変わっていなかったら同じことを繰り返す可能性が高い。

そこで繰り返される行動パターンの背景にあるメンタルモデルに着目すると、「データについては、自分が作成していないのだから、自分が責任を問われるべきではない」という前提が隠れているかもしれない。

視点を切り替える観点として、5Pのうち、立場を変える「Position」、目的に立ち返る「Purpose」、ポジティブな点に目を向ける「Positive」などを使うことで、「最終責任者として責任を持って資料内容の確認をしよう」と自分のメンタルモデルが転換されることになれば、今後資料を提出する際には、「責任を持って確認してから提出しよう」という行動が促進されることに繋がる。

ポイントは、表層的な「出来事」を反射的に正そうとするのではなく、言動の土台となっている「深層の前提」=メンタルモデルを転換すること。この「深層の前提」を転換することで、継続的な変化が期待できるようになる。

このように、本質を見抜くには、見学の「見」だけではなく、観察の「観」を持って、深層を観ることが重要だ。本質を見抜く「観」の目を養っていくことが一層、必要な時代になった。

今や、企業価値も、目に見えるB/SやP/L、商品だけではなく、目に見えない資産(インタンジブルアセット)で評価額が大きく変わるようになった。一番大切なものを見失わない、この「目利きの力」が、ファシリーダーにとって必携の時代なのである。そして、経営者においても「企業経営で一番大切なことが、後回しにされない」アプローチが求められている。

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