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リーダーに必要な「考える」力

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  • 広江 朋紀

    広江 朋紀 Tomonori Hiroe
    株式会社リンクイベントプロデュース ファシリテーター

    産業能率大学大学院卒(組織行動論専攻/MBA)出版社勤務を経て、2002年に(株)リンクアンドモチベーション入社。HR領域のエキスパートとして、採用、育成、キャリア支援、風土改革に約20年従事し、講師・ファシリテーターとして上場企業を中心に1万5,000時間を超える研修やワークショップの登壇実績を持つ。参加者が本気になる場づくりは、マジックと呼ばれるほど定評があり、「場が変わり、人がいきいき動き出す瞬間」が、たまらなく好き。主要書籍5冊、論文寄稿、大学での特別授業、日経MJへの連載寄稿等、多数。育休2回。3児の父の顔も持つ。

優れたリーダーは、従来の「やり方」「成功体験」を健全に疑い、常に変化し続ける。論理的に分析する左脳優位の思考だけではなく、多様なアイデアを統合し、閃きや潜在意識をも活用する創造性を高めることが、AI(人工知能)時代到来の中で競争優位の源泉になることを自覚している。激動の環境に翻弄されることなく、時には立ち止まり「今、ここ」にある本質を探究し、衆知を集めて組織の智慧に変換する「リーダーの考える力」が今、求められている。本コラムは、これからのリーダーに必要な「考える力」について紹介する。

「未知未知」に「満ち満ち」た時代

2002年、イラク政府がテロ集団に大量破壊兵器を提供している証拠が不明確である不備を会見で指摘された米国の国防長官ドナルド・ラムズフェルド氏が言った台詞がある。

「何かがなかったという報告は、いつ聞いても面白い。知ってのとおり、知られていると知られていること、つまり知っていると知っていること(既知の既知)があるからだ。知られていないと知られていること(既知の未知)があることも我々は知っている。言ってみれば、我々は知らない何かがあるということを知っている。しかし、知られていないと知られていないこと、つまり、我々が知らないと知らないこと(未知の未知)もある」
"Reports that say something hasn't happened are always interesting to me, because as we know, there are known knowns; there are things we know we know. We also know there are known unknowns; that is to say we know there are some things we do not know. But there are also unknown unknowns – the ones we don't know we don't know."

禅問答のように聞こえるかもしれないが、整理すると知のレベルには3段階あり、自分が知っていると知っている「既知の既知」。その外に当該について知らないことを知っている「既知の未知」。さらには、知らないことすら知らない「未知の未知」があることを示唆している発言だ。

知のレベル

我が身を振り返れば、私たちの思考は、2段階目の既知の未知でとどまり、その先に「未知の未知」という広大な世界が広がっていることを忘れがちだ。テクノロジーは日進月歩で進化し国際情勢は予断なく移ろう。 世界は、加速度的に自分の知らないことすら知らない「未知の未知」に「満ち満ち」ているというファクトから目をそむけてはならない。 安定した環境下では、変化を予測し、計画を立案するPDCAのサイクルを回すことが容易だったが、今は計画したことがPlanしたその瞬間から陳腐化してしまうジレンマがある。 これまでのやり方や知識といった「遺産」は未知の領域では、役に立たな いばかりか、変革の阻害となる可能性も孕んでいる。

考えるを阻む5つの壁 「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」

考えることを5つの壁が阻む。転ばぬ先の杖として、紹介する。

1.経験の壁

リーダーには、経験から培ってきた自分なりのやり方がある。しかし「今までの経験から、こうあるべき」という思考は、変化の激しい現在、リスクにしかならない。正しさは、あくまで相対的なものであり、環境が変わったなら自分も変化する必要がある。一度学習した知識や経験を捨て新たに学習しなおすことを「アンラーニング」と呼ぶが、経験を一度、白紙にしよう。そして、組織も過去の経験、慣習、手続きに囚われがちだ。「このやり方でうまくいってきた」「前任は、こうしていた」「市場で勝ってきた花形商品が他社に負けるはずがない」といったような過去の成功体験、思考様式に縛られて変化に括目せず、衰退していく組織の例は枚挙にいとまがない。 ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、既存市場のトップ企業が新規市場の台頭を見過ごし、落ちていく現象を「イノベーターのジレンマ」と呼んでいるが、変化の主体者になるには、過去への執着を手放すことが必要なのだ。

2.前提の壁

問題を解くには、問題の存在が必要だ。しかし、気を付けなければならないのは解こうとしている問題が、真の問題なのかということ。私がよくワークショップの冒頭で行うアイスブレイクに「全員自己紹介」というアクティビティがある。参加者の皆さんに「今から10分、時間をとるので、ここにいる全員と自己紹介して下さい。」と伝えるだけのシンプルなものであるが、10分後にみなさんにこう告げる。「私のところに自己紹介に来る人は一人もいなかったと」すると、決まって参加者はバツが悪そうな表情をする。つまり「ここにいる全員」という前提に講師を含めていなかったということに気づくのだ。人は、自分で勝手に前提を決めがち。それは本当か?(Is it true?)と自問を習慣にしよう。

3.抽象の壁

数字で具体的に捉えることも必要だ。たとえば、「この商品は、お客さんから、けっこう問い合わせがあるので、発注量を増やしたい」という相談を受けたときに、「けっこう」とはどの位の量なのか、過去から発注データの変動があるのか、数字で具体化した上で判断することが必要だ。他にも思考停止ワードに、『みんなやっている』があるが、みんなとは、誰のことを指しているのか、何人中何人なのか、分母を確認することも必要だ。

4.選択肢の壁

考える際には、情報収集が必要だが、情報が多すぎると、意思決定は遅くなる。情報は、7割あれば十分。不完全な情報でも実際に試行しながら精度を高めていく方が良く、実行を伴わないノウハウコレクターにならないことが重要だ。 心理学者のバリー・シュワルツ氏は、人は意思決定する際に「サティスファイサー」(満足しやすい人)と「マキシマイザー」(最大限に良いものを求める人)に分かれるという。「サティスファイサー」は、要求を満たすのに「ほどほど」で十分と考え、「マキシマイザー」は、最も良い条件を手に入れないと気が済まない。人生の満足感は、「サティスファイサー」の方が得られるとされ、「足るを知る」ことも必要なのだ。

5.文脈の壁

見る方向によって捉え方が変わる

この図は、縦の列方向と横の行方向で見たときに捉え方が変わることを示している。中央文字がアルファベットのBに見えたり数字の13に見えたりするのは、どの文脈で考えているかによる。自分の思考が、前後の文脈で左右されてないか。安易に判断を下そうとしていないか見極めるが肝心。 哲学者、フッサールは、世界をありのままに見るには、判断中止(エポケー)することも必要だと言う。決断時には、拙速に決めず今の文脈から一度離れる、意図的に先送りする、自分の文脈だけではなく、別の見方があることも探究し、「囚われ」から脱しよう。

競争優位を築く、脱ロジカルシンキング

AI(人工知能)の発達により情報の整理、処理能力が高まり自分の仕事がAIに取って代わられる 日も近づいている。こんな時代に必要なのは、全体を見通す力、一見結びつかないものを統合する力、物事を斬新な視点から捉える力など、AIにはできない右脳の持つクリエイティビティだ。下図の左脳と右脳の項目を見比べてみてほしい。

左脳と右脳
出典:右脳で遊ぶ発想術 チャールズ・トンプソン著 TBSブリタニカ (P.152 脳の情報処理機能、一部編集)

項目を見比べるとビジネスシーンでは、左脳の方が馴染みあり右脳は、距離感を覚える人が多いのではないだろうか。今の時代は、左脳だけでなく、右脳を開発すべきだ。そのためには、部下との接し方も見直さなければならない。たとえば、左脳はすぐに「白か黒か」判断しがちなので突拍子もないような馬鹿げたアイデアを歓迎することも有効だ。アイデアをつぶすキラーワードを紹介するので部下に使っていないか、見直してみて欲しい。

リーダーが左脳でアイデアをつぶす10のキーワード

閃きの神、ミューズを降臨させる5つのステップ

アイデアを思いついたときに「神が降りてきた!」と表現することがあるが、古代ギリシャでは、創造を司るインスピレーションの源として「ミューズ」と呼ばれる神が崇められていた。今でもミューズの神々が降臨した結果、創造された芸術が収集、展示されている場所をミュージアムと呼ぶのは、その名残だ。 閃きの瞬間は、見えている世界が一瞬で変わる、論理的には、説明がつかないある種の神聖さを伴う。この閃き、直観を意図的に起こせるようになれば、リーダーの思考力として頼もしい味方になるはずだ。なにせ、ミューズの神を自在に操ることができるのだから。 直観、ひらめきを起こすステップを紹介する。

閃きの神、ミューズを降臨させる5つのステップ

ステップ1:明らかにしたい「問い」を立てる

情報収集を始める前に問題は何か?問いを立てるとそれにまつわる情報が集まってくる。その際、具体的に焦点を絞るようシンプルな問いを「どのようにすれば~」から始まる可能性探求の質問形で創るとパワフルになる。「なぜ~」にすると、原因追及の改善思考になるので、おすすめしない。

ステップ2:インプットし3割の粗さで思考する

イギリスで広告の父と呼ばれた、デイヴィッド・オグルヴィ氏は、無意識を最大限に活用するには、情報収集が不可欠だと以下のように述べている。『偉大なアイデアは、無意識から生まれてくる。これは、芸術、科学、広告にも当てはまる。しかし、無意識にも十分に事情に通じていてもらう必要があるのだ。さもなくば、あなたの考えは妥当なものにならないだろう。意識に情報をつめこんでから、合理的な考えの鍵を外すのだ。』 収集した情報を一旦、3割の粗さで思考してみる。この3割の超ざっくり感が良い。単なる情報だけだと、アイデアの培養に時間がかかるが、3割でも思考の引き金があるとアイデアが降りてくるスピードが格段に速くなる。

ステップ3:「聖なるぼんやり時間」をとる

情報収集し、3割の粗さで思考したら一旦、忘れてみる「培養」の時間を取る。この時は、気を緩めリラックスすることが肝要だ。誰にも邪魔されない自分だけの「聖なるぼんやり時間」。この時は鉢巻を締めてさぁ、ひらめくぞ!と身構えてはいけない。現場を離れ、ネクタイを外し、シャワーを浴びたり、散歩したり、子供と遊んだりしよう。心身ともにリラックスすると脳波も変わり、直観が生まれやすいアルファ波が生まれる。この時、脳では感情や記憶などを結び束ねる働きをする「デフォルトモードネットワーク」が活性化し、脳がアイドリング状態になり、「問い」や「3割のアイデア」が、記憶情報や五感体験と結びつき、アイデアの発酵が始まる。

ステップ4:浮かび上がってきた閃きを捕まえる

かつて唐宋八大家の文人、欧陽脩(おうようしゅう)は、閃きは三上、すなわち、「馬上」(ばじょう)「枕上」(ちんじょう)「廁上」(しじょう)で生まれると言った。 これらの場所は、いずれもひとりでぼんやりしていることが多く、リラックスした瞬間に脳の中で発酵した思考が結びつき、浮上してくることが多いからだ。 ゆえに、アイデアを捕まえるための、自分なりの「○○上」を持つことも必要だ。そして、その場所に常にアイデアを書き留められるように、メモを用意しておく。メモに書いたり、スマホで撮影したり、誰かに共有したりと何かしら、記録、記憶に残すことをルーティンと良いだろう。

ステップ5:閃きを検証、組み合わせ、具体化する

ひらめきは、既存のものとの組み合わせで生まれることが多い。思い付いたアイデアを既存の文脈の中に入れると、どんな化学反応が生まれるのか、考えてみる。そして、3割の完成度を6~7割位に引き上げたらプロトタイプ(試作品)を作って実際に試す。試すと予測と異なる反応や発見があり、アイデアが、シェイピングされていく のを体感するはずだ。

いかがであろうか? 以上の5つのステップで、閃きの神、ミューズを降臨させてみよう。

余白からイノベーションは生まれる

創造的な思考やアウトプットをするには、詰め込み過ぎない余白を持つことが必要だ。 いつもの文脈や思考様式から意図的に離れてみる時間を自分の中に計画的に持とう。 ともすれば、リモートワークで、自宅から一歩も出ないで同じことを繰り返す単調な日々に染まってしまうかもしれない。断言するが、同じことの繰り返しの中で、イノベーションは生まれない。

時には、普段の生活や仕事から離れてみる。通常はやらない、いかない非日常に我が身を置いてみる。たとえば、門外漢のネットワークに越境してみる。散歩してみる、アートや絵画に触れる。大自然の中に身を置く・・・etc。 どんな小さなことでも構わない。自分ができることから始めてみよう。 いつもと異なる経験が脳に刺激をもたらし、新しい思考・行動様式が生まれ、やがては、イノベーションの萌芽につながるのだ。

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