Vol.2|日本を、世界で最も若者が育つ社会に|エッジソン・マネジメント×THE MEANING OF WORK 座談会
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進藤 武揚TAKEAKI SHINDO
株式会社日立製作所
人財統括本部 タレントアクイジション部長1994年、株式会社日立製作所入社。2007年、日立ヨーロッパ社(勤務地ロンドン)へ出向、2010年、日立研究所勤労ユニット部長代理、2017年、人財統括本部働き方改革プロジェクトリーダなど、入社以来一貫して人事・勤労などのHR業務に従事。2020年4月より現職。全社採用業務は2003年以来2回目。「採用は天職」と言うほど、人財の獲得と若者の育成に思い入れは強い。
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萬田 弘樹HIROKI MANDA
パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社
リクルート&キャリアクリエイトセンター センター長1992年、松下電器産業株式会社(現 パナソニック株式会社)入社。シンガポール駐在後、キャリア採用部門を立ち上げ、社内ベンチャーとして採用コンサルティング会社設立・経営に携わる。以来、グループの人財ビジネス会社の役員、海外会社の人事責任者を経て、本社採用部長就任、2019年4月より現職。
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樫原 洋平YOHEI KASHIHARA
株式会社リンクアンドモチベーション
エグゼクティブディレクター
早稲田大学・同志社大学 非常勤講師2003年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。メガバンク、総合商社、グローバルメーカー、インフラなど、多様な業界100社以上の採用コンサルティングに従事。大学教育事業の立ち上げにも携わり、教育プログラムを開発・実行。2014年から2017年まで、採用だけでなく若手の育成・活用を含めたトータルソリューションを提供。2018年より現職。早稲田大学・同志社大学では非常勤講師を務め、キャリア教育プログラムを提供。著書に『エッジソン・マネジメント』。
日本を、世界で最も若者が育つ社会にする――。第2回となる今回は、人財を「青田買い」するのではなく、社会全体で「青田づくり」を行う「エッジソン・マネジメント協会」の取り組みと、それぞれが思い描く未来にフォーカスする。
一般社団法人エッジソン・マネジメント協会とは
日本を、世界で最も若者が育つ社会にすることを目的に、プロジェクトベースの学び・成長機会を提供する一大プロジェクトチーム。日本を代表する企業のビジネスパーソンや大学関係者、官公庁関係者が企業・組織の垣根を越えて参画し、目的・志に尖った人財「エッジソン」の育成に取り組んでいる。大阪・関西万博TEAM EXPO 2025で取り組んでいる「次世代共創リーダー育成プロジェクト」を中心に、さまざまな産官学連携プロジェクトが進行中。
次世代を、みんなで育てる
樫原
前回は、今の新卒採用・人財育成が抱える課題について語っていただきました。今回は、人財を「青田買い」するのではなく、社会全体で「青田づくり」を行う「エッジソン・マネジメント協会」の取り組みにフォーカスしていきたいと思います。お二人は「TEAM EXPO 2025」の「次世代共創リーダー育成プロジェクト」において、東西でリーダーシップを発揮していただいていますが、このプロジェクト、参加者の間でかなり評判になっているんですよ。自社のインターンシップでもなかなか会うことのできない、日立とパナソニックの採用トップ。そのお二人がしっかりとコミットして、フィードバックしてくれる。「これは貴重な機会だった」と後から気づくようなのです。今さらにはなりますが、この取り組みに参加していただいている理由を伺えますでしょうか。 |
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萬田
樫原さんにノせられた。それしかないですよ(笑)。 |
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進藤
ウソは言えませんよね。樫原さんにノせられた。これに尽きます(笑)。 |
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萬田
圧倒的な熱量って、人を動かすんですよ。樫原さんが坂本龍馬的に各藩主を口説いて、それがこれだけのムーブメントになった。そういうことでしょう? |
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進藤
そうですね。パナソニック藩、日立藩、いろいろな藩主に直談判して、「何万両出せ」みたいな(笑)。 |
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萬田
「人が重要な資源である日本がこのままでいいんですか?」「みんなで青田をつくっていきましょう」なんてメッセージをあれだけの熱量でぶつけられたら、NOとは言えませんよね。このプロジェクトに参加した企業や大学はみんな同じだと思いますよ。もう一つは、「日本のあるべき姿」に共感できたからでしょうね。前回、何度も私たちが語ったように、「日本のために」という想いは強く持っていましたから。ただ、参加を決めて「何をしよう?」ではなく、やることはすでに決まっていたというオチはあったけれども(笑)。 |
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進藤
そうそう。我々のやることはすでに決まっているという(笑)。で、もう一つのポイントになったのは、青田買いではなく「青田づくり」をしていくところでしょうね。今は青田買いをしたくても、青田が枯渇している状況になっている。IT・デジタル人財なんて、まさにそうですよね。以前はメーカーしか採用していなかったものが、今は金融をはじめ、すべての企業が欲しがっているわけですから。収穫するところだけケンカしても意味がないし、いつしか青田がなくなってしまう。それがわかっている企業や官公庁が真剣に取り組むことで、日本の若者も、もっと元気になってくれると考えています。 |
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萬田
ただ、懸念はありましたよね。青田づくりをして、人財が成長していったとしても、それを横取りする企業もあるだろう、と。事前にそんな話も進藤さんとしていました。ただ、結論は「だとしても、いいや」でした。そうなったとしたら、私たちが「認知と共感」を得られなかっただけ。さらに言えば、その実りは、めぐりめぐって、また戻ってくることだってある。いずれにしても、日本の将来にとって必要不可欠な取り組みであることは疑いようがありませんでしたし。 |
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進藤
確かに、外資系との厳しい競争は続いています。ただ、極端にアメリカナイズされた、新自由主義的な風潮がいつまでも続くかどうかは誰にもわかりません。あるタイミングで揺り戻しが来たって全然おかしくないわけです。日本の企業の画一的な仕組みは問題であることは間違いないけれど、だからこそ、私たちは一生懸命、変わろうとし続けなければいけない。日本企業の良さみたいなものを活かしながら、ですね。 |
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樫原
両社の歴史を見てみると、「ものづくりは人づくり」という概念が染みついて文化になっています。プロジェクトに参加していただいたのは、その文化の現代的表現なのかもしれないと思うのですが。 |
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萬田
確かにあると思います。「エッジソン・マネジメント協会」のような取り組みって、私たちが子どもの時にあったような、地域全体で助け合って子どもたちを育ててくれていたような文化に似ているなって。「他の家の子どもも、自分の子どものように育てる」感覚。私たちはそんな文化が受け継がれてきた国で生まれ、育ってきた。これは、日本人の中に受け継がれたDNAですよ。私たちは、自分の親や近所のおじさん・おばさんらがしてくれたことを企業でやるだけです。 |
WIN-WINの成長がある
樫原
「エッジソン・マネジメント」は始まったばかりのプロジェクトですが、その取り組みは確実に次の世代に受け継がれています。現在、今年度の参加者を募集しているところなんですが、昨年の参加者たちが「いい経験になった」と後輩を紹介してくれているんです。お二人は、このプロジェクトを通じて、どのような手応えを感じていますか? |
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萬田
この世の中をより良くしたいという、強い志と行動力がある学生さんと関われることは大きな喜びですよね。特に痛感しているのは、社会人たちと触れ合い、向き合う機会を通じて、学生さんたちが驚くような成長を遂げてくれていることです。確かな手応えを感じています。前回の記事で、シンガポールで社会人と肩を並べて活躍している学生さんを目の当たりにして、「日本、負けているな」と悔しい思いをしたことを話しましたが、「エッジソン・マネジメント協会」で関わる学生さんなら、そういった世界の学生さんと肩を並べて活躍できることと思います。適切な時期に、さまざまな出会いを提供し、さまざまなことに挑戦する。その尊さを再認識しましたね。こうした取り組みがないと、日本でビル・ゲイツのような存在は生まれないと思います。 |
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進藤
日本人のDNAやポテンシャルを感じる一方で、意識させられたのがジェネレーションギャップでした。今の学生たちは社会への貢献や、地球環境への意識が高く、個人や物に対する執着があまりない。アメリカ人の同世代と話すよりも、日本の若者と話す方がギャップを感じてしまうほどです。日本の新時代を担う若者たちと接することは、私たちにとっても大きな学び。採用の仕事で「普段から、若者に接しているじゃないか」と言われるかもしれませんが、それは、あくまで日立を希望してくれる学生たちですからね。「こんなことを言ったら落とされる」みたいな遠慮があるんですよ。「エッジソン・マネジメント協会」で関わる学生は、日立に入りたいわけではないので、まったく遠慮もないわけです。 |
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樫原
フラットに学生たちと接する中で、印象に残っていることはありますか? |
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進藤
痛感したのは「どれほど大人に失望しているか」ですね。仕事はつらいだけの、苦行のようなもの。会社は地獄。そんなイメージを強く持っていることが伝わってきました。私たち、親の世代がちゃんと楽しさを示せてあげられなかったことが問題なのでしょうが……。そこはかなり印象に残っていますね。 |
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萬田
社会のために、未来のために、何をすべきか。そうした意識を持った学生さんと接すると、自分自身の役割を意識するようになりますよね。パナソニックの中でどのような役割を果たすべきなのか。残された人生の中で、日本のために何ができるのか。今まで以上に真摯に、向き合うようになったと思います。あとどれくらいセンター長を務めればいいか。そのうえで何を実現して、メンバーたちをどこまでの状態にしてあげる必要があるのか。進藤さんが言うように、価値観の違いを痛感させられているから、自分が残せるものを考えて、引き際を明確にしないと。それ以上は“害”になってしまいますからね。私自身にとっても、よい経験になっていると思います。 |
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樫原
お二人は、採用部門の若手メンバーも積極的にプロジェクトに参画させていますね。 |
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進藤
このプロジェクトに参画して、大きく変わりましたね。ポテンシャルが一気に解放された感じでした。通常の採用業務で得られる3倍くらいの経験をしたんじゃないかな。学生との触れ合い方や指導の仕方はもちろん、本人の目つきが違ってきましたから。このプロジェクトのいいところは、若者が成長するためだけのものではなく、WIN-WINの関係が構築されていること。だから、こちらとしても、継続して参画しようという気になるんです。「樫原さんとお友達だから」という理由だけでは、やっぱり続かないですよ(笑)。 |
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萬田
私は「横のつながり」のメリットも大きいと思っています。参画したメンバーたちは、他社の採用担当と接し、意見を交わすことで、視野が広がっていきます。採用という仕事は、極めて特殊な仕事。なかなか、腹を割って相談できる人って社内には少ないんですよね。横にいる人事の同僚や営業の人に聞くよりも、他社さんの採用担当と悩みを共有し、「そうだよね」と納得していく方が得られるものも多い。このプロジェクトに参加したメンバーはみんな、問題意識を持つようになるし、あるべき未来像を描けるようになります。メンバーにも参加してもらって、本当によかったと思っていますね。 |
「殻を破る瞬間」が、最高の喜び
樫原
これまでに、お二人は学生にさまざまなメッセージを伝えてきたと思います。その中で、特に刺さった、受け入れられたと感じるメッセージはどのようなものでしたか? |
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萬田
「常に未来をソウゾウする」。あるべき未来をイマジネーションして、クリエーションしていくことの大切さですね。これは、当社のメンバーにも言い続けていることでもあります。現在は、足し算で積み上げていくだけでは、価値を生み出していけない時代です。いかに、あるべき姿を想像して、バックキャストで物事を進められるか。今後、グローバルで活躍していく人には絶対に習慣づけてほしいことですね。もう一つ、最近の学生たちは優秀だけれど、すぐに答えを求める近視眼的な側面が見られます。「そんなに小さくならなくていいんだよ。大きな目標を見据えて、考えて、決断して、行動してごらん」と。そういうメッセージですね。 |
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進藤
偏差値エリートは、答えを出すのが大好き。とにかく褒められる答えを出そう、みんなが喜ぶだろう答えを出そうと、本能的に動く。そうした習性が出来上がっているんですよね。「あるべき姿がありきでしょう?」「なぜ、すぐに小さな答えに飛びつくの?」とその壁を壊してあげようと考えていました。「高校までの学習の仕方とは違うんだよ」。それは常々、伝えてきたメッセージでした。ただ、彼らは吸収力があって、もともと優秀な学生さん。そこから大きく成果を遂げていきましたね。 |
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萬田
このプロジェクトを通じて、たくさんの「殻を破る瞬間」を見てきましたよね。最初はそれほど目立たなかった学生さんが何かのきっかけで、とたんに、それまでの殻を破って成長していく。蛹(さなぎ)から蝶になって羽ばたくイメージに似ています。あの瞬間って、採用担当にとって最高の喜びじゃないですか。人財が殻を破るには、志と覚悟と行動が必要。「エッジソン・マネジメント協会」に参加する学生たちは、みんな志は持っている。それが、どこで覚悟を決め、行動に移れるのか。そのための機会を提供できていることをただただ幸せに感じていますね。 |
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樫原
今年のプロジェクト参加者の中には、大学1年生のうちに大学内のプランニングコンテストみたいなもので表彰された学生が多いんですよ。「もう描くプロセスはいいから、自分で実行したい」「最高の実験フィールドがあるからと聞いて、飛び込みました」といったことを言っているんです。私が期待していたとおりのプロジェクトになってきたな、と感じています。 |
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萬田
それは楽しみですね。私自身は、九州での展開に期待しています。地方はどうしても首都圏に比べると機会が少ないがゆえに、粗削りな部分がある。だからこそ、殻の破り方が全然違ってくるんじゃないかと。九州なんて、すごい蛹(さなぎ)がたくさん潜んでいるんじゃないかな? |
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樫原
これまでのプロジェクトでは、コロナ禍の影響もあって、スタート時期が揃わなかったんです。だから、異なる地域のメンバーを同じチームにできなかった。今年は東京・関西・九州と同時にスタートしますので、参加者の期待も大きいようです。他地域に同志ができるって、めちゃくちゃおもしろいと言ってくれています。これまでとはまったく違う化学反応が起きるのではと期待しています。 |
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進藤
リアルに動ける場が増えそうなのもいいですね。私自身もかなり期待していますよ。 |
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萬田
普段では決して紡げないようなつながり。これは、本当に貴重な財産ですよね。それだけでも大きな意義があると思いますよ。 |
めざすべき、未来は……
樫原
最後に、日本の新卒採用・人財育成のあるべき未来について、お二人の考えをお聞かせください。 |
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萬田
画一的で表面上の面接をなくす。そこに尽きますね。当たり前のように、大学生の時から企業とタッチポイントがあって、時期が来たら「ウチにおいでよ」と自然に就職する。その時期もさまざまで、大学を卒業してすぐでもいいし、どこかに回り道してきてからでもいい。そんなかたちの採用が実現すれば、日本のオリジナルだと言える気がしています。わずか15分で判断する採用は、もう必要ありません。 |
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進藤
これからの企業にとって、多様性は価値創造の大きな強みになっていきます。採用がそのダイバースの象徴になる。そんな未来を創っていきたいと思っています。新人もいれば、経験者もいる。フルタイムの人もいれば、パートタイムの人もいる。さらに、副業でそこにいる人もいる。さまざまなタレントが、それぞれが望む雇用形態で、価値を創造する。日立であれば、社会を支えるインフラを創っていく。採用の変革は、社会イノベーションの第一歩になるものだと考えています。 |
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樫原
そうした未来を実現していくうえで、これからリクルーティングを担っていく人にはどのような視座が求められるのでしょうか。 |
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萬田
デジタルとアナログをハイブリッドさせる力は必要でしょうね。さまざまなデータが可視化され、SPI(総合適性検査)なども日々、進化を続けています。そうしたデジタルツールやデータの活用法をしっかりと理解して活用する。そのうえで、ラストワンマイルを埋めていくにはアナログの力が必要となります。「この学生さんの10年後はどうなるんだろう」と、正面から学生さんと向き合う力はますます大切になると思います。一括採用から脱却した後は、さらにアナログの力が重要性を増す。これは当社のメンバーにも言い続けています。 |
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進藤
大前提として求められるのは、やはり「愛」でしょう。決して、自分が「選ぶ立場だ」などと勘違いしないこと。採用は、若者の未来と真摯に向き合っていく仕事です。だからこそ、性善説で臨まないといけませんよね。そして、これからの採用は職場が中心になって決めていくことになります。採用のプロフェッショナルとして、さまざまな手法や知見を提供していく能力も問われることになるでしょうね。 |
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樫原
ありがとうございます。「エッジソン・マネジメント協会」は社団法人化し、業界の垣根を越えた活動はますます活性化していくことになります。私たちは、もっと多くの同志を招き入れて、このムーブメントを広めていかなければいけません。理事を務めるお二人からメッセージをいただきたいのですが。 |
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萬田
組織の枠を超えて、これからの日本を担っていく世代を社会全体で育てていく。「エッジソン・マネジメント協会」は、日本人のオリジナリティーあふれる、新たな育成モデルをつくるための実証実験の場です。実は昨年、このプロジェクトに自分の息子が参加させてもらったのですが、その成長を横で見ることができて、親としてこのうえない喜びを感じることができました。これからは、私が尽くす番。できるかぎりのことをして、日本の人財育成に貢献していきたいですね。 |
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進藤
このプロジェクトは、青田づくりを加速させるものだと思っています。「エッジソン・マネジメント協会」が社団法人となることで、企業の色はなくなっていくと考えています。純粋に、日本のために行動していける同志を増やし、日本の青田づくりを牽引していきたいと思います。 |
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樫原
1年で一人の人財を変える。変わった人財が、また別の人財を変える。それを続けていくと、100年で100億人を変えられる計算になるんです。毎年、目の前の一人を変えるという運動を続ければ、全人類を視野に入れることができるんですよ。そこまでは大げさかもしれませんが、このままプロジェクトが拡大すれば、2030年には1万人近いリーダーが生まれることになります。その大きなソーシャルパワーによって、世界で最も若者が育つ社会を実現していきたいですね。 |