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「世界トップ」を生み出す、京都企業――村田製作所の経営|THE MEANING OF WORK京都会|特集|Link and Motivation Inc.
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「世界トップ」を生み出す、京都企業――村田製作所の経営|THE MEANING OF WORK京都会

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  • 中島 規巨

    中島 規巨NORIO NAKAJIMA
    株式会社村田製作所
    代表取締役社長

    1985年、同志社大学工学部卒業後、株式会社村田製作所に入社。フランスでの海外赴任を経験するなど、グローバルに活躍する。2006年にモジュール事業本部通信モジュール商品事業部事業部長、その後、取締役常務執行役員、代表取締役専務執行役員を歴任し、2020年6月から現職。創業家以外では初の社長就任となった。趣味はゴルフ、トレッキング。

  • 林 幸弘

    林 幸弘YUKIHIRO HAYASHI
    株式会社リンクアンドモチベーション
    モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員
    「THE MEANING OF WORK」編集長

    早稲田大学政治経済学部卒業。2004年、株式会社リンクアンドモチベーションに入社。組織変革コンサルティングに従事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員として、日本で働く外国籍従業員のエンゲージメントやマネジメントなどについて研究。現在は、リンクアンドモチベーション内のR&Dに従事。経営と現場をつなぐ「知の創造」を行い、世の中に新しい文脈づくりを模索している。

京都にゆかりの深い企業を中心としたグローバル企業のHRが集い、企業の垣根を越えてオープンにその知見をぶつけ合う。題して「京都会」。このグローバルHR研究会では、オンラインを通じて、知の探索と共有が行われている。世界に飛躍する京都企業・村田製作所社長の中島規巨氏を招き、同社の経営について伺った。


村田製作所入社は既定路線?

村田製作所入社は既定路線?
林 幸弘

今回は、京都発のグローバル企業である、貴社の経営にフォーカスしていきたいと思います。まずは、中島社長のご経歴について伺いたいのですが。

中島 規巨
中島

1985年に入社して、長岡事業所に配属されました。コンデンサの材料開発部門で2年半ですね。その後、福井工場の製造技術部門で4年間ほど勤務し、その時の上司に頼んで「海外に行かしてくれ」と話をしたんです。ちょうど、フランスの会社と協業するという話があがっていて、そこを任せてもらうことができた。今だったら楽しめたんでしょうけど、周りには何もないし、フランス語もしゃべれない。生きるために必死でしたね。その後、R&Dセンターで高周波の部品開発に携わることになり、それが今の礎になったわけです。携帯電話の進化に大きく寄与したスイッチプレクサだったり、北欧のメーカーとの共同開発による「Bluetooth(ブルートゥース)」の立ち上げだったり、何点かヒット商品が出ましてね。まあ、私の自慢話はそこまでです(笑)。

林 幸弘

いやいや。今、スタンダードになっているモノをつくり出したわけですから。かなり、すごいですよ。ちなみに、中島社長が村田製作所に入社を決めた理由は何だったのでしょうか?

中島 規巨
中島

私の卒論のテーマは「積層コンデンサの電極材料開発」で、村田製作所に関わるものだったんですよ。

林 幸弘

なるほど(笑)。ご縁があった、ということですね。

競争優位性をもたらす、村田製作所の「こだわり」

競争優位性をもたらす、村田製作所の「こだわり」
林 幸弘

京都企業は「世界トップ」を数多く生み出しています。その代表的な存在である村田製作所ですが、なぜ、貴社が「世界トップ」を生み出せるのか。その秘訣はどこにあるとお考えですか?

中島 規巨
中島

確かに、京都には世界有数の企業がたくさんありますね。私は、そこに3つの共通点があると思っています。1つ目は、中長期目線で経営に取り組んでいること。1年ごとの短期的な利益で社長が代わるといったことがないんです。で、それはなぜかというと、おそらくオーナー企業が多いから。村田製作所は現在、創業78年になりますが、まだ私で4代目。中長期目線で経営を見ているので、研究開発テーマも基礎的なところから、長いスパンで取り組めるんですよね。2つ目は、ここだけは負けないというこだわりの技術を持っていること。村田製作所は誘電体の技術に強みを持ちますが、こういった“こだわり”は、昔、都があった京都ならではだと思います。そして3つ目は、京都には大学がたくさんあり、産学連携が盛んであるということ。創業者は京都大学から教えを乞うて、初期の誘電体材料としてチタン酸バリウムの可能性を見出し、実用化しました。チタン酸バリウムは、村田製作所が世界で4割のシェアを有している電子部品「積層セラミックコンデンサ(MLCC)」に使われています。これによって、私たちはスマートフォンなどのあらゆる電子機器に欠かすことのできないMLCCの小型化・大容量化を実現し、日常の生活を支える基礎をつくり上げたんです。

林 幸弘

ありがとうございます。確かに、京都企業は“こだわり”を持っているところが多いですよね。その中で、村田製作所が大切にしていることはどのようなことで、どの部分に強みがあると認識されていますか?

中島 規巨
中島

先ほどお話ししたように、目線を5年先、10年先に持っているところでしょうね。かなり基礎的なところからチャレンジしているんですよ。私たちの事業は垂直統合モデルといって、使う材料や工場で使用する機械まで、ほとんどを自社で開発しています。アメリカの産業は、ほとんど水平統合モデルですね。簡単に言えば、考える人とつくる人が違うのです。私たちの場合はどうしても研究開発投資が大きくなるのですが、アメリカの場合はそれほど投資がいらない。

林 幸弘

バリューチェーンすべてを包括するわけですからね。

中島 規巨
中島

ただ、ノウハウをブラックボックス化し、高付加価値な製品をつくっていくうえでは大きなメリットがあります。差異化という点では、私たちの事業モデルの方が圧倒的に有利ですし、何か問題があった時に自社で対処できるというメリットもあります。結果として先行投資は大きくなるのですが、簡単に真似できない技術が社内に蓄積され、現在の村田製作所の競争力につながっていると自負しています。

エレクトロニクスの未来は「不透明」ではない。

エレクトロニクスの未来は「不透明」ではない。
林 幸弘

VUCA(※)時代といわれる中、グローバル経営の難易度はますます高まっています。グローバル経営を推進するうえで、ヘッドクオーターとしての本社とローカル拠点の役割は、どのように変わっているのでしょうか。

※VUCA:Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)、これら4つの頭文字をつなげた造語。

中島 規巨
中島

まず、研究開発・技術の体制からいくと、これまでは日本ですべてをやってきました。しかし、現在では、技術に地域性というものが生まれてきているんです。例えば、アメリカの西海岸には高周波の半導体技術者が多かったり、新しいフィルターを開発しているスタートアップ企業が多かったりします。また、私たちはフィンランドで自動車の慣性センサーの開発・生産を行っていますが、そうした分野の技術者は北欧に多く存在しているんです。つまり、コア技術を持っているファンクションがかなり分散してきているんですよね。当然、日本国内だけでそれだけの技術者を獲得できるかといえば、非常に難しいわけです。そのため、生産拠点・開発拠点・営業拠点については分散化する傾向にあります。トランスナショナルでいろいろ権限を委譲していくという意味合いではなく、ニーズに沿った適切な体制を加速していこうということですね。そうした状況にあるからこそ、情報をリアルタイムに共有することが重要課題になっています。さまざまなところで研究開発や生産、営業が行われていくのですから。村田製作所の場合、売上の90%以上を海外が占めていますので、権限をできるだけ委譲したいとは思っています。お客さまの前で物事を決められる状況をつくる必要があることも理解しています。ただ、そのためのバックグラウンドとして、私たちができること・できないことを情報として知っておいてもらう必要がありますよね。

林 幸弘

さまざまな技術がそれぞれに分散しているからこそ、情報の共有がキーになっていると。

中島 規巨
中島

それと、VUCAの時代というワードが出ましたが、「先行きが不透明だ」と言っているだけでは、経営を放棄していることと同じだと思うんですよ。村田製作所が属しているエレクトロニクス産業の未来は、どちらかと言えばクリアな世界だと認識しています。「これからの自動車がどうなっていくでしょうか?」と質問されたら、「EVになる」あるいは「自動運転が進む」とほとんどの人が同じ答えを返してくるはずでしょう? それはスマートフォンでも同じです。2020年は5Gだと。では、10年後はどうなるか。6Gの時代が来るというのは明白ですし、その技術がどういうものかはクリアになっています。医療だって、在宅医療や遠隔医療が進んでいくし、環境・エネルギーについても然りです。不透明なことは何一つなく、来るべき未来に対する準備を先回りしてやっていくこと、それが私たちの仕事ですから。

林 幸弘

お話を聞けば、確かにそのとおりですね。VUCAという言葉に踊らされない。すごみを感じます。

中島 規巨
中島

それも、中長期で物事を見ているからでしょうね。でも、すべてを見通せているかというとそうではなくて、逆に短期的に何が起こるかは見えないところもあるし、地政学的に予想外のことに振り回されることは当然あります。さらに、私たちは輸出産業ですから、為替への感応度が非常に高いんです。このあたりはリスクだと思いますね。ただ、中長期的な方向性を見誤ることはそうそうないですよ。

林 幸弘

中長期的な視野で経営を行う強みを感じます。貴社の場合、投資家からも短期的な側面での要望にとどまらない期待があるように思えます。

中島 規巨
中島

環境経営をはじめ、さまざまなご要望をいただいています。ただ、その中で一番大きな期待というのは、極めてシンプルですよ。資本主義で、企業が生き抜くための利益を上げること。そして、その利益を将来のより大きな価値創造に向けて投資すること。未来に対する準備がしっかりできているか。そこが一番重要なのだと感じています。

林 幸弘

そうした期待に応えるビジネスモデルができている、ということですね。

「自律分散型」の経営・組織運営。

「自律分散型」の経営・組織運営。
林 幸弘

先ほど、コアになるファンクションが分散化しているというお話がありました。中島社長は、「自律分散型」の経営・組織運営を掲げられています。この実践にあたって、どのような意図を持ち、どのような点に注力されているのでしょうか。

中島 規巨
中島

エレクトロニクス産業として、長いスパンでの方向性はわかっている。ただ、そこにはさまざまなコンペティターがいるわけですよね。そうした中で、お客さまから信頼されるためには、一人ひとりの人材に、決められる人・実行できる人になってもらうことが必要不可欠となります。そうしたシーンで、判断を誤らないようにするのが村田製作所流の自律分散型の組織です。自律だけが先行して進んでしまうと、勝手な人が増えるだけで終わりかねません。私がずっと言い続けているのは、自律性はもちろん大切だけれど、それが独りよがりではないのか、全体最適になっているかという「全体性」の大切さ。そもそも隣の人や他の部署がやっている仕事を把握しているのか。それをわきまえたうえでの決断になっているのかということですね。そして、もう一つのファクターが「進歩性」。経営環境がどんどん変わっていく中で一度決めたことをいつまでも引きずっていてはいけませんよね。積極的に、柔軟に対応していけないようでは、自律分散型の組織運営ができる状態とは言えないんです。各事業部や事業所がこだわりを持って、尖った強みを持っていることは、村田製作所の確かな強みだと思います。ただ、社長の立場になり、全体を俯瞰して見てみると、「あれ、一緒にやったら、もっとすごいことになるのに」「いや、そのテーマ、他の部署でこんなに進んでいるんだけど……」といったケースが散見される。それって、すごくもったいないことですよね。

林 幸弘

強みを尖らせていく「自律性」。そして、変化に柔軟に対応していく「進歩性」。貴社の場合、この2つは、すでに備えている部分だと思いますが、「全体性」を持たせるという点は、なかなか難しい課題ですよね。

中島 規巨
中島

そうですね。重要な課題であるからこそ、社内のSNSを使って、私自身もどんどん思っていることを発信しているんです。まあ、「しょうもないこと」も発信しているんですが(笑)。本当は従業員全員で「しょうもない会話」ができる場にしたいと思っているのですが、そこまでは至っていない感じですね。

時代に合った「中長期的な関係」

時代に合った「中長期的な関係」
林 幸弘

昨今、マスメディアで必要以上に「ジョブ型雇用」へのシフトが叫ばれ、長期就労を前提とした雇用慣行は時代遅れのような風潮が生まれています。しかし、村田製作所では、ある意味で日本的な「中長期的な会社と従業員の関係構築」を大事にされていると伺いました。

中島 規巨
中島

「従業員と会社の中長期的かつ持続的な成長」を重視しているのは事実です。ですが、業務や部署によっては「ジョブ型」に近い働き方や労働環境が合っているところもあるんです。ですから、これからそうした点を柔軟に考慮し、新たな雇用形態を取り入れることはあると申し上げておきます。

林 幸弘

冒頭でお話しいただいた、アメリカの西海岸などですかね。

中島 規巨
中島

そうですね。ただ、あくまで、ベースは中長期的な雇用が理想であることは間違いありません。村田製作所の主力製品であるコンデンサは、独自のノウハウでつくり上げられる非常に特殊な製品です。他社からすると、最終製品としてのコンデンサを手にとって見ることはできても、何をどうやってつくれば、これが出来上がるのかということは解明ができない。そのおかげで、他国の企業から真似されず、シェアを高く保ち、価格を維持できています。技術力が競争力の源泉になっているので、「人が時間をかけて習熟度を上げていく」ことは極めて重要であり、人が辞めてしまうことは「情報流出のリスク」にもつながりますから。結局は個人が決めることではありますが、社内の雰囲気はとてもいいですよ。例えば、組合などを見てみてもいがみ合うことはなく、「どうしたら、会社が楽しくなるだろう?」とか「働きやすくなるだろう?」といった建設的な意見を交わせる場になっていますから。それと、中長期的な雇用とセットにされることの多い年功序列については、村田製作所にはあまり当てはまりません。職業スキルに応じた職能制を採用しているので、若い人がトップに立っているケースも多いですし、年齢に関係なくチャンスをつかめる風土は整っていると思います。

林 幸弘

これまでの日本型雇用と同じではない。けれど、中長期にわたって関係を構築していく。

中島 規巨
中島

そうですね。ダイバーシティ&インクルージョンに関しても、インクルージョンをベースとした「ダイバーシティonインクルージョン」という想いを持って推進しています。テクニックだけでダイバーシティを推進しても、遠心力しか生まれません。帰属意識や一体感みたいなものがベースにないと、企業価値は向上しないと考えています。社是や企業理念への理解を考えると、中長期的な視点で働いてほしいところですよね。村田製作所のビジネスは垂直統合で成り立っていますから、一人でできる仕事は皆無なんです。独りよがりの成果は絶対にあり得ない。だから、「俺が、俺が」という人よりは、仲間意識を持って取り組んでくれる人の方が村田製作所にはフィットするんですよね。もちろん、職種によっては尖りきった人材も必要になりますけどね。

林 幸弘

遠心力ばかり働くと、どうしても個人主義に陥りますね。

中島 規巨
中島

10年前は韓国が、今は中国が私たちのコンペティターになっているのですが、彼らが積極的に情報を取ってきているかというとそうではありません。技術を教えに行っているのは日本人だったり、アメリカ人だったりする。こうした状況が生まれたのは、遠心力が強くなり過ぎた結果なのではないでしょうか。

林 幸弘

今後、M&Aを含めて、仲間を増やしていくことになると思います。社是をはじめとした村田らしさに理解・共感してもらうことは、とても重要なポイントになりますよね。

中島 規巨
中島

ここ10年だけでも多数のM&Aを行っているのですが、村田製作所の社是や企業理念を受け入れられそうかどうかは大きな判断基準にしています。ただ、私たちの場合、10年先に何をしなければならないかが見えていますので、私たちに足りない技術を吸収することをM&Aの目的にしているんです。ですから、すぐに、目に見えた成果につながらないというのが実情ではありますね。3年から4年かけて、ようやくうまく回り出すケースが多いんです。難しさはあるものの、社是や企業理念を共有し、彼らなりの理解をしてもらうという取り組みが結実したと言っていいでしょうね。

“ミスター”は究極の国際人?

“ミスター”は究極の国際人?
林 幸弘

世界で闘える「組織・人材」について、お考えをお聞かせください。特に、グローバルで活躍できる人材を育成するためには、どんな経験を積むことが必要だとお考えでしょうか。

中島 規巨
中島

人材育成には、相当の時間とお金をかけて取り組んでいます。ただし、それだけでは国際人というのは育めない。再三、話題に出ている「自律分散」が実現できる人であれば、非常にポテンシャルは高いと思います。でも、一朝一夕ではいかない。では、最速の方法は何かというと、やはりローテーションだと思います。実際に肌で触れて、感じて、現地の人に染まる。腰掛けではできませんから、何年かの計画で現場に行く。それが最高の方法だと思っています。

林 幸弘

「直接経験」ですね。

中島 規巨
中島

そうですね。現地の外国籍従業員は、「この人たちは何をやってくれるんだろう」という感じでこちらを見ています。彼らの悩み事に寄り添い、解決策を打ち出し、ドライブするといったことが一番信頼関係の構築につながります。また、お客さまに対応するメンバーであれば、どこまで親身になって課題解決にあたれるかが問われることになりますよね。そうした体験を直にしてもらう。今のところ、これに勝る方法はないと思っています。でも、これからどうかはわかりませんよ。バーチャルな世界が広がっていく中で、もっと良い方法が生まれてくるかもしれません。

林 幸弘

中島社長自身、フランスなどでさまざまな「直接経験」をされてきたと思います。そうした経験を最大限に活かし、学んでいくためには、どんな要素が必要だと思われますか?

中島 規巨
中島

私は収穫ばかりではなくて、たくさん失敗もしているんですけどね。だいたい忘れてしまうんですよ(笑)。だから、まず一番に思い浮かぶのは、ポジティブであることでしょうか。先日、社内のSNSで「また会いたいと思う人ってどんな人だろう?」というメッセージを発信したんです。そこで最初に頭に浮かんだのが、長嶋茂雄さん。最近のプロ野球で、ちょっと物足りなさを感じるのが、ゾクゾクさせてくれたり、いるだけでベンチの雰囲気が明るくなったり、見ているこちらも元気にさせてくれたりする選手がいないこと。究極、長嶋さんがいるだけで日本経済が豊かになってしまうような感じがあるじゃないですか。そうした人って、どこに行っても愛されるでしょう? あとは、どこまで本気で相手の気持ちになれるかですかね。先読みができる「洞察力」と「共感力」といった要素は大切ですよね。

「透明性」が、価値創造の原点に。

「透明性」が、価値創造の原点に。
林 幸弘

村田製作所は「世界トップ」を生み出し続けています。今後、どのような役割を果たしていくことになるのでしょうか。また、どのような展望を抱いているのでしょうか。

中島 規巨
中島

果たすべき役割を考えると、「文化の発展に貢献する」という社是のフレーズに行き着きます。そして、どのようにそこに行き着くかが展望になります。村田製作所は、まったく異なる3層のビジネスポートフォリオを持っています。いわゆる「ポートフォリオ経営」は、市場に対してどれだけ特徴あるものをつくっていけるかに尽きるんです。1層目のポートフォリオは「コンポーネント」。創業時から続く、コンデンサをはじめとしたエレクトロニクスのインフラになる製品を開発・提供します。お客さまのニーズをキャッチアップして、同業他社よりも先んじた技術によって、新たなスタンダードをつくり、それを水平展開していく形です。2層目は「デバイス/モジュール」。スマートフォンをはじめ、勢いのあるお客さまに向き合い、徹底的なカスタマイズによって競争優位性の獲得を目指します。それを担うのは、技術をすべて理解した「商品技術」と呼ばれる人材たち。「他社への展開」を視野に入れながら、課題解決に貢献しています。

林 幸弘

そこには絶対に負けられない闘いがいくつも存在していますよね。私たちからすると、極めて難易度が高い挑戦に映りますが、貴社の場合はそれがスタンダードだという。そして、3層目のポートフォリオは新たなチャレンジになるわけですね。

中島 規巨
中島

未来を先回りして、準備する。その象徴ですね。まだ固まっていない、まさにこれからつくっていく事業領域です。例えば、5G。この移動通信システムには「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」という3つの特徴があります。低遅延になれば、スマートフォンに必要なのは通信機能だけになるので、今までにない形が実現できるようになるでしょう。また、モビリティの世界に目を向ければ、同時多接続によって多くの自動車を同時に監視して制御できるようになりますし、医療で言えば、1人のお医者さんと離れた場所にいるたくさんの患者さんとつなげることもできるようになります。スマートファクトリーの実現といったテーマにおいても、工場の設備をすべてリアルタイムで可視化し、制御することができるようになるんです。そうした未来を想像し、「どうなっていくんだろう」「どうしよう」といったことを考えながら、準備していく。そんな事業にしたいと考えています。

林 幸弘

まさに、未来をつくりに行くといった感じですね。では、最後に、中島社長が経営において大切にされていることをお聞かせください。

中島 規巨
中島

自律分散型の経営・組織運営にしても、「ダイバーシティonインクルージョン」にしても、社長に求められるのは、すべてのステークホルダーに対して、「経営の透明性」を高めることだと考えています。先ほども話題に出ましたが、特に従業員との対話は重視しているポイントです。SNSなどを活用して私が考えていることや、やろうとしていることを知ってもらう機会を増やし、「一人も取り残すことない組織改革」につなげていきたいと考えています。また、地域の皆さまに対しては、これまでと同じように「有名だけど、何をやっている会社やろ?」などと言われないように、能動的に貢献していくことを心がけます。当然、お客さまやパートナー企業、株主の皆さまに対しても、然りです。

林 幸弘

さまざまな要素が存在する中で、「透明性」を挙げられた。その背景はどこにあるのでしょうか。

中島 規巨
中島

本当に価値のあるものをつくるには、腹を割って向き合う必要があるからです。物事のきっかけとして「オープンイノベーション」が大事ですが、その先には密になってやらなければいけないこともあります。お互いに腹を割って議論することで、特異性があるものが生まれると考えています。事業を成長させるにしても、お客さまや従業員と対話を重ねて、「透明性」を高めていかなければ始まりません。そして、次の経営体制をつくることも社長に課せられた大きなテーマです。そのためには、次代を担うメンバーたちに、伝えるべきことを伝えていかなければなりません。まだまだ一方通行なところはありますが、決して妥協することなく、価値ある未来をつくっていきたいものですね。

「透明性」が、価値創造の原点に。
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