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「7分間の奇跡」を実現した組織変革の秘訣
 

「7分間の奇跡」を実現した組織変革の秘訣

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  • 矢部 輝夫

    矢部 輝夫Teruo Yabe
    合同会社おもてなし創造カンパニー 代表

    1966年日本国有鉄道入社。電車や乗客の安全対策を専門として40年勤務。2005年鉄道整備株式会社(現株式会社JR東日本テクノハートTESSEI)取締役経営企画部長に就任。新幹線の清掃会社を「トータルサービス」の考えを定着させることでおもてなし集団へと変革。専務取締役、おもてなし創造部長など経て、2015年退職。合同会社おもてなし創造カンパニーを設立し代表に就任。

THE MEANING OF WORK第1回でご登場頂いた矢部氏。テッセイ(株式会社JR東日本テクノハートTESSEI)で「7分間の奇跡」「新幹線劇場」が生まれるきっかけをつくった矢部氏に、前回の取材では掲載しきれなかった。組織変革実現のために大切にされていたことを伺った。

PDCAサイクルではなくDDCSAサイクル

PDCAサイクルではなくDDCSAサイクル

私が組織変革に取り組む際、意識していたのはPDCAサイクルではなく、DDCSAサイクルを回すというイメージでした。業務のオペレーション変革や、事業改善においてはPDCAサイクルは奏功しますが、組織変革においては「PDCAサイクルを回す」という考え方そのものが、社員の自立的な行動を妨げてしまうことがあります。

Planはトップマネジメントによる上意下達の計画となり、
Doが強制力を持つと社員は受け身の姿勢になり、
Checkは短期的で狭い視野で考えるようになり、
Actionにおいても検証不十分なまま前年の踏襲・繰り返しになることがあります。

テッセイで私が行ったことは、
・Design
・Discuss
・Share
・Co-create
・Acknowledge
というDDSCAサイクルでした。
「数値だけのマネジメント」と「人の創造性・しなやかさ・モチベーションを引き出すマネジメント」との違いです。

PDCAサイクルではなくDDCSAサイクル

定性的で良いので「人や組織をどんな感情・状態にしたいのか」をデザインし、話し合い、イメージを共有し、ともに創り上げ、認める。「定量的な成果を出さなくていい」ということでは決してありません。しかし、「数字ありき」のPDCAマネジメントにしてしまうと、前述したように強制的で短期的で視野狭窄な状態に陥ってしまうのです。数字や成果は後からついてきます。 Design・Discuss・Share・Co-create・Acknowledgeという姿勢で組織変革に臨むことが、人や組織をのびのびと変化させていく大切なポイントだと考えています。

「自分一人では何もできない」と知ることが経営者・マネジャーの出発点

自分一人では何もできない

経営者やマネジャーという立場で、組織やチームを率いる時、最も大切なことは「自分一人では何もできない」ということを知ることだと思います。当たり前のことですが、とても大切なことです。経営者やマネジャーになる人というのは、「プレイヤーとして優秀である」と評価され、自信をつけた状態でその立場につきます。しかし、自分が自分の範囲でやるべきことをやるプレイヤーと、マネジャー・経営者は立場が全く違います。責任の範囲が広がり、組織・チームとしてやるべきことの量も、プレイヤーの時とは桁違いです。プレイヤーとして評価され自信を持つことで、時に「全能感」を持つことがありますが、それでは失敗します。最初から謙虚な心構えを持つか、あるいは痛烈な失敗経験を通じて、優秀な経営者やマネジャーは「自分一人では何もできない」ということを知るのだと思います。そこが組織を率いる者としての出発点です。

大きな組織でも、分解していけば全てチームの集まりです。チーム一つひとつが自律的に動けるようにすることが大切です。そのため、私もテッセイにいた時、組織づくりの肝になるのはミドルマネジャーだと考えていました。当時を思い起こせば、ミドルマネジャーさえも、自分たちの仕事を「お掃除屋さん」だと考えていました。その状態では、いくらトップが放射的に「お掃除屋さんではなく、新幹線を支える技術者である」「新幹線劇場をつくろう」と伝えても、伝わりません。まずは、ミドルマネジャーの意識・行動を変えることからスタートしました。全ては、「自分一人では何もできない」という考えに基づいたアクションです。

核となる組織課題の抽出

核となる組織課題の抽出

課題解決をする上で、最も大切なことは、課題が何かということを正しく捉えるということです。課題解決に苦しむ人の多くが、「課題が何か」に気づいていないことが多い。

極端に言えば、「売上が落ちています!」「では売上をあげましょう!」という状態になっているということです。私は、もともとJRで安全対策を考えていた人間です。そのため、「組織課題に対する対策」についても、安全を考えていた時と同じように考えていました。

私がJRで安全対策を考えていた時、何か問題が起きた時に頭の中に浮かべるのはFTA(フォルトツリーアナリシス)でした。事象に対する因果関係をツリーの形で分析し、水準の高い要因から漏れや重複がないように整理していきます。本来のFTAではANDゲートやORゲートという制約条件や、各事象の発生確率の割り当てを行っていきますが、ツリーにして視覚化するだけでも課題抽出の解像度は高くなります。

FTA(フォルトツリーアナリシス)

テッセイの際に「組織に活気がない」という事象から、FTAのフレームを使って「上司が現場の努力を見ていない(少なくとも見られていないと思っている)」「社員が自身の仕事はただの掃除屋だと思っている」という課題に辿り着きました。この課題設定をできたことが、組織変革の最も重要なポイントの一つだと思います。

成功事例についても分析する

成功事例についても分析する

組織変革を進めていると、やはり「うまくいっていない事象」に目が行きがちです。うまくいっていない事象を分析して、対策を立てて、ということは当然大切なのですが、やはりうまくいっていない事象ばかりを見ていると、暗い気持ちになっていきます。そのため、意識的に成功事例やお客様から反響のあった施策についての分析もするようにしていました。

例えば、お客様から非常に好評だった「新幹線清掃の前にお辞儀をすること」に対する分析結果は、「礼儀正しい姿に人は好感を持つ」「短い時間の中でもわざわざお辞儀の時間をつくることで、安全面の余裕や安心を感じていただけている」「新幹線劇場のショーとしての始まりという演出効果がある」などなど。好評な施策に対する分析は、単純に心がワクワクしてきます。そして、分析することで次の施策へのヒントも得られます。新幹線劇場の演出には他にどんなことができるだろうか、実直で真面目なスタッフの良さをどうすればもっとお客様に伝えられるだろうか。組織変革というと、悪いところに目が行きがちですが、長所を伸ばすことで自信も生まれますし、ネガティブな空気をポジティブに持っていくことができます。

あなたの「キョウイク」を見直す

あなたの「キョウイク」を見直す

「社員の教育がうまくいかない!」とご相談を受けることが多くあります。どんな教育をしているのか、詳しくお話を聞くと、間違った「キョウイク」をしているケースがほとんどです。それは「矯育」「脅育」「恐育」「狭育」「怯育」「凶育」という「キョウイク」です。

間違ったキョウイク

例えば現場の課題や弱点が見つかった時、現場の社員から様々な意見が上がったとします。それは経営者やマネジャーにとっては耳の痛い話です。そんな時に「生意気言うな」「言われた通りしろ」という言葉や態度をとってしまえば、社員はあっという間にやる気を失います。そして「言われたことだけやっておこう」というスタンスになり、モチベーションは上がらず、組織の課題も放置されたまま、いずれ組織は腐っていきます。

しかし、社員からの意見に対し「すごいぞ!ありがとう!」「一つひとつ一緒に解決しよう!」という姿勢で臨めば、認められた喜びや効力感で、人も組織も自立的に変化していきます。それが「共育」「協育」「驚育」「響育」「鏡育」「恭育」なのです。あなたの「キョウイク」は、どんな「キョウイク」になっているでしょうか。ぜひ一度見直してみてください。

自立的に変化するキョウイク

「あいつにはついていけない」と言われるようなリーダーの要素を挙げてみましょう。「本気じゃない」「公正な評価をしない」「言行不一致」「真摯さを感じられない」「上から目線」「継続せずにコロコロ変わる」「理不尽な叱責」などなど。この逆をすれば、「あの人についていきたい」と言われるようなリーダーです。これもまた「鏡育」ですね。

ミドルマネジャーと共に組織を変える

ミドルマネジャーと共に組織を変える

私がテッセイの組織変革を推進した時、最も重要視したのがミドルマネジャーです。ミドルマネジャーは組織の中で様々な機能を担っています。「会社方針の伝達・浸透」「チーム統率」「現場の課題抽出」「現場レベルの対策策定」「改革推進」「スタッフとの協働」「連帯感の醸成」「教育・訓練・人材育成」「トップへの改善策提案」など、多岐に渡ります。トップとメンバーの間をつなぐ結節点として、組織におけるミドルマネジャーは強力なエンジンなのです。彼ら彼女らと共に目指すべき組織を思い描き(Design)、みんなが納得するまで話し合った(Discuss)ことが、10年もの月日をかけて実現したテッセイの組織変革であり、7minits miracleでした。

7分間の奇跡の仕組み

私は経営者という立場でしたが、それは「偉い」立場では決してありません。「マネジメントする」「人を動かす」というただの役割です。どうすればみんなが動いてくれるのかを考え抜き、どんな手を使ってでも動かすという思いで、様々な施策をやり抜きました。ミドルマネジャーと、そしてその先にいる社員全員と共に、組織を変えることができたことは、私のかけがえのない財産です。

トップがビジョンを示し、鍵となるミドルマネジャーが組織の結節点となり、最前線のスタッフと納得するまで話し合うことで、その先にいるお客様に価値が届く。組織はみんなで創る作品である。

The Meaning of Work
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