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人とコンピュータに、新たな共生関係を。

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  • 伊藤 雄一

    伊藤 雄一YUCHI ITOH
    青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科教授
    大阪大学 大学院情報科学研究科 招へい教授

    2008年より大阪大学 ウェブデザインユニット(現クリエイティブユニット)准教授、大学院情報科学研究科准教授(兼務)。博士(情報科学)。研究者としてヒューマンコンピュータインタラクション業界で活躍し、国内外の学術会議やシンポジウムにおいて最優秀論文賞、最優秀デモンストレーション賞を受賞。人とコンピュータの関係をよりよくすべく新たなインタラクション技術の確立に関する研究に従事しており、手がける研究の数々はさまざまな業界から注目を集めている。

  • 大島 崇

    大島 崇TAKASHI OSHIMA
    株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションエンジニアリング研究所 所長

    京都大学大学院修了後、大手ITシステムインテグレーターを経て、2005年、株式会社リンクアンドモチベーションに入社。中小ベンチャー企業から従業員数1万名超の大手企業まで幅広いクライアントに対して、組織変革や人材開発を担当。現場のコンサルタントを務めながら、商品開発・R&D部門責任者を歴任。2015年、モチベーションエンジニアリング研究所所長に就任。

  • 林 幸弘

    林 幸弘YUKIHIRO HAYASHI
    株式会社リンクアンドモチベーション
    モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員
    「THE MEANING OF WORK」編集長

    早稲田大学政治経済学部卒業。2004年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。組織変革コンサルティングに従事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員として、日本で働く外国籍従業員のエンゲージメントやマネジメントなどについて研究。現在は、リンクアンドモチベーション内のR&Dに従事。経営と現場をつなぐ「知の創造」を行い、世の中に新しい文脈づくりを模索している。

人がコンピュータを操作する時代から、コンピュータが人に干渉する時代へ。劇的な進化を続けるテクノロジーは、私たちに何をもたらすのか。ヒューマンコンピュータインタラクション業界の第一人者である伊藤雄一教授とともに、来るべき未来と人のあるべき姿を語る。


第一線で活躍する研究者は、クラスの「キテレツ君」だった。

第一線で活躍する研究者は、クラスの「キテレツ君」だった。
林 幸弘

伊藤先生が科学者の道に進んだ原点は何だったのでしょうか。

伊藤 雄一
伊藤

私がプログラミングを始めたのは、小学2年生の時。父親から『こんにちはマイコン』という学習マンガを買い与えられたことがきっかけでした。『ゲームセンターあらし』の作者・すがやみつる先生の本ですね。

林 幸弘

懐かしいですね。『コロコロコミック』(小学館)の。

伊藤 雄一
伊藤

今の若い人は知らないですよね(笑)。その本をきっかけに、新聞の折り込みチラシの裏にプログラムを書くようになりました。当時のパソコンはとても高価で、50万円以上もしましたからね。気軽に買ってもらえるような代物ではなかったんです。で、土日になると、書いたプログラムを電気屋さんに行って、パソコンに入力し動かしてみるわけです。言ってみれば、週末の「電気屋プログラミング」。これは、私と同世代の研究者あるあるなんですよ。みんな、同じようなことをしていたという。

林 幸弘

チラシの裏にお絵かきをするなんてことはありますが、そこにプログラムを書くとは驚きです。人に歴史ありといった感じですね。

伊藤 雄一
伊藤

もう一つ大きかったのが、小学4年生の時にクラスの発明係に任命されたことですね。担任の先生から、「あんたはモノをつくるのが得意やから、クラスのためになるモノを発明せえ」と。そこで、メダカの自動餌やり機をつくりました。原理は時限爆弾と一緒。時計の針が重なる瞬間に電源が入り、餌が入った容器が傾くといった仕組みです。ただ、その発明は大失敗。想像以上に針が重なる時間が長くて、水槽が大変なことになってしまいました。まあ、それは小学生の浅知恵といった感じでしたが、とにかくいろいろなモノをつくっていましたよ。僕のチャリには、自作のロケット花火発射装置がついていましたし、ロケットエンジンの原理をもとにミサイル発射装置を発明したこともありました。

林 幸弘

まるでマンガの世界ですね。ひみつ道具みたいなものを自分でつくってしまう。すごいですね。

伊藤 雄一
伊藤

『キテレツ大百科』みたいな感じでしたね(笑)。クラスの友だちからも、いろいろな依頼が寄せられていましたし。僕がこういう職業に就いていると聞いて、意外に思う人はいないんじゃないかと思いますよ。「ああ、そんな感じだったよね」って。

モノから広がる可能性。「面白さ」が原点となった。

モノから広がる可能性。「面白さ」が原点となった。
林 幸弘

ここまでは、伊藤先生のバックボーンについて伺いました。ここからは、「無意識コンピューティング※1」という概念を見出すまでの経緯を伺いたいと思います。

※1 無意識コンピューティング:人とコンピュータの新たな共生関係を示す概念。人がコンピュータを操作する関係から、コンピュータが無意識のうちに人に干渉し、よりよい行動へと導いてくれる関係へとシフト。人が人らしく生き、より幸せになれる未来の実現を目的としている。

伊藤 雄一
伊藤

「プリミティブなモノをつくって、そこから新たな可能性が広がる」ことを実感した。それが、大きなきっかけになりました。大学院時代、僕はバーチャルリアリティーをテーマにした研究室に所属していたのですが、そこで「ActiveCube」というインターフェースを開発し、研究を進めていたんです。これは、マウスやキーボードの代わりに、ブロックを組み立てることでコンピュータを操作できるというもの。この研究がさまざまな分野に広がっていきました。アルツハイマー病の診断を行う医療用アプリケーションへの活用などはその代表的な事例ですね。プリミティブなモノをつくってみたら、いろいろな可能性が見えてきた。そこで感じた面白さが現在のテーマの原点にあると思っています。

モノから広がる可能性。「面白さ」が原点となった。
林 幸弘

ブロックを組み立てると、動く。とても面白いですね。

伊藤 雄一
伊藤

この研究に携わるきっかけとなったのは、当時の教授のひとことでした。「お前、電子工学科の出身やから、はんだ付けとかできるやろ。なら、モノづくりの研究をしろ」みたいな感じで。ひどいですよね(笑)。

林 幸弘

「電子工学科=はんだ付け」というのは、なかなかすごい理由です(笑)。でも、今までの経験や、ここでの想いが「無意識コンピューティング」の世界に収斂されていくことになるのですね。

伊藤 雄一
伊藤

そうですね。その後で「Ambient Suite※2」という研究に取り組みました。この研究は、マグカップ型のデバイスや部屋のセンサーがそこにいる人の状態を見極め、コミュニケーションを支援し、場を盛り上げてくれるというもの。コンピュータが無意識のうちに、人を支えてくれる。「無意識コンピューティング」を象徴する研究であったと思います。

Ambient Suite

※2 Ambient Suite:部屋に搭載したセンサーや、カップ型のデバイスからあらゆるデータを取得。共通の趣味を提示してくれたり、会話の仕切り役を回してくれたり、コンピュータ=部屋が場を盛り上げてくれる。

人が、人らしく生きるために。

人が、人らしく生きるために。
林 幸弘

あらためて、「無意識コンピューティング」という概念について教えてください。

伊藤 雄一
伊藤

僕らが行っているのは、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)という研究です。そのミッションをひとことで言うと、人とコンピュータの接点を考え、マウスやキーボード、ディスプレイに代わるインターフェースをつくることになります。ただ、この概念において、操作の主体は常に人。コンピュータは従の存在になります。僕が実現したいのは、主体が人からコンピュータに移行した社会です。コンピュータが無意識のうちに人に干渉し、よりよい行動へと導いてくれる。そして、人が人らしく、より幸せになれる共生関係が生まれる。それが言うなればコンピュータヒューマンインタラクション(CHI)、ですね。こうした人とコンピュータの新しい共生関係は、すでに始まりつつあります。スマートフォンなどはその顕著な例ですよね。知らず知らずのうちに、僕らの生活をサポートしてくれていますから。

林 幸弘

コンピュータが人を動かす。そんな時代が来ているわけですが、多くの人たちがそこに怖さを感じていることも事実だと思います。「仕事を奪われるのではないか」という現実的な懸念はもちろん、ターミネーターなど創作の世界の影響で、「何かが起こるのではないか」などという漠然とした不安もあります。

伊藤 雄一
伊藤

僕はまったくの逆ですね。人が人らしく生きるために、余計なものは取り除いて、コンピュータにやってもらえばいいじゃない、と。「無意識コンピューティング」の目的は、コンピュータに従うことではなく、人の幸せの総和を上げることなんです。「無意識のうちに」と言われると、理由のない不安を感じることもあるでしょう。実際に、現状の社会を見てみても、生活者の情報の大部分を大手IT企業が把握している状況です。でも、それを幸せな方向に使ってもらえるのであれば、メリットが上回るのであれば、僕はそれでも構わないと思っているんですよ。むしろ、自分にチップを埋め込みたいくらい。大切なのは、何のためにそれを使うのか。怖いのは、テクノロジーのせいではありませんよ。

人とコンピュータ、未来はどうなる!?

人とコンピュータ、未来はどうなる!?
大島 崇
大島

私たちは、モチベーションを切り口に、人の行動を引き出したいと考えています。「無意識コンピューティング」も、無意識のうちにコンピュータが働きかけ、人が人らしく生きられるような行動を引き出す。目指す未来は、ほぼ同じ。そこが、私たちのクロッシングポイントだと思っています。特に秀逸だなと感じるのは、人の暮らしに溶け込んだモノを媒介にしているところ。デバイスの存在を意識したり、違和感を覚えたりすると、人はそれを受け入れないですよね。例えば、目の前に「こんなつまらない仕事、やってられない」と投げやりになっている部下がいたとします。そうした場合、「仕事の先」にある価値や未来を提示して、モチベーションを喚起する「ラダー効果」を生み出すコミュニケーションを交わすのですが、この手法はネタばれしてしまうとその後が続かないんです。部下から「あ、それ、ラダー効果ですよね」なんて言われてしまってね(笑)。

林 幸弘

確かに。そう言われると、「無意識のうちに」というアプローチは大きな可能性がありますね。今後、コンピュータのあるべき姿はどのように変わっていくのでしょう。

伊藤 雄一
伊藤

スマートフォンの小型化が進み、さまざまなモノにコンピュータが搭載される。今でもその傾向は顕著ですが、もっと「姿が見えなくなる」のでしょうね。ユビキタスコンピューティングの概念に近いですが、より溶け込んでいくイメージを持っています。少し古い事例ですが、「aibo(アイボ)」なんてそうですよね。すごく高性能なコンピュータが搭載されているのだけれど、犬型のペットロボットだからそれを意識させない。そうしたモノが当たり前に存在するようになると思います。すべてのコンピュータが、常に人の幸せを考えて、支援してくれる。ゆりかごから墓場まで、コンピュータが寄り添ってくれる。そして、僕らはより人間らしく生きていける。心地よさを感じられる。デジタルの海にぷかぷか浮いているようなイメージでしょうか。

林 幸弘

人とコンピュータの関係性が変わることで、人の在り方も変わっていきますよね。そもそもコンピュータ自体、人が生み出したもの。科学の力で人が変わり、難易度の高い社会課題を解決する。そんな未来も見えてきます。

伊藤 雄一
伊藤

人は遺伝子で進化します。そして、僕は(プログラムの)コードもその遺伝子の一つなのではないかと考えているんです。「人間2.0」とでも言うのでしょうか。人がコードで進化する。実現しうる未来の、その先の話だとは思いますが……。

大島 崇
大島

人の頭の中には、無数の経験や知識が存在していて、コードもそのうちの一つですよね。社会では、人とテクノロジーを別物のように捉えがちだけれど、実はそうではないんだと。大切なことですね。

「オモロイこと」をして人の心に寄り添っていく。

「オモロイこと」をして人の心に寄り添っていく。
林 幸弘

伊藤先生の科学者としての発想は、イノベーションを期待されるビジネスパーソンにとって、大きなヒントになると思います。倫理や哲学などもろもろの判断基準を持って、価値創造に向き合っている人たちに向けて、どのようなことを心がけて研究に臨まれているかを教えていただけますか。

伊藤 雄一
伊藤

製品の開発やサービスにおいては、さまざまな要因を考慮してバランスを取ることが求められます。けれど、私のような科学者の場合は、技術に振り切って物事を考えるんです。昔のラジオのチューニングって、いったん振り切ってから合わせていたじゃないですか。あれと一緒です。倫理的にやってはいけないことはもちろんありますが、科学者は本来そうあるべきだと思っていますよ。

林 幸弘

なるほど。最初からバランスを取ると、どうしても枠にとらわれがちになりますよね。では、新たな価値を生み出すうえで、意識していることはありますか?

伊藤 雄一
伊藤

インプットをいかに増やすか、ですね。さまざまな論文を読んで、新たな知見を得ること。世の中のあらゆるニュースにアンテナを張ること。とにかく入力量は膨大ですよ。サブカルやコンビニスイーツにも詳しいですよ、僕は(笑)。人間は、ある事象に対して、同じリアクションを取ります。例えば、我が子の成長記録を撮影していたとします。で、子どもが転びそうになった時に、映像の中の僕と、それを見ている僕は同じ言葉を発するわけです。「危ない!」って。だからこそ、さまざまな情報を得て、いかに入力を変えるかが大事なんです。イノベーションとはゼロからイチを作り出すことというイメージを持っている人が多いと思いますが、実は新たな知の創造は、「知の組み合わせ」から生まれるもの。そういう意味では、AIもアイデアを生み出せると思っていますし、僕のデータを正確に反映することができれば、コンピュータに人格を移植することもできると思っていますよ。

林 幸弘

伊藤先生は、かなり精力的に新たな研究に取り組まれていますね。例えば、「PenSIRU※3」なんて発想が面白いし、今すぐ新人研修で使わせていただきたいくらい本質的です。「あの子、理解してないな」みたいなことがすぐわかる(笑)。先生の原動力となっているのは、どのような想いなのでしょうか。

PenSIRU

※3 PenSIRU:ペン型のデバイスを活用し、筆圧からその人の状況を把握することができる。自信を持って、テストの問題を解けているのか。それとも不安を感じながら四苦八苦しているのか。諸々のデータから、理解度を測定することも可能。

伊藤 雄一
伊藤

「オモロイこと」をして、人の役に立ちたい。同じ研究仲間を悔しがらせたい。そこですね。人の役に立たなければ意味はないですし、オモロイこと、新しいことをしなければ、仲間たちは驚かない。だから、常にインプットを怠らないし、振り切って技術を追求するわけです。

林 幸弘

ありがとうございます。では、最後の質問になります。「無意識コンピューティング」が実装された未来は、どのような世界であってほしいとお考えですか?

伊藤 雄一
伊藤

コンピュータが無意識に生活に溶け込んでいて、その示唆が人の幸せにつながっていく。繰り返しになりますが、そこに尽きますね。現在、僕はスマートベビーベッドの研究プロジェクトに参画しているのですが、赤ちゃんの状態をセンシングし、「なぜ、泣いているのか」「何をしてほしいか」がわかる「ソフロボ」というロボットを開発しました。子育ての知恵を持った人が身近にいないことは、昨今の大きな課題です。「ソフロボ」のネーミングは「祖父母」が由来。ロボットが赤ちゃんを見守り、おじいちゃん、おばあちゃんの代わりにアドバイスしてくれるわけです。信頼とあたたかみを感じさせるテクノロジーが、育児困難を解決してくれる。母子手帳の代わりに、ロボットが手渡される。そんな未来が当たり前になるかもしれませんよ。

大島 崇
大島

人とテクノロジー、人とコンピュータ。それらが自然に溶け合えば、親近感が生まれますよね。その関係性は決して無機質なものではない。心からそう思いますし、人にあたたかみをくれる新しい形になるとも思います。よくよく考えてみれば、今でも同じようなことは日常で起こっていますよね。私自身、無意識のうちに「Alexa(アレクサ)」と会話していることがありますから。質問に答えてくれなかった時に、「あ、わかりにくかった? ごめん」なんて(笑)。

伊藤 雄一
伊藤

わかります(笑)。もう、未来は始まっているのかもしれませんね。

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