「″All″から″Whole″へ。100年続く企業に学ぶ、循環する持続可能な組織デザイン」イベントレポートvol.1
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加藤 佑YU KATO
ハーチ株式会社代表取締役(IDEAS FOR GOOD編集長)1985年生まれ。東京大学卒業後、リクルートエージェントを経て、サステナビリティ専門メディアの立ち上げ、大企業向けCSRコンテンツの制作などに従事。2015年12月に Harch Inc. を創業。翌年12月、世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」を創刊。現在はサーキュラーエコノミー専門メディア「Circular Economy Hub」、横浜市で「Circular Yokohama」など複数の事業を展開。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格保持者。
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北林 功Isao Kitabayashi
一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会 代表理事/COS KYOTO株式会社 代表取締役大阪ガス(株)でエネルギー設備の営業、(株)グロービスで人材育成コンサルタントとして活動したのち、同志社大学大学院ビジネス研究科に入学し、「文化ビジネス」を研究。同大学院修了後、2013年にCOS KYOTO(株)を設立。「Edonomy®」を提唱し、持続的な社会の構築のために地域の自然・風土に根付くモノ・コトをグローバルに伝えていくことを目的に、販路開拓や各種ビジネスコーディネート、国内外との文化交流イベントの企画・運営等を手掛けている。2012年〜2014年にはTEDxKyotoのディレクターを務めた。2016年より「DESIGN WEEK KYOTO」をスタート。
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大島 崇TAKASHI OSHIMA
モチベーションエンジニアリング研究所 所長大手ITシステムインテグレータを経て、2005年リンクアンドモチベーションへ中途入社。中小ベンチャー企業から従業員数1万名超の大手企業まで幅広いクライアントに対して、プロジェクト責任者としてコンサルティングを行う。現場のコンサルタントを務めながら、商品開発・R&D部門責任者を歴任。
サーキュラーエコノミーが推進される社会において、持続可能な組織デザインを考えるオンラインイベント「“All”から“Whole”へ。 100年続く企業に学ぶ、循環する持続可能な組織デザイン」(DESIGN WEEK KYOTO主催/IDEAS FOR GOOD、THE MEANING OF WORK共催)が2月27日に開催されました。第1部では「循環経済と持続可能な企業づくり」と題し、3名の有識者が講演。その要旨を採録します。
サーキュラーエコノミー(循環経済)とは?
加藤 佑
サーキュラーエコノミーとは、ゴミが出ない、資源のムダが出ない経済サイクルのこと。従来の「資源→製品→消費→廃棄」という直線的な経済の流れから、「資源→製品→消費・利用→回収・再資源化→……」という環状の流れへと転換する。気候変動や資源の枯渇といった問題が深刻化する中、環境への影響を最小限にしながら、持続可能な方法で有限資源を活用し、資源生産性を高めることは、世界にとって喫緊の課題であると言えるでしょう。 英国のサーキュラーエコノミー推進機関であるエレン・マッカーサー財団では、サーキュラーエコノミーの3原則として「廃棄物・汚染などを出さない設計」「製品や資源を使い続ける」「自然のシステムを再生する」を挙げています。これらの原則に基づいて、再生可能な原材料を利用する、製品を回収・リサイクルする、製品寿命を延長する、シェアリング・プラットフォームを構築する、製品のサービス化(Product as a Service:PaaS)を図るといった、新たなビジネスが求められることになります。英国の経済学者ケイト・ラワース氏も「限りある自然資源のなかで社会的公正(貧困や格差などがない社会)を実現し、全員が繁栄していく」というドーナツ経済学を提唱しています。私たちは、これまでの価値観から180度転換していくことを求められているのです。 サーキュラーエコノミーの実現によって、ビジネスの常識は大きく変化します。PaaSの拡大により、プロダクトオーナーは消費者から企業となり、デザインも売れるデザインから回収や解体・再利用を前提としたサーキュラーデザインへ。「売ること」ではなく「回収すること」を重視したマーケティングが行われ、セールスも売って終わりではなく、売ってからのほうが大事になる。新たな労働市場として、回収・リペア・リサイクルなどの静脈産業が注目されるようになるでしょうし、新たに多くの仕事も生まれるでしょう。また、私たちに求められる職能も大きく変わります。トランスフォーメーショナル・リーダーシップや、サーキュラーデザイン、回収を促進するナッジ※1など、新たな職能ニーズが生まれていくことになるはずです。 アメリカでカーシェアリングビジネスを立ち上げた起業家 ロビン・チェイス氏は「父は生涯1つの仕事に従事した。私は一生のうちで6つの仕事をするだろう。娘は同時に6つの仕事をこなすかもしれない」と語っています。彼女の言葉が示すように、直線型の経済モデルにおいて効率的だった機能分化型・縦割型組織は解消され、これからの人材は「販売=カスタマーサポート=回収=調達=デザイン」といった水平的で職種横断的な役割が求められることになります。さらに、同業種・異業種・バリューチェーン間におけるパートナーシップの重要性も高まり続け、クロスセクター(複業)人材に対するニーズが強くなり、人材シェアリングが常態化することも予想されます。1人の人材が同時に複数の職業を持つ。いわば“百姓化”していくような時代が来るのではないでしょうか。 ※1 行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチのこと。 |
江戸時代の循環型社会に学ぶ持続可能な文化
北林 功
海外で広がる、サーキュラーエコノミーの考え方。では、日本はどうなのか。その疑問に向き合ってみると、実は自分たちの身近に学ぶべきことが多く存在することに気づきます。着目したいのは、江戸時代の経済や暮らしの在り方。私はそれを江戸時代のエコノミーということで「Edonomy®」と名付け、さまざまなリサーチを進めています。戦国時代が終わり、世の中が安定した江戸時代中期~後期、日本の人口は3,300万人前後で推移していました。日本列島が供給してくれる循環可能な資源の中で賄える、最大限の人口がこの数ということですね。現在から40年後、日本の人口は江戸時代のころに近い数に落ち込んでいくとされていますが、考えようによっては元に戻っていくということになるのかもしれません。 江戸時代の経済は超低成長・定常型。使われる資源は、ほぼ有機物由来でしたし、1~2年で再生するものが中心でした。さらには、それらの資源を「Reduce、Repair、Reuse、Recycle、Return、Upcycle」の要領で徹底的に使い回していたわけです。使用されていたエネルギーも太陽光、風力、水力、火力、家畜と人力というクリーンなもの。有機物の循環を考慮した土地の利活用がなされ、今でいうバイオマス社会が成立していたのです。資源の循環が暮らしの中にビルトインされていた。藩という地域のコミュニティーの中で極力自給自足し、人々は互いに支え合いながら生活していました。また、その藩同士が市場を通じて特産品を取引し、多様な地域社会が実現していました。現在、パリではコロナ禍からの復興策「グリーン・リカバリー」の一環として、15分で街のあらゆる機能にアクセスできるという「自転車で15分の街」計画を推進していますが、江戸時代の日本ではそれが当たり前でしたし、サーキュラーエコノミーという概念も、すでに実現されていたものだということがわかります。 国内の資源を循環させる江戸時代の経済においても、その仕組みを回し続けるための仕組みがビジネスとして成立していました。鍋や釜の破損を修理する鋳掛屋や、欠けた陶磁器を修理する瀬戸物焼き継ぎなどは、その代表的な例です。また先ほど、サーキュラーエコノミーにおいては静脈産業が注目を浴びるという話がありましたが、同様に、溶けた蝋を集めて再生する蝋燭の流れ買いや、ゴミや馬糞を拾って肥料や燃料にする仕事まで存在していました。江戸の街はきれいだったと言われていますが、それは静脈産業が人々のベーシックインカム的な役割も果たしつつ、その結果、街も清潔になっていたということなのでしょうね。さらには、着物もできるだけゴミの出ないデザインにする、建築においても修理を前提にした設計を行うなど、現代のサーキュラーエコノミーに通じるヒントが無数に存在していることも強調しておきたいと思います。 サーキュラーエコノミーを実現していくには、価値観の転換を行い、それを日常化していくことが必要だと私は考えています。そして、その価値観は決して新たなものではなく、つい140年ほど前の日本に存在していたものです。陶器の金継ぎをはじめ修理自体を美として愛でる価値観であったり、伊勢神宮の式年遷宮のように技術を連綿と受け継いでいくすばらしさであったり……。先人が遺してくれた財産に学び、未来に何を残すかを考える。神道の思想の一つ、「中今(なかいま)※2」の考え方が大切だと思っています。足るを知り、心を満たしていく仕組みを今の時代にアップデートしていく。その方法を皆さんと一緒に考えていきたいものですね。 ※2 神道における歴史観。過去と未来の中心点として存在する今を指す。 |
組織づくりの視点から考える循環経済
大島 崇
サーキュラーエコノミーの考え方を組織や人にどうつなげていくのかという観点から、100年続く組織をデザインしようとした時に必要となる、5つの価値観の転換について紹介させていただきます。 1つ目は、「AllからWholeへ」。勝者が総取りする「All or Nothing」の価値観から、「すべてはつながっている。分けられない全体である」という価値観へとシフトすることです。これまでに100年以上の歴史を持つ、数多くのクライアントに接してきましたが、「社会や人々とのつながりを持ちたい。大事にしたい」という意識がしっかり根付いているように感じます。 そして2つ目は、「△→◎」。私自身、組織人事のコンサルティングを行う際に、「あなたが所属している組織を図で示してください」という問いを投げかけることがあります。すると、9割以上の人が「△」と書く。組織内の階層分化・機能分化を表すヒエラルキーを示しているんですね。円環・循環という意味でのサーキュラーエコノミー的な社会において、組織は人材を包摂し、循環させる「◎」の意識を高めなければいけません。現代の企業では、「働かなくなるオジサン」や「若者の早期離職」が問題になっていますが、地球環境や資源、社会といった「より大きな枠組み」のもとで、一人ひとりの人材をどう循環させていくのか。貢献を引き出していくのか。そうした考え方が大事になってくると思います。 3つ目に挙げたいのは、「労働寿命>企業寿命」から「労働寿命<企業寿命」へ。これはある種のアンチテーゼです。70歳とも75歳ともいわれる労働寿命に対して、一般的な企業の寿命は30年。100年続く組織デザインを行ううえで、この事実は変えていかなければならない大きな課題です。昨今、「ジョブ型雇用を採用しなければ、withコロナ時代に対応できない」「雇用の流動化を実現しなければ、国際競争に勝てない」などの声がよく聞かれます。ですが、時代の波に流され、目の前の出来事に一喜一憂していては、持続可能な組織をつくることはできません。私は、バージョンアップしたメンバーシップ型の組織づくりが極めて重要になると考えています。一度雇用したら、企業と個人がどのステージになっても、しっかりと活躍してもらう工夫を行う。貢献の多様化を図ることができれば、従来の日本型組織であることが差別化のポイントになるのです。 4つ目は、「HRM→(H)CM」へ。人材業界では「Human Resource Management」「Human Capital Management」といった言葉がありますが、やや古めかしい概念になっていると私は考えます。大切なのは、一人ひとりの貢献を引き出すことであり、そのためにステークホルダーとのエンゲージメントや従業員のモチベーションを考えていくことです。これからの時代はAIやロボットも貢献を引き出す対象になりますから、あえて「(Human)Contribution Management」とさせていただきました。この辺りは、100年続いている企業は特に強いですよ。おもしろいのは、人材育成よりもその企業の教えやしきたりの共有に腐心していること。人は入れ替わっていくものだという意識を強く持っているのでしょうね。 最後は、「マズローの欲求階層説※3→欲求ドーナツ説へ」。ここが一番大事なポイントなのではないかと思っています。食欲は行きすぎれば飽食となり、承認欲求は行きすぎると自己顕示となります。また、過剰な自己実現欲求は時に独りよがりにも見えます。上に行けばよいというヒエラルキーではなく、地球環境などのより大きな枠組みの中で、欲求を最適化する。北林さんが言われたように、「足るを知る」ということが何よりも大事な価値観の転換なのかなと思います。 ※3 アメリカの心理学者 アブラハム・マズロー氏が提唱した理論。人間の欲求は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5段階で構成されているとしている。 |