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「オートメーション技術と情熱」が業界を進化させ、世界を変える。

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  • 岩本 夏樹

    岩本 夏樹NATSUKI IWAMOTO
    オムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー

    2005年、オムロン(株)入社。入社後は、制御機器事業(インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー)のセンシング系の営業部門に配属。日本全国の顧客にセンサー・画像処理に関する製品を提案する。現在は、第三営業統括部に所属し、日用品・食品・医療分野の顧客に向けて、課題解決をベースにしたソリューション営業を行い、さまざまな製品・サービスを提供している。

  • 林 幸弘

    林 幸弘YUKIHIRO HAYASHI
    株式会社リンクアンドモチベーション
    モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員
    「THE MEANING OF WORK」編集長

    早稲田大学政治経済学部卒業。2004年に(株)リンクアンドモチベーション入社。組織変革コンサルティングに従事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員として、日本で働く外国籍従業員のエンゲージメントやマネジメントなどについて研究。現在は、リンクアンドモチベーション内のR&Dに携わるとともに、経営と現場をつなぐ「知の創造」を行い、世の中に新しい文脈づくりを模索している。

オムロンでは、企業理念の実践活動をグローバル全社に共有し、褒め称え合う社内表彰制度「The OMRON Global Awards(TOGA)」を2012年から実施している。昨年9月に開催された「第11回 TOGAグローバル大会」において、日本代表としてプレゼンテーションを実施し、表彰されたのが「インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー・医療チーム」のプロジェクトだ。同プロジェクトを牽引した岩本夏樹氏に、プロジェクトの概要と企業理念の実践についての想いを伺った。


企業理念に惹かれて金融志望からオムロンへ。

企業理念に惹かれて金融志望からオムロンへ
林 幸弘

まずは、岩本さんの原点をお聞かせいただきたいと思います。「オムロンを選んだ理由」は何だったのでしょうか。

岩本 夏樹
岩本

実は、最初からオムロン志望だったわけではなく、「世の中に欠かせない仕事を…」と考えて、金融業界に就職したいと思っていたんです。オムロンを意識するようになったのは、当時のアルバイト仲間に薦められたことがきっかけ。説明会ではとにかく衝撃を受けたことを覚えています。オムロンの体温計は知っていましたが、駅の改札や制御機器など多様な製品・サービスに、「いろいろありすぎやろ!?」と驚きの連続でした。ただ、「なぜその事業をやるのか」を突き詰めると、創業者・立石一真の想いや歴史にたどり着いていくんです。社会課題を解決するためにオムロンは存在するんだと気づき、「モノづくりってカッコいい」「これほどおもしろそうな会社はない」と思うようになりました。

林 幸弘

オムロンの経営哲学や企業理念に対する熱さは、別格な感じがします。特に感銘を受けたことを教えてください。

岩本 夏樹
岩本

創業者の「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」という言葉もそうですが、やはり社憲(企業理念)「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」ですね。人事担当者や現場の先輩たちの口から、「社会のために」というキーワードが自然と出てくるんです。社憲が社員の拠り所になっているんだなと感じました。学生の立場からすると、「綺麗事すぎないか?」 と思うこともありましたが、本当に社会のことを考えているから、そうした言葉が出るんだと気づかされました。

林 幸弘

「何をするか」ではなく、オムロンの可能性に魅力を感じたわけですね。そうした企業選びは大事かもしれません。やりたいことがあって、その会社を選んだけれど、関係ない部署に配属されてしまったという“配属ガチャ”なんてものも問題視されていますから。

岩本 夏樹
岩本

とはいえ、私も“ガチャ”みたいな経験はしていますよ。入社時に金沢(石川県)に配属となり、列車に乗っていた時は、頭の中で『ドナドナ※1』が流れていましたから(笑)。でも、実際に金沢で新たな生活を始めてみると、「すばらしい街だな」とすぐに楽しめたくらい。やはり、一回やってみて判断することが大切なんですよね。

※1 子牛が荷馬車に乗せられ、市場に売られていく様子を歌った歌

TOGAがもたらした「変化」「成長」とは。

TOGAのプロセス
林 幸弘

オムロンでは、企業理念の実践活動をグローバル全社に共有し、褒め称え合う社内表彰制度「The OMRON Global Awards(TOGA)」を2012年から実施しています。岩本さんは、このイベントにどのような印象をお持ちですか。

岩本 夏樹
岩本

私が初めて「TOGA」に参加したのは2014年のことでした。ただ、当時は他のメンバーに頼りきりで、特別な意識は持たずに参加していたというのが正直なところです。転機となったのは2018年。再生医療におけるロボットによる自動化プロジェクトで売上が立ち、「『TOGA』に参加してみないか?」という打診を受けてエントリーしたら、なんとシルバー賞を受賞することができたことです。当時の私は、「今の社会課題は何か」「お客さまにどのような価値を提供できるか」を常に考えていたのですが、全社のメンバーに驚かれたり、称賛されたりすることで、自らの仕事が持つ意味をより強く実感できたと思います。

林 幸弘

ご自身の仕事が「社会のために」という目的につながっている。そんな意味づけが行われる機会になったのですね。

岩本 夏樹
岩本

私自身、入社時からその意識を持っていたかというとそうではないんです。若手の頃は、競合に負けないように、何十回とお客さまを訪問して、1個でも多く製品を売るといったことに力を注いでいました。でも、ある日、疑問が生じたのです。「こんな仕事をしていたら続かないな」と。ただ、製品を売るのではなく、お客さまや社会が抱える課題を解決する。競合に真似できない「オムロンならではの価値」を提案する。そのほうが競合にも勝てるし、世の中のためになりますからね。

林 幸弘

私にも似た経験があります。目先の数字や目標だけを追っているとエネルギーが枯渇してしまうんですよね。純粋な想いや大きな目的に向かっている感覚があると、別のスイッチが入りますから。このような変化に至ったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか。

岩本 夏樹
岩本

自分自身の気づきはもちろんですが、環境の変化が大きく影響したと思っています。かつて、私たち営業の仕事は、決まった縄張りで、決まった製品を売り、その中で売上を最大化していくというものでした。ところが、組織変更によって、業界ごとにセグメント分けされることになったんです。扱う製品がセンサー単独から、全製品になったわけですから、当時は焦りましたよ。30万点以上もある製品から何を売るのか。どうアプローチすればいいのか。ちゃんと考えないと何も売れなくなると感じたことが、スタートでしたね。

林 幸弘

1つの業界にコミットするとなると、より俯瞰的な視野が備わり、目的意識も、パッションも高まっていきますね。

岩本 夏樹
岩本

そうですね。一つ付け加えると、やはりコロナ禍の影響が大きかったと思います。逼迫する医療や医薬品製造現場を見てみると、まだまだ手作業が多いことに気づかされたんです。これほど自動化が進む社会において、薬の品質を保っているのは人だった。その事実は、私たちにとって衝撃的なものでした。これは何とかしないといけない。オムロンなら何とかできるのではないか。そうした想いをより強く抱くようになりましたね。

「ヒト」のカン・コツを数値化し医薬品製造を自動化。

「ヒト」のカン・コツを数値化し医薬品製造を自動化。
林 幸弘

今回、TOGAを受賞した「医薬充填機のパラメータ調整レス化」プロジェクトについて、概要を教えてください。

岩本 夏樹
岩本

きっかけは、2020年から2021年にかけて、医薬品製造に関する事故が相次いだことでした。福井・富山という隣県で事故が発生し、それによって人もお亡くなりになってしまった。それを受けて、「何とかしたい」と思ったのが始まりです。最初に取り組んだのは、医薬品メーカー20社へのヒアリング。なぜ、医薬品の製造工程で事故が起きるのかを見極めようと考えました。

林 幸弘

まずは、原因の究明ですね。ヒアリングによって、どのようなことがわかりましたか。

岩本 夏樹
岩本

最終的な品質チェックや繊細な設備調整を「すべて人が実施していたこと」ですね。実際に作業者に話を聞いてみると、「設備のパラメータを調整する頻度が1日に40~50回と多い」「長年のカン・コツで機械を調整している」「体力的な負担がかなり大きい」という声が聞かれ、さらには、生産工程における不良原因の8割が「ヒト」によるものであり、その中の4割程度がパラメータの調整ミスであることがわかりました。「ヒト」に依存した品質管理から脱却する。それこそが本プロジェクト最大の課題であり、目的だったのです。「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」。まさに、立石一真が言っていたとおりの状況でしたね。

高度な品質管理をヒトに依存した結果
林 幸弘

実際のプロジェクトにおいて、特に苦労した点は何ですか。

岩本 夏樹
岩本

特に苦労したのは、熟練工の「カン・コツ」をどう数値化するかです。今回のプロジェクトは、医薬品を容器に注ぐ「充填工程」を自動化するというもの。医薬品を注ぐバルブの開閉を自動制御したのですが、そこには果てしないトライ&ラーンが待っていました。タンク内の圧力、温度・湿度、薬液の粘性……考慮すべきパラメータはさまざまで、最適なパターンを導き出すまでに418回もの実験を繰り返しました。AIを活用したオートメーション化では、どのようなデータを用いるかがカギになります。詳細なデータをしっかりと収集できたのは、お客さまの全面的な協力があったからこそ。お客さまの信頼に心から感謝しています。

林 幸弘

無形の技術を数値化し、オートメーション化を実現する。大きな難題を乗り越えられたのですね。

岩本 夏樹
岩本

常に環境を考慮し、最新のパラメータをもとに自動で条件が見直され、最適な充填量を見極める。中でも開発陣の頭を悩ませたのが、バルブの動力であるサーボモーターとの同期でした。時には、想定外のノイズが発生し、機械がまったく動かなくなるといったこともあり、私たちの技術自体がお蔵入りしかねない事態に陥ったのです。そうした状況を覆したのは、オムロンの技術者たちの懸命な取り組みでした。緊急時のレスキューチームを発足させ、何かあった時には開発メンバーが現場に駆けつける。トラブルを解消するため、新たな製品を開発する。それらの取り組みが結実し、2022年4月に初の試験運転合格を勝ち取ることができたのです。

林 幸弘

プロジェクトの成功によって、どのようなメリットが生まれたのでしょうか。

岩本 夏樹
岩本

パラメータ調整によるミスがなくなったこと。当初の目的を達成できたことが何よりのメリットですね。実際に現場で作業を行う方たちからも、「パラメータ調整が1日1回で済むようになった」「経験の浅い新人でも簡単に調整できるようになった」「体への負担が減り、仕事に集中できるようになった」など、多くの感謝の言葉をいただきました。私たち営業メンバーは、感謝を言われる機会が多くありませんので、純粋にうれしい気持ちでいっぱいでした。また、この充填量予測制御のシステムは、その後、国内外のお客さまから多くのお問い合わせをいただいています。今後の目標は、このシステムをグローバルに展開し、医薬品業界の課題をもっと解決していきたいと考えています。

林 幸弘

本プロジェクトでは、お客さまである医薬品メーカーのビジネスにかなり入り込んでいますね。お客さまの信頼・協力を得るうえでのポイントを教えてください。

岩本 夏樹
岩本

20社へのヒアリングが決め手になったと思っています。ヒアリングを行うにあたって、経営者にアプローチすることに意味があると考えていたので、医薬品の展示会を回って、登壇した方にアポイントをとるといった地道な手法をとりました。そこで提案の方向性が定まっていったんです。医薬業界は、秘匿性・独自性が強い傾向があるため、各社の製造現場で何が起きているかといったことが共有されにくい面があります。「私たちがそのつなぎ役を務めます」「一緒に業界を変えていきましょう」というメッセージに共感していただけたのではないでしょうか。

オムロンの社憲が拠り所になっている。

オムロン企業理念
林 幸弘

業界共通の目的・課題と、オムロンが目指す「自律社会」がシンクロしたのでしょうね。オムロンの企業理念と、社会的価値、経済価値の3つがしっかりと結びついて、確かな競争優位性を生んでいるように感じます。「TOGA」での受賞を経て、何か変化はありましたか。

岩本 夏樹
岩本

この技術を広く展開する責任感が増しました。それと、社内の他部署から声をかけられる機会が多くなりましたね。海外から「一緒にやろう」というダイレクトオファーをもらうなど、仕事がやりやすくなった面も大きいです。さまざまな情報が集まってくるようになったこともあり、大きな成果につながるチャンスをもらえたと感じています。

林 幸弘

ビジネスそのものも加速したわけですね。

岩本 夏樹
岩本

はい。これは余談ですが、気軽に経営陣と対話し、言いたいことを言えることも大きなメリットだと思っています。経営陣が私たちの仕事を理解しようとして、称賛してくれる場を設けてくれることは、何よりすばらしいことですし、そこにかける時間とコストを考えると、経営陣の本気度を感じずにはいられません。

林 幸弘

「TOGA」では、「One for All, All for One」の精神がコミュニケーションとして成立しているんですよね。社会のために仕事をして、それをみんなで称賛し合い、その人も仕事の意味を感じられる。それが経済的な価値にもつながっていく。オムロンの中に、「想いの循環」のようなものが生まれているのだと思います。

岩本 夏樹
岩本

そうかもしれません。とりわけグローバルメンバーは、「TOGA」に対する想いが強いと感じます。実際に海外で活躍するメンバーと会う機会を通じて、彼らのモチベーションがいかに高く、自らの仕事に誇りを抱いているかがわかりました。自らの仕事を認めてくれることへの感謝や、理念を実践していく熱は、日本のメンバーも見習うべきものだと思っています。

林 幸弘

「医薬充填機のパラメータ調整レス化」プロジェクトは、社外の医療関係イベントなどでも表彰を受けているそうですね。

岩本 夏樹
岩本

あらためて、「社会から評価される仕事ができた」「理念を実践することができた」という喜びを感じる機会になりました。オムロンの社憲が想像以上に自分の中に浸透していて、苦しい時に立ち返る拠り所になっているとも感じましたね。

一人ひとりの挑戦が「自律社会」の実現につながる。

SINIC理論
林 幸弘

SINIC理論※2では、「科学・技術・社会」の円環的な発展をモデル提示し、「自律社会」の到来を提言しています。岩本さんが手がけた今回のプロジェクトは、その想いを具現化するものであるように思えます。

岩本 夏樹
岩本

そうであれば、うれしいですね。オムロン社員には、立石一真が住んでいた家を訪問する機会があるのですが、そこでの気づきは仕事にいい影響を与えてくれています。世の中の進化を正確に言い当てていることもそうですが、そもそも、こうした考えができることが何よりすごいと感じたんです。社員一人ひとりが自律社会の実現に向けて、「社会の課題は何だ」「経営的課題は何だ」と考え続ける。そして、そこに解決策を提案していく……。今回のプロジェクトもそうですが、小さくてもいいから、一つひとつを積み重ねて、それを「続けていく」ことが大切なのだと思います。私も今回のプロジェクトを経て、自分の仕事が「自律社会」にどうつながるかを考えるようになりましたから。

林 幸弘

ありがとうございます。最後に、今後の展望をお聞かせください。

岩本 夏樹
岩本

私たちオムロンには、社会課題を解決するためにモノをつくってきた歴史と、現在は、モノづくりを軸にサービス(コト)と組み合わせて展開したソリューションがあります。私自身は営業担当なので、モノづくりそのものには参加できませんが、科学・技術を社会につなげていく重要な役割を担っていきたいと考えています。担当領域である医薬業界を見ても、豊富な知見と技術を有した人材が単純な搬送作業に追われるといった状況もまだまだ多く見られます。機械に任せられることは、機械に任せる。お客さまと共にファクトリーオートメーションを加速させていく。この仕事は、何よりもワクワクする、可能性に満ちたものだと思っています。私たちのオートメーション技術を活かして、医療業界の進化に貢献し続け、いつの日か医薬事故のない世界を実現したいですね。

※2 オムロン創業者・立石一真が1970年の国際未来学会で発表した未来予測理論。新しい科学が新しい技術を生み、それが社会へのインパクトとなって社会の変貌を促すというもの

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