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イベントREPORT オムロン太陽・D&I体験ツアー

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2024年9月、日本初の障がい者福祉工場・オムロン太陽(株)(本社:大分県別府市)の現場を体験する、工場見学ツアーが開催された。障がい者と健常者がともに働き、新たな価値を生み出し続ける……。同社のものづくりの現場は、障がい者雇用の理想的な場であるだけでなく、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)がビジネスにもたらす可能性に満ちあふれている。ツアーのリポートを通じて、未来の組織づくりに向けたヒントを提示していく。


01 工場見学

誰にでもできる。だから個性が輝く。

01 工場見学:誰にでもできる。だから個性が輝く。

日本初の障がい者福祉工場として設立されたオムロン太陽では、障がい者と健常者がともに働いている。障がいのある従業員の割合はおよそ半数。すべての従業員がものづくりとそれを支える事務方の仕事を担っていることは、一般的な特例子会社と一線を画す、大きな違いだと言えるだろう。

それを可能にしているのが、同社が掲げる「ユニバーサルものづくり」だ。相互理解を深め、障がいをカバーするために治具や設備、運用の仕組みを工夫する。それらによって、誰にでもものづくりができるラインを実現している。当然、両手で作業する人と片手で作業する人とでは、生産性は大きく異なる。普通なら、そこで「片手ではできない」と諦めることがほとんどだが、オムロン太陽は違う。同様のパフォーマンスを発揮するにはどうすればいいかを考え、片手でも変わらないスピードと精度を実現できる治具を開発し、仕事を誰にでもできるものへと変えていく。自分たちのアイデアと工夫で、公平な機会を実現する。できることを探すのではなく、できるように変えるという姿勢が、多様な個性が共生する環境につながっているのだ。

本工場見学ツアーでは、彼ら彼女らが発明した治具を使った「組み立て体験」も行われた。参加者たちは、誰にでも簡単に組み立てができてしまうことに驚きと感動を隠せずにいたようだ。同社の社長を務める辻󠄀潤一郎氏は「オムロン太陽では、ここ数年で1,500以上の工夫や取り組みを実践してきましたが、そのどれもが大規模な投資を伴うものではありませんでした。ローテクだけれど、誰かをサポートしようとしてやったことがみんなの役にも立つと気づく。それが、すべての従業員の活躍を支えている。そんな小さなイノベーションの積み重ねが、今日の品質・生産性・コストに結びついていると考えています」と話す。

驚きと感動を隠せずにいたようだ

他者を思いやり、それを支えるためのアイデアをみんなで考え、職場がより良くなっていく。思いやりから生まれるオムロン太陽のイノベーションは、やさしく、あたたかく、そして心地良い。誰にでもものづくりができるラインで、それぞれの仕事に向き合う従業員たち。精密でスピーディーな仕事ぶりは、ハンディキャップを感じさせないものであり、その目はキラキラと輝いているように見えた。

02 太陽ミュージアム訪問

体感してみなければわからないことがある。

02 太陽ミュージアム訪問:体感してみなければわからないことがある。

オムロン太陽の「ユニバーサルものづくり」を体感した後は、社会福祉法人太陽の家が運営する「太陽ミュージアム」を訪問した。同ミュージアムは、共生社会の実現に向けて、情報発信を続けていくためにオープンしたもの。“日本パラリンピックの父”と呼ばれ、オムロン創業者の立石一真氏とともにオムロン太陽を創設した中村裕博士の志と功績、太陽の家の歴史を学び、障がいのある人を支える日常の発明品や、車いすバスケットボールなどのパラスポーツを体験することができる。また、太陽ミュージアムを拠点に、夏祭りが開催されるなど、地域の交流も活発に行われているそうだ。

同ミュージアムの館長・四ツ谷奈津子氏は、このミュージアムをつくった意義を次のように話す。「ミュージアムのコンセプトは、『学ぶ』『体験する』『感動する』。障がい者と同じ体験をしていただくことで、理解を深めるきっかけになると思います。ここで多くの人に障がい者の日常を体験していただくことが、共生社会の実現につながっていくと考えています」。

想像以上に低い車いすの目線。スロープや段差を超える時の大変さ。片手でやってみると、大幅に難易度を増す料理や家事。それらすべてが新たな発見であり、日頃からまったく障がいのある人たちのことを思いやれていなかったのだと気づかされる。

太陽の家の存在もあって、別府市には障がい者を自然に受け入れるカルチャーが根づいているそうだ。街中のバリアフリー化が進み、車いすだからと振り返られることもない。自由に、積極的に街に出て、当たり前の生活を楽しめる。別府という街を歩き、想いを馳せることで、中村博士が望んだ共生社会の一端を感じることができるはずだ。

ツアーの参加者からは「中村博士の想いが多くの人に伝わり、街の空気を変えた。別府という街の素晴らしさを体感することができたと思う」「中村博士が持っていたソーシャルアントレプレナーとしての志に胸が熱くなった。自分もこのように生きたいと思わされた」という感想が語られた。掲げたコンセプトのとおり、太陽ミュージアムがもたらした体験は、参加者の感動へと変換されたようだ。

03 「SINIC理論」プレゼンテーション

未来の社会をともに考えていこう。

03 「SINIC理論」プレゼンテーション:未来の社会をともに考えていこう。

続いてのプログラムは、オムロングループのシンクタンクであるヒューマンルネッサンス研究所(HRI)で主任研究員を務める田口智博氏のプレゼンテーション。立石一真氏らが提唱した「SINIC(サイニック)理論」と、これからの社会がどう変わっていくかについての知見が披露された。

「SINIC理論」は、立石一真氏が1970年に国際未来学会で発表した未来予測理論だ。「事業を通じて社会課題を解決し、より良い社会をつくるにはソーシャルニーズを世に先駆けて創造することが不可欠になる。そのためには未来を見通す羅針盤が必要だ」との考えから、自ら未来研究を行い、理論を構築したのだという。パソコンやインターネットも存在していなかった時代に発表された理論であるにもかかわらず、情報化社会の出現などを的確に言い当て、さらには21世紀前半までの社会シナリオを描き出している。

「確かに『SINIC理論』は、ここまでの社会の変化を見事に言い当てています。しかし、この理論は決して予言の書ではありません。未来を見通し、経営を考えていくための羅針盤なんです。大切なのは、この羅針盤をもとに、未来の社会がどうなるかを考え、自分たちのビジネスや経営のあるべき姿・ありたい姿を見出していくことなんです」。田口氏がこう語るように、オムロンはこの理論をもとに、社会に対して常に先進的な提案をし続けてきた。金融の未来を見据えた日本初のATM開発や、セルフメディケーションの時代を予測した体温計・血圧計などのビジネスはその事実を証明するものと言えるだろう。

「SINIC理論」では、現在の社会を個人に合わせた情報や機能を選択できる「最適化社会」と位置づけている。そして、2025年には、自分らしさの発揮と他者との共生が両立する「自律社会」が到来すると予測している。

さらに、田口氏は来るべき未来を次のように話す。「ウェルビーイングという言葉が盛んに用いられているように、現在の社会では、物質的な豊かさから、心の豊かさが重視されるようになりました。『推し活』なんていうのは、まさにその象徴だと言えますね。『自律社会』の兆しはもう現れているんです。私は、オムロン太陽こそが、これから実現する『自律社会』の先進的な場であると考えています。一人ひとりの従業員が互いに思いやり、課題を克服し、自分らしく輝くことと周囲との共生を両立している。それって、『自律社会』が定義する価値そのものだと思うんです。『SINIC理論』の原始社会から自律社会までの一周期では、経済的な豊かさが未来予測の指標になっていますが、これからの社会を見通す上では、経済だけではない新たな指標が求められると思います。それが、幸福という形のないものなのか、それともこれまでにない概念なのかはわかりません。けれど、こうして多くの人とつながり、さまざまな議論を交わすことで、見えてくる未来があるはず。私たちが予測するのではなく、皆さんとのつながりの中でこの先の未来を考えていきたいと思っているんです」。

※SINIC(Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic evolution)理論:オムロン(株)創業者・立石一真らが1970年の国際未来学会で発表した未来予測理論。科学・技術・社会が相互に影響を与え合いながら発展していくこと。

04 ディスカッション

さあ、未来を語ろう。

04 ディスカッション:さあ、未来を語ろう。

ツアーの締めくくりには、辻󠄀氏・田口氏を囲んでのディスカッションが行われた。このディスカッションにはオムロン太陽で活躍する現場の従業員も参加し、D&Iや「SINIC理論」はもちろん、これからの社会についてなど自由な議論が展開された。

特に印象的だったのは、オムロン太陽従業員によるプレゼンテーションだ。「SINIC理論」を羅針盤に、自分たちのありたい姿や目指すべき社会の姿を考察。「ユニバーサルものづくり」をさらに進化させ、イノベーションを創出しながら、「“弱さ”を開示し合える社会」を実現するという「夢」を提示するものだった。

辻󠄀氏は「『障がいのある人が』ではなく、『誰もが』“弱さ”を開示し合えるというのがいいですよね。これをきっかけに互いを理解し、課題を乗り越えることで、周囲に新たな価値が生まれていく。まさに、D&Iの価値そのものです。他者に弱さを見せられることは、これからのリーダーにも求められる要素ですよね。『ヴァルネラビリティ(心の弱さ)』という言葉も耳にするようになりましたし、最近の少年マンガの主人公も弱さを隠さないじゃないですか。そういう人だからこそ支えたいと思うし、魅力的にも映りますからね」と感想を述べた。それほど、従業員たちが打ち出した未来は心強く、頼もしく感じるものだったのだろう。

そして、ディスカッションが佳境を迎えると、参加者から「オムロン太陽では、なぜDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)ではなく、D&Iという言葉を使っているのか」という疑問が寄せられる。すると、同社のD&Iを担当する江口恵美氏からは、次のような回答があった。「エクイティはすでにあるというのが、私たちの考えです。オムロン太陽の財産をさらに進化させて、一人ひとりの多様な従業員がより輝ける環境をつくっていきたいと思っています。『SINIC理論』に登場する『自律社会』では、仕事をする・学ぶ・遊ぶという概念が重なり合い、より豊かさを感じられるようになると言いますが、私自身もそれを実感しているところなんです」。D&Iがもたらすのは、生産性や品質、イノベーションだけではない。一人ひとりが輝ける場所は、従業員にとっての誇りとなる。実際に活躍する従業員の言葉は、その事実をはっきりと理解させてくれた。

そして、白熱したディスカッションは、オムロン太陽で活躍する車いす利用者の松枝幸大氏の言葉でフィナーレを迎えることとなった。「私は高校2年生の時に交通事故に遭い、車いすでの生活を余儀なくされました。最初は仕事が見つからず、希望も見えずにいたのですが、オムロン太陽と『SINIC理論』に出合い、未来を考えることができるようになった。今は毎日が充実していると感じます。しっかりと未来を予測し、仕事に打ち込むことで、『“弱さ”を開示し合える社会』を実現していきたいです」。

D&Iは重要だ。頭では理解していても、それを信じ切れている人がどれほどいるだろう。体感しなければ、わからないことがある。現場を見なければ信じられないことがある。生の声を聞かなければ、伝わらない熱がある。オムロン太陽には、小学生から企業経営者まで、年間5,000人もの人が見学に訪れているという。まずは、この現場を体感してみてはいかがだろうか。そこから、目指すべき未来がきっと見えてくるはずだ。

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