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オンラインイベント「THE MEANING OF WORKとは」

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ひとりひとりの働く意味を再定義する――。2021年12月10日、リンクアンドモチベーションが取り組む「THE MEANING OF WORK」の2021年を総括するオンラインイベントが開催。日本、そして世界に貢献するビジネスリーダーの知見にスポットを当てた。

主催者挨拶

林 幸弘 YUKIHIRO HAYASHI
THE MEANING OF WORK 編集長 株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員

主催者挨拶

一人ひとりの人材が、所属する組織や自らの仕事に確かな意味を持ち、最大限のパフォーマンスを発揮する……。同イベントは、2020年から続く「THE MEANING OF WORK」の集大成であり、さらなる飛躍を目指すきっかけとなるものだ。プロジェクトの発起人である編集長の林は、開会の挨拶に立ち「私自身、企業の経営戦略と従業員のモチベーションを接続させる仕事の中で、外からは見えない素晴らしい技術や経営への想い、尊敬できる方々に出会ってきました。日本企業の誇りや可能性を感じる一方で、同じ会社にいても、面白くなさそうに仕事をし、前を向けない状態にある方ともたくさん出会いました。では、その差となるのは何なのか。それは、自らの仕事に「意味」を感じているかどうかだと確信しています。「THE MEANING OF WORK」は“働く意味”を再定義するためのプロジェクトです。意味のあふれる社会を実現することは、組織や個人が夢で満たされ、真の豊かさをつかみ取った状態であると考えます。本イベントが社会・組織・仕事・自分を再定義するイノベーションの契機になれば幸いです」と語り、意味の再定義が「組織や経営、幸福な人生を歩むための1丁目1番地」であることを強調した。

第一部講演 「7分間の奇跡」を実現した組織変革の秘訣

矢部 輝夫氏 TERUO YABE
合同会社おもてなし創造カンパニー 代表

「7分間の奇跡」を実現した組織変革の秘訣

1966年、日本国有鉄道(現 JR)入社。電車や乗客の安全対策を専門として40年間勤務。2005年、鉄道整備株式会社(現 株式会社JR東日本テクノハートTESSEI)取締役経営企画部長に就任。新幹線の清掃会社に「トータルサービス」の考えを定着させ、おもてなし集団へと変革。専務取締役、おもてなし創造部長を歴任したのち退職。2015年、合同会社おもてなし創造カンパニーを設立し、代表に就任。

企業戦略を実現するのは「人」。

新幹線の清掃を行う会社から「7分間の奇跡」を起こす会社へ。単なる清掃作業から「新幹線劇場」を実現する仕事へ。続く第一部では、TESSEI(以下、テッセイ)の組織変革を牽引した矢部輝夫氏が登壇。組織変革の秘訣を明らかにした。

「テッセイの仕事は『7-Minute Miracle/7分間の奇跡』と呼ばれています。JR東日本の新幹線は東京駅に12分しか停車することができません。その中で、清掃にかけられる時間はたった7分。そうした中で、価値を創出していく必要があります。ただし、私がテッセイに赴任した当初は、親会社であるJR東日本も持て余すような評価の低い会社でした。その根本にあったのは、人をきちんと見ていなかったこと。どんな立派な指針・戦略を立てても、それを実践し達成するのは人なのですから」

矢部氏は、当時をこう振り返り、組織改革の第一のポイントに、PDCAサイクルではなく「DDSCAサイクル」姿勢での取り組みを実践したことを挙げた。組織変革において「PDCAサイクルを回す」という考え方は、時に従業員の自律的な行動を妨げてしまうことがある。「Plan」はトップマネジメントによる上意下達の計画となり、強制力を持つ「Do」が従業員を受け身の姿勢にさせ、「Check」は短期的で、狭小な視野をもたらし、検証不十分な「Action」は踏襲・繰り返しを招くというのだ。そこで矢部氏が実践したのは、「Design(未来を描く)」「Discuss(議論する)」「Share(想いを共有する)」「Co-create(共に創る)」「Acknowledge(認め合う)」という独自のサイクル。この発想は、彼が鉄道員時代に安全に関わってきた経験によるものだそうだ。

「安全性の世界には、レジリエンスエンジニアリングという言葉があります。レジリエンスとは、たわみやしなやかさのこと。要するに、数値のマネジメントではなく、人の創造性やしなやかさ、モチベーションを意識した組織をみんなで実現しようと考えたのです」

自分たちの「意味」を再定義する。

組織改革の根本にある課題は、極めて根深いものだった。会社・リーダーが、スタッフの頑張りに無関心だったこと。世間から「きつい・汚い・危険」という3Kのイメージを持たれ、スタッフが自らの仕事に自信が持てなかったこと。さらに、その延長線上で「掃除屋の意識」「掃除しかできないという諦め」を持っていたこと……。そうした課題を解決するうえでも、悪いことばかりに目を向ける姿勢では未来は描けなかった。特に注力したのは、成功事例に光を当てることだったという。

「サービス業の世界には、『100-1=0』という公式が存在します。100人が仕事をしていて、そのうちの一人がミスしたりクレームを受けたり事故を起こしたりすると、すべての成果がゼロになるという意味です。あらゆるサービス業がその1をなくそうと努力しているわけですが、その1ばかりを見ていると、ほかの99人がちゃんと仕事をしている事実を忘れてしまうんです。そうしたら、99人の人たちはどんな気持ちになるでしょうか。うまくいっている事象のほうが多いのであれば、ネガティブな事象にだけ目を向けるのではなく、人々の努力や能力をきちんと見据え、企業活動にどう取り入れていくかを考えた方が合理的ですよね」

ES(従業員満足)なくして、CS(顧客満足)なし。テッセイは待遇の改善など、さまざまな改革に取り組んでいった。そうした中、大きな成果を生んだのは、「共に創り上げていくプロセス」だった。自らの仕事や存在に「意味」を見出せない状況を打破していく中で、自分たちのあるべき未来や夢を描き、議論し、みんなでそれを創り上げ、認め合う「DDSCAサイクル」は必要不可欠なものであり、主体的な提案と行動が次々と生まれていったのだという。

「私たちの仕事場は劇場だ。お客さまを主役に、私たちが脇役となり、『新幹線劇場』というステージの上で一緒になって素晴らしいシーンをつくっていこう。テッセイの新たなコンセプトもスタッフのアイデアから生まれたものでした。自分たちの仕事のリフレーミングを自分たちの手で成し遂げたのです。これによって、掃除という仕事に新しい価値と世界を発見することができたと思っています」

理想の組織は、1つではない。

共に描き出した未来を実現するための組織づくりも、改革の大きなポイントとなった。ミドルマネージャーを組織の発展に欠かせない原動力と捉え、その意識改革・育成に注力。トップダウンとボトムアップの機能を両立させる「ミドル・アップ・ダウンの仕組み」を創り上げた。

「フラットな関係性のもと、意思疎通し合い、和気あいあいと仕事に向き合う。今はそういう組織づくりが必要だといわれます。しかし、100の組織があれば100のやり方があるべきなんです。仲良しクラブのようなチームでは、絶対に『7-Minute Miracle』の価値は創出できません。自分たちにとって理想のワンチームをつくることができたと自負しています。教科書どおりの『組織とはこういうものだ』という認識を持つことは危険です。さまざまな組織が存在する中で、理想の姿を自分たちで考え、描き、創り上げていくことが大切なのではないでしょうか」

この取り組みがトップダウン型のマニュアル組織に陥らなかったのは、「Discuss(議論する)」「Share(想いを共有する)」「Co-create(共に創る)」というサイクルがしっかりと機能していたからだ。トップダウンに始まり、ボトムアップに終わる。共に学び、理想と課題を共有し、共に創る。それらを貫いていくうえで、組織の結節点となるリーダーの存在は大きな役割を果たしていたと言っていい。

「テッセイにとって理想の組織を実現すべく注力したのが『教育』を変えること。頭ごなしに叱る。自分のことを棚に上げて指摘するといったようでは、『教』ではなく『矯育・脅育・恐育・狭育・怯育・凶育』になってしまう。従業員からの意見に対し『すごいぞ!ありがとう!』『一緒に解決しよう!』という姿勢で臨めば、認められた喜びや効力感で、人も組織も自律的に変化していきます。それが『共育・協育・驚育・響育・鏡育・恭育』になっていくのです。特にリーダーに対しては、従業員の『鏡』となれるように徹底的していましたね」

マニュアルは存在しない。自らの頭で考え続けよう。

各企業では、「働き方改革」のもとで、働きやすさ、効率性を重視した取り組みが進んでいる。ただ、矢部氏はその傾向に警鐘を鳴らしている。

「面白い仕事・職場を追求していくことが、経営メリット、奇跡の職場の実現につながる秘訣であり、『THE MEANING OF WORK』の1つの解であると思っています。主役はあくまでも現場で活躍する従業員。だからこそ、会社とスタッフがワンチームでチャレンジし続けていく必要があるのではないでしょうか。今日の講演の最初で、評価の低い会社と言いましたが、第一線の従業員に関して言えば、そうではなかった。一生懸命に仕事に向き合っていたんですよ。この人たちを支えていけば、きっと素晴らしいことになる。私自身、そこに大きな可能性を感じていたんです」

根本にある課題を抽出し、組織の体幹を強化した。仕事の意味を再定義し、未来を描いた。テッセイがワンチームで実現した組織改革は、多くの企業にとっても参考になるはずだ。

「ただし、組織変革は目標ではなく、あくまでも手段です。目標は、企業のブランドを向上させ、確かな価値を生み出していくこと。そして、それが世の中の評価を集め、従業員のやる気、働きがい、生きがいがさらに大きくなり、挑戦、継続、サステナビリティへの原動力になっていくのです。繰り返しになりますが、改革にマニュアルはありません。まずは、自分で考えること。いい案が思いつかなければ、みんなで考えること。そして、これがいいと思ったらどんどん変えていくことです。課題は必ず解決できるもの。一度だけでなく、考え続けていくことが大切だと思いますよ」

第二部講演 サーキュラーエコノミーは、企業経営と人材育成をどう変えるのか

サーキュラーエコノミーは、企業経営と人材育成をどう変えるのか

濱川 明日香氏 ASUKA HAMAKAWA
一般社団法人Earth Company & Mana Earthly Paradise 共同創設者

ボストン大学卒業後、プライスウォーターハウスクーパース社(PwC)に勤務。ハワイ大学大学院にて太平洋島嶼国における気候変動研究で修士号を取得。2009年のサモア諸島沖地震、2011年の東日本大震災で緊急・復興支援活動に従事。その後、気候変動関連国際NGOで副代表を務めると同時に、マサチューセッツ工科大学の気候変動解決策を世界中から集める「Climate CoLab」の運営に参画。コーネル大学経営大学院MBAマーケティング戦略プログラム修了。2014年に夫・濱川知宏氏と一般社団法人Earth Companyを設立。同年、ダライ・ラマ14世より「Unsung Heroes of Compassion(謳われることなき英雄)」を受賞。2017年に「Asia 21 Young Leaders」 に選出。Newsweek誌において、2018年に「Women of the Future」、2021年には「世界が尊敬する日本人100」に選出。現在、バリ島ウブドに住み、夫とともにエシカルホテルを運営しながら、4人の子どもを育てる。

濱川 知宏 TOMOHIRO HAMAKAWA
一般社団法人Earth Company & Mana Earthly Paradise 共同創設者

ハーバード大学卒業後、NGOスタッフとしてチベット高原で働いた後、ハーバード大学ケネディ行政大学院で修士号を取得。ユニセフ、セーブ・ザ・チルドレン、英国大手財団CIFFにて、インド・アフリカにおける子どもの保護・教育に重点を置いたプロジェクトの企画推進・評価などを行う。革新的なテクノロジーを最貧国へ届けるNGOコぺルニク、最高戦略責任者。国際開発やBOPビジネスの促進に関わり、ソーシャルイノベーションとインパクト評価を専門とする。日本では青少年のグローバル教育にも従事。元東京大学特任教授。世界銀行コンサルタント。国際会議での講義登壇実績多数。2014年、ダライ・ラマ14世より「Unsung Heroes of Compassion (謳われることなき英雄)」を受賞。現在はバリ島ウブドにて夫婦でエシカルホテルを運営するとともに、2018年より「朝日新聞GLOBE+」でコラムを連載。

モデレーター 大島 崇 TAKASHI OSHIMA
株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションエンジニアリング研究所 所長

サーキュラーエコノミーは、企業経営と人材育成をどう変えるのか

私たちは、世界の未来を奪っている。

第二部では、インドネシア・バリ島を拠点に、「次世代につなぐ未来」の創出に挑むEarth Company(アース・カンパニー)の創設者・濱川明日香氏と濱川知宏氏が登壇した。社会の変革を担うヒーローの支援をはじめ、ユニークな事業の数々によって生み出されたインパクトは各国の変革に貢献し、ダライ・ラマ14世からも表彰を受けている。濱川明日香氏は自らが社会貢献活動に身を投じた原点をこう語った。

「私の原点は、大学時代に旅行で訪れたサモアでの体験でした。自給自足の生活の中で、貧しくとも本当に幸せそうに笑う人々に接する……。そうした暮らしの中で、生きることの意味を考えさせられました。そして、最も印象に残っているのが気候変動の影響です。現地では海面上昇が進み、満月の日と新月の日には波が押し寄せてくるほど。恐怖と不安に満ちた子どもの表情を見た時に、私たち先進国の住民がこの子たちの未来を奪ってしまっていることに気がついたんです。誰かが豊かになる一方で、誰かが犠牲になっていくような社会ではいけない。その想いが気候変動に携わるきっかけでした」

公私にわたるパートナー・濱川知宏氏も、フィジーで行われたコミュニティー・サービス・プログラムに参加したことがきっかけで、国際開発・ソーシャルイノベーション分野へ。中国・インド・インドネシアをめぐり、さまざまな組織で活動を推進した。そうした日々の中で、彼は現在の生き方や事業の根幹となる概念に出合うことになる。『Be→Do→Have』という生き方を知ることで、彼の人生は大きく変わったという。

「従来の生き方は『Do→Have→Be』。たくさん勉強して、仕事して、その結果、お金や名声を得る。そして、喜びや幸せが待っている。多くの人がこうしたロジックで生きているのではないでしょうか。私もそうでした。けれど、まず自分が何に生きがいや幸せを感じるかを知ること。そうすることで、自らの活動に対するモチベーションが高まり、成果にも違いが出てくる。そして、最低限の生活を送っていくために必要なものを得ることができる。必要以上のお金や名声は得られないかもしれないけれど、心は満ち足りていて、幸せを感じることができる。この考え方を知ることで、自分の道に納得することができました。私たちの生き方や事業の進め方において、重要な指針になっていますし、サーキュラーエコノミー(循環型経済)にも通じる考え方であるとも思っています」

「ヒーロー」を支援し、彼らの心に学ぶ。

Earth Companyを立ち上げたのは7年前のこと。その背景には、それぞれが出会ってきた「ヒーロー」たちの存在があったのだという。

「さまざまな活動をしていく中で『こういう人が支援されるべきだ』という人に出会ってきました。彼女ら、彼らにリソースが渡れば、国や地域のレベルで変化が起こるはず。そんな確信があったからこそ、団体を起ち上げ、彼らを支援するインパクト・ヒーロー支援事業が生まれたのです」(濱川知宏氏)

インパクト・ヒーロー支援事業は、独自性にあふれるアクセラレーター事業。類まれなる変革力を持ったアジア太平洋のチェンジメーカーを1年に1人、「IMPACT HERO」として選出し、3年間にわたって徹底的に支援する「狭く深いアプローチ」を採用している。東ティモールでの独立運動に大きく貢献し、大統領補佐官を務めたベラ・ガルヨスさんをはじめ、支援を受けた「ヒーロー」たちの変革は、世界に大きなインパクトをもたらした。インドネシアで無償医療の提供に努め、「現代のマザー・テレサ」と呼ばれるロビン・リムさん、マーシャル諸島共和国出身の気候変動活動家のキャシー・ジェトニル=キジナーさん……。Earth Companyの想いは、着実に世界を変えつつある。

また、「ヒーロー」たちの熱を多くの人々に伝え、地球への意識を変える研修教育事業「IMPACT ACADEMY」も活発に行われている。これまでに50本以上のプログラムを展開し、24ヵ国、延べ約1600名の参加があったという。

「現在はコロナ禍のため、オンラインプログラムを中心に実施しています。最も大切にしているのは、心を動かすこと。途上国の最前線がどうなっているのか、なぜ人生を懸けて、気候変動や差別といった課題に取り組んでいるのかをIMPACT HEROから学び、感じ、心に火を点けてもらう。そのうえで解決策を考え、自分が所属する学校や企業でアクションに移していくというプログラムになっています」(濱川知宏氏)

国内外から大きな注目を集める同プログラムは、多くの参加者の心に火を点け、新たなアクションへとつながっている。また、企業各社のSDGs研修はもちろん、企業のサステナビリティビジョンの策定などにも大きく貢献しているのだという。

サーキュラーエコノミーのその先へ。

世界に革新をもたらす「ヒーロー」の支援。そして、未来を変えることができる人、企業、教育機関を増やす活動を推進するEarth Company 。同団体が展開する3つ目の事業がホテル「Mana Earthly Paradise(マナ・アースリー・パラダイス)」の運営だ。この日は、バリ島と中継をつなぎ、その魅力の一端が披露された。バリ島ウブドに位置するこのホテルは、彼らが目指すべき姿を具現化したモデルケースとも言えるもの。オーガニック畑を併設し、そこで収穫した野菜を提供して、廃棄物はすべてコンポストに入れて土に戻る「ファーム・トゥ・テーブル・トゥ・ファーム」のサイクルを実現している。さらには、施設内の照明はすべて太陽光発電で賄い、地域にとって貴重な水もすべて雨水を利用するという徹底ぶり。人と社会と環境にいいものしか売らないエシカルマーケットは利用者からも好評で、商品を提供してくれる地域の人々にとって、大きな収入源にもなっているそうだ。

「実現したかったのは、経済が回れば回るほど地球上の人や社会、環境がよくなるという循環型の仕組みでした。そして、観光というフィールドを選んだもう一つの理由は、楽しくないと広まらないから。これまで、さまざまなNGOが環境にやさしくありましょう、自然のことを考えましょうと声を上げてきたけれど、人々にはいまいち伝わらない。それが、70年ぐらい続いていました。みんなが関わりたい、行ってみたいと思えるような形で、サーキュラーエコノミーを実現したいと思っていたんです」(濱川明日香氏)

「Mana Earthly Paradise」は、各方面から絶大な支持を受け、「サスティナブル・ビジネス・アワード・インドネシア」や「The Regenerative Travel Impact賞」のファイナリストにも選出されている。人の活動で地球が良くなっていく、幸せになっていく、環境も豊かになっていく……。このホテルは、サーキュラーエコノミーのその先にあるリジェネラティブ(環境再生型)な世界を私たちに示してくれている。

「オバマ氏(米国前大統領)の演説にあったとおり、私たちは『地球のために何かができる最後の世代』です。2050年には世界人口が100億人に達し、さらにたくさんの資源を必要とすることで、地球上の土地の95%が荒廃し、サンゴは全滅し、100万種の動植物が絶滅すると予測されています。身近なところでは東京でも浸水被害が増えますし、魚が減ることでお寿司も食べられなくなるといわれています。こんな世の中を子どもたちに残してはいけません。そのためには、やはり2030年までにどれだけのアクションを起こせるかが重要であり、そのインパクトは数千年にわたって地球に影響をもたらすほどだといわれているんです」(濱川明日香氏)

次代に何を残すのか。

リジェネラティブな世界を実現するうえで、企業が果たす影響力は大きい。倫理、コンプライアンス、リスク回避など、企業が変わろうとする動機はさまざまだ。しかし、濱川明日香氏は企業がサーキュラーエコノミーに取り組むことはオポチュニティであり、ビジネスチャンスでもあると話す。

「時代の潮流を見ると、顧客のニーズは確実に変わってきています。企業がこれまでの概念からシフトしていくことで、収入機会にもつながっていくのではないでしょうか。それと、特に影響が大きいのは雇用機会です。意識の高い、優秀な人材を獲得するためには、やっぱり企業が変わっていかなければいけません。そこで私は、企業の皆さんに『What is your legacy?』という言葉を送りたいと思います。会社としてどんなレガシーを世の中に残したいのか。50年後に、自分たちの子どもや孫から『私たちの未来を危機的状況から救ってくれた』と言われる企業になるのか。それとも『地球を汚してしまった』と言われる企業になるのか。私たちはしっかりと考えていくべきだと思います」

濱川明日香氏・濱川知宏氏によるプレゼンテーション終了後は、モチベーションエンジニアリング研究所所長・大島とのディスカッションが行われ、バリ島の暮らしやサーキュラーエコノミーの実現に向けた示唆が披露された。大島からの「これまでの企業経営は、果たして人間を豊かにしてきたのかという疑問がある。Earth Company のお考えを伺えれば」という質問に対して、濱川明日香氏はこう話す。

「これまで、国の価値を測るインジケーターとしてはGDPが使われてきました。豊かさと幸福を経済的な指標として計算してきたのです。ですが、本当にそれでいいのかという議論は、かなり前からなされているんですよね。収入が上がれば、国民の幸福はあるレベルまでは上がる。ただ、ある一点を超えると幸福度は下がっていくこともわかっているんです。責任が増したり、時間がなくなったり、愛する人たちと一緒に過ごせなくなっていったり……。経済的な豊かさと精神的な豊かさはイコールでないことは、私自身の感覚としてありますし、皆さんもコロナ禍の中ですごく感じられたのではないでしょうか」

経済的指標だけでは、本当の幸せは測れない。これからの世界を考えると、これまで以上に「Be(どうあるべきか)」を大切にする必要がありそうだ。「Beを考えるうえで、1人の人間の心に火を点けるには、どのようなことが大切になるのか」。大島の質問に対して、濱川知宏氏はこう語った。

「現代社会での暮らし、企業での働き方は、とにかく窮屈なものだと思います。本音と建前をうまく使い分けて、本音は言えない。もやもやしたものが詰まっている感覚があるのではないでしょうか。まずは、そのもやもやしたものをきれいに流してしまうこと。汗を流し、涙を流し、自然の音に耳を澄ませ、五感を解放してあげるんです。そうすることで、自分だけの『Be』が見えてくるのではないでしょうか。その中で自分が所属する組織のことが大好きな気持ちや、やるべきこと、やりたいことに気づく。そうした気づきがやはり重要なのだと思います」

第三部講演 PanasonicとHONDAが挑む、伝統と革新

穂積 慎一氏 SHINICHI HOZUMI
パナソニック株式会社 オペレーショナルエクセレンス社 組織・人材開発カンパニー コーポレートL&D部 部長

PanasonicとHONDAが挑む、伝統と革新

1993年、松下電器産業株式会社(現 パナソニック株式会社)入社。国内BtoB営業部門、北米地域本社でのトレーニー、BtoC事業部門、コーポレート本社、BtoB事業部門、海外市販マーケティング本部を歴任。一貫して人事領域でキャリアを築く。雇用構造改革・拠点集約の断行、処遇制度改革(役割等級制度)・タレントマネジメントの推進・グローバルコンピテンシーの導入、M&Aで買収した北米企業とのPMI推進などを担当。その後、社内カンパニーのグローバル人事担当と海外市販マーケティング部門の人事責任者を経て、2021年10月より現職。

大野 慎一氏 SHINICHI OHNO
本田技研工業株式会社 人事・コーポレートガバナンス本部 人事部長

PanasonicとHONDAが挑む、伝統と革新

1998年、京セラ株式会社入社。人事として人事労務業務全般に従事する。2003年、本田技研工業株式会社に中途入社。自らの希望で鈴鹿製作所に配属された後、本社の労政企画部にて評価処遇制度の見直し、生販労使対応、春季労使交渉、東日本大震災時の全社労務対応などを担当。カナダ工場におけるHRアドバイザー業務、本社人事部 企画課長、人材開発課長を経て、2021年4月から本社人事部にて部長を務める(現職)。「Honda従業員の可能性を解き放つ」「自分のために働け」を高次元で実現できる組織づくりを目指し、施策を企画・展開中。

モデレーター 林 幸弘 YUKIHIRO HAYASHI
THE MEANING OF WORK 編集長 株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員

PanasonicとHONDAが挑む、伝統と革新

企業文化を深耕し、実践を促す。

イベントの締めくくりとなる第三部には、パナソニック、本田技研工業(以下、ホンダ)の人事責任者が登壇。日本を牽引してきた大企業の文化と変革について、それぞれがプレゼンテーションを行った後、HRの未来について議論を交わした。 最初にプレゼンテーションを行ったのは、ホンダの大野氏。海外駐在時代に海外のビジネススピードを肌で感じ、「日本のホンダはこのままでいいのか」と危機感を覚えていたのだという。

「生き残りを懸けて、組織風土や意識に向き合わなければいけない。そこで取り組んだのは、ホンダが大切にしてきた企業理念・フィロソフィーを深耕し、一人ひとりが実践する環境をつくることでした」

ホンダが重きを置いてきたのは、「いかに個の力を発揮させるか」だ。「得手に帆をあげて」「自分のために働け」「よく働き、よく遊べ」といった格言もその象徴だと言えるだろう。一方で、組織に焦点を当てると、「どのような世界を実現したいのか」という理想を抱いている。現場・現物・現実を重視した「三現主義」を徹底している。本音で議論し、時に衝突しながら新たな価値を生み出す「ワイガヤ文化」が浸透しているという強みがある。これらを深掘りすることで、よりイノベーティブで、誰もが「働きたい」と思える会社組織を実現しようというのだ。

「現在、ホンダは『創75』という全社プロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトは来る創業100周年に向けて、どのような未来をつくっていくかを共に考え、策定していくもの。私たち人事部門も企業文化・風土を掘り起こしていく取り組みに注力しています」

中でも重点を置いているのが、会社の未来を担う採用への取り組みだ。従業員一人ひとりのリアルな想いやチャレンジを伝えるオウンドメディアの展開によって、求職者一人ひとりの心に届くメッセージを発信。このメディアによって、従業員のモチベーションも大きく向上した。また、採用要件に関しても根本から見直した。地頭の良さといった一般的なファクターにとらわれず、「ホンダがホンダであるために」をコンセプトとして、フィロソフィーをベースに社内の納得感が高いものを創り上げた。さらには、現場への企業文化の浸透・支援を目的に、人事部門からフィロソフィーを体現する事例や、経営陣と議論された内容などを発信。世代を超えた「企業文化の自分事化」にも貢献しているそうだ。従業員一人ひとりが会社の理念や文化に共感し、そこで働くことを選び、自律したキャリアを築いていく。それが企業を変革し、変化の時代を勝ち抜いていく原動力になるという。

「『THE MEANING OF WORK』という概念に取り組むことは、必然の流れになっています。見方によって、この流れは人事部門が『自社が選ばれるかどうかの踏み絵』を自ら差し出しているとも言えます。自らがワクワクする未来を自由に描き、チャレンジする。そこにはリスクも存在するでしょうが、それよりも、やらないリスクの方が大きいと私は思います。パンドラの箱を開けるではありませんが、ここには真剣に取り組んでいきたいですね」

未来を描き切り、咀嚼する。自主責任経営の意識を。

続いて行われたのは、パナソニックオペレーションエクセレンス社の穂積氏のプレゼンテーション。「経営理念の実践と働きがい」をテーマに、パナソニックグループの取り組みが披露された。 同社は2022年4月から新たな組織体制へと移行することが公表されている。持株会社であるパナソニックのもと、さまざまな事業会社が存在するという形だ。これにより、各事業会社の独立性が高まり、競争力を高めるための施策がスピーディーに行えるように。例えば、人事部門では、独自の人事制度・報酬制度などを構築していけるようになるわけだ。

「これまでの中期計画・事業計画は、経営数字を追いかけていくという考え方のもとで作成されていました。これからは、そうではなく10年先を起点にバックキャストして、何をすべきかを各事業会社が主体的に進めていこうという形になりました。今あるすべての事業がいかに社会に貢献し、どのような価値を提供していくのかという観点で考えていこう。それが、経営トップからのメッセージであると私は理解しています」

組織体制の変革に合わせて、経営基本方針も60年ぶりに大幅改定された。これは、社内の意識を浸透・向上させるだけでなく、社会へのコミットメントであり、覚悟の表明であると言える。

「核となるのは『自分たちの存在意義・社会への貢献はどこにあるのか』を一人ひとりが考えていくこと。パナソニックでは、これを『個人の自主責任経営』という言葉で表現しています。この概念は、創業者・松下幸之助が常日頃から言い続けたことでもあります。現代において、そうした基盤が弱ってきていることは私たちの大きな課題。CEOである楠見も一人ひとりの考えや価値観で経営理念を咀嚼することが大事であると発信しています。パナソニックが事業を通じて社会をどのように変えたいか、理想の社会にどのように近づいていくかを描き、その実現のために従業員の力を最大限に活かし切ろうと考えています」

同社の取り組みは、個の力を高め、組織の活力を生み出し、自主責任経営を通じて競争力を強くしていくためのものだ。60年ぶりに改定された経営基本方針には、「人をつくり人を活かす」という端的で力強いメッセージも示されている。グループ内では、フラットで自由闊達な議論を行える「下意上達」の風土醸成が進み、各事業会社の経営陣をオンラインでつないだ経営理念研修が実施されているという。

「経営基本方針の改定をどのように受け止め、各職場でどのように実践するのか。全役員に内省を深めてもらい、最終的なアウトプットとして『メンバーへの約束3ヵ条』を作成していきました。同研修は25回にわたって開催され、その合計は75時間以上。この取り組みを通じて、『働く意味』を再定義し、従業員への強いメッセージを発信できたと思っています。コロナ禍の不安定な時代の中では、仕事に対する心持ちが揺れることもあるでしょう。そんな時、立ち返れるのはやはり経営基本方針という原点です。そこに、自分なりに解釈・咀嚼し、実践することが求められていると感じています」

変革を左右する、企業文化とエンゲージメント。

プレゼンテーション後には、編集長の林を交えたトークセッションを開催。企業文化や従業員エンゲージメントについて議論が交わされた。林からの「日本を牽引してきた企業だけに、両社とも確固たる文化をお持ちです。挑戦・変革に取り組むうえで、企業文化を守りながら変わることは大きなポイントだと思いますが、時に浸透した文化は強みにも弱みにもなってくるのではないでしょうか。企業文化という観点から、お二人がお感じになっていることをお聞かせください」という質問に対し、両氏はそれぞれこう答えた。

「企業文化について考えた時に、従業員誰もが知っている言葉ってあるじゃないですか。パナソニックで言えば、「衆知を集める」「自主責任経営」などです。けれど、その言葉を知っていれば、発していれば、実践しているかというとそうではない。一人ひとりが仕事をする中で体験することから、にじみ出てくるものとでもいうのでしょうか。実際に楠見も、CEOという立場になった今も経営理念について自分なりに勉強することがあると言います。それぞれの立場や年代によって、腹落ちの程度も、咀嚼の仕方も変わってくる。松下幸之助が話しているように、終わりのない『道』のような世界かもしれません」(穂積氏)

「私も穂積さんと同じ意見です。ただの言葉遊びをしても仕方がないと思いますし、自分自身がどういったストーリーを語れるかが大事だろうと思います。研修においても、そうした本質的な部分は大事にしていますし、採用向けの『オウンドメディア』でも、従業員たちは自らのストーリーをフィロソフィーに照らしながら語ってくれています。もう一つ付け加えるとすれば、ただ過去を振り返るのではなく、未来志向で企業文化やフィロソフィーを考えること。先ほどお話した『創75』のプロジェクトはそうした姿勢を大切にしていますが、今後に向けた企業文化・風土づくりにつながると考えています」(大野氏)

その後、話題は従業員エンゲージメントというテーマに移る。企業と個人が選び、選ばれる関係にある今、経営においては必要不可欠なファクターだと言える。林は「意味のあふれる世界をつくるためには、会社と従業員の『結び目』が大事。会社側から何が提供できるのか。そして、個人の側から、その意味をどうつかみ取りにいくのか。双方の取り組みがないとエンゲージメントは成り立ちません。これからの経営において、従業員エンゲージメントはどのような意味を持ち、そのために、どのような取り組みをポイントにしていますか?」と問いかけた。

「選ばれる会社にならなければいけない。その危機感はかなり強く持っています。キャリアの充実が叫ばれる中において、『ホンダなら成長できる』『切磋琢磨する仲間に囲まれている』と従業員に感じてもらうのは非常に大事だと考えています。人事施策として、新たなラーニングマネジメントシステムの導入なども実施していますが、実が本質的な取り組みではないと感じ始めています。キャリアと言うと、未来のことばかりに目が行ってしまいますが、実が足元で得られる体験・体感みたいなことを大事にすべきなのでは。創業者である本田宗一郎も失敗の大切さを語っていますが、それは限界までやり切ることが前提です。今、任されていることを本当にやり切ったと言える経験を提供できているのか。マネジメントとメンバーの間で、そうした生々しいやりとりが本当にできているのか。そこを問いかけていかなければ、表層的な取り組みで終わってしまいます」(大野氏)

「私たち人事部門の人間にとって、エンゲージメントという言葉を聞かない日はほとんどなくなりましたよね。どうすればそれを向上させられるのか、試行錯誤を続けていますが、やはり成長実感が大事なのだと思います。自分が経営に貢献できている。昨日よりも今日、今日よりも明日といったように成長を実感できている。それが、結果的にエンゲージメントにつながっていくのではないでしょうか。また、大野さんのお話を聞いて、参画意欲・実感も大事だと思いました。実際にパナソニックでは、経営会議をフルオープンにするといったチャレンジも進んでいます。今は、オンラインでたくさんのメンバーが参加できますからね。その場でいろいろな意見がチャットに上がってきて……。そうした経験を通じて、組織コミットメントを感じてもらえていると思います」(穂積氏)

HRが企業の未来を牽引する。

加熱したトークセッションもクライマックスに。両名はビジネスリーダー、HR部門へのメッセージを次のように語ってくれた。

「未来を正確に予測することは誰にもできませんし、声の大きい人が言ったことを真に受けて思考停止になってしまうこともあります。その中でHRができることは何か。それは『こうありたい』ということを明確に持ちながら、変化する社会に向き合い『こうなるんじゃないか』と自らの頭で考え、動いてみることだと思っています。HRテックなどは顕著な例ですよね。先が見通せなくても、トライアルを繰り返すことは絶対に必要です。HRこそチャレンジを体現する存在であるべき。それが会社の発展にも、社会への貢献にもつながるのではないでしょうか」(大野氏)

「世の中が変われば、人も変わり、組織も変わっていきますよね。私たち人事部門は、人や組織の変化を後押しする原動力でなければなりません。これまでの人事部門は、ブレーキの役割を果たすことが多かったのですが、これからは一緒になって転がす。場合によっては前に出ることも躊躇しない。そうした姿勢が求められるのではないかと感じています」(穂積氏)

全プログラム終了後、林は約200名ほどのセミナー聴講者に対し、こうメッセージを贈った。

「最前線で革新に挑むビジネスリーダーの皆さんのお話から、本当にたくさんのインサイトをいただきました。『THE MEANING OF WORK』というメディアを立ち上げることで、これほど素晴らしい方々とご一緒し、メッセージを伝える場をいただけたことをうれしく思います。私にとっての『THE MEANING OF WORK』は、素晴らしい会社、プロジェクト、人、仕事に光を当て、日本の経営の在り方をリボーンすることで、働く意味にあふれる社会に変革を実現することです。リンクアンドモチベーションは『モチベーションクラウド』というソリューションを通じて、さまざまな企業の経営技術やケーススタディーを蓄積してきました。今度は、ここで得た知見を皆さんに還元していく番です。ソリューションの提供やメディアでの情報発信を通じて新たな経営技術を伝え、発見の機会を届けたいと思っています」

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