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UTMD×OpenWork 働きがいにあふれる、労働市場のマーケットデザイン|意味のあふれる社会を実現する|Link and Motivation Inc.
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UTMD×OpenWork 働きがいにあふれる、労働市場のマーケットデザイン

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  • 小島 武仁

    小島 武仁FUHITO KOJIMA
    東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長
    経済学者、東京大学大学院経済学研究科教授

    1979年生まれ。2003年、東京大学卒業(経済学部総代)。ハーバード大学経済学部博士、イェール大学博士研究員、スタンフォード大学助教授、准教授を経て、教授に就任。2020年に母校である東京大学からのオファーを受け、17年ぶりに帰国し、現職。専門分野は人と人や、人とモノ・サービスを適材適所に引き合わせる方法を考える「マッチング理論」と、それを応用して社会制度の設計や実装につなげる「マーケットデザイン」。基礎的な理論研究とともに、待機児童問題の改善や企業内人事制度の支援など、社会実装に向けた活動も行っている。

  • 大澤 陽樹

    大澤 陽樹HARUKI OHSAWA
    オープンワーク株式会社 代表取締役社長

    1985年生まれ。東京大学大学院修了後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2019年11月、オープンワーク株式会社の取締役副社長に就任。2020年4月より、同社代表取締役社長(現職)。2022年12月には東証グロース市場に上場を果たした。「働きがい研究所」所長としても活動。 2023年注目の人物として「起業家」ジャンル10人に選出(『AERA』年末年始合併号) 。著書に『1300万件のクチコミでわかった超優良企業』(東洋経済新報社) 。

AIをはじめとしたテクノロジーを駆使して、人と人、人とモノ・サービスを適材適所に引き合わせる。この「マッチング理論」を応用して、社会制度の設計や実装につなげるのが「マーケットデザイン」だ。世界における第一人者であり、アメリカの入試改善や、日本の研修医マッチング、待機児童問題の解消に貢献している小島武仁氏に、同理論が労働市場にもたらす未来について伺った。


マーケットを動かす、「見えざる手」を。

マーケットを動かす、「見えざる手」を。
大澤 陽樹
大澤

まずは、先生のご専門について伺いたいと思います。マーケットという言葉からは、市場・金融・コモディティといったものを連想しがちですが、「マッチング理論」「マーケットデザイン」とはどのようなものなのでしょうか。

小島 武仁
小島

私たち経済学者は、マーケットという存在を広く捉えています。人々が集い、「こんな物が欲しい」「誰かと出会いたい」「こんな教育を受けたい」と思った時に、それらを一つのマーケットとして捉えるのです。例えば金融市場では、「高ければ売りたい、安ければ買いたい」という価格が人々の意思を決定づけ、需要と供給のバランスが取られることになりますよね。しかし、18世紀のイギリスの哲学者のアダム・スミスが言うところの「見えざる手」が働かないマーケットも存在するわけです。企業における人材の配属や、高校・大学の入試など、お金が介入しない市場はその代表的なものだと言えるでしょう。そうしたマーケットにおいて、さまざまな知見とテクノロジーを駆使することで、問題を解消するメカニズムを構築していく。「マッチング理論」はその根底にある理論であり、その基礎研究・社会実装を通じて、「人々が幸せになれる社会の仕組み」をつくることが「マーケットデザイン」という学術分野であるとご理解ください。

大澤 陽樹
大澤

価格という概念が当てはまらないマーケットに「見えざる手」となるメカニズムを構築し、多くの希望を満たすマーケットを実現する……。「マーケットデザイン」の第一人者であり、小島先生の指導教官でもあったスタンフォード大学教授のアルヴィン・ロス先生はノーベル経済学賞を受賞されていますが、それほどインパクトの大きい学術分野であることは疑いようがありませんね。小島先生はどのような経緯で「マーケットデザイン」の世界に足を踏み入れたのでしょう。

小島 武仁
小島

2003年に東京大学を卒業した後、私はアメリカに留学することを決めました。当時の経済学は伝統的なマーケットを上手く動かしていくために、「マーケットとは何であるか」を比較的狭く定義し、数理的な分析をしていくというのが主流。私自身、そうした経済学を学ぶためにアメリカに渡ったのですが、マーケットで生じているマッチング問題を解消し、よりよい社会を実現していくための理論が精緻化されてきたということを知り、その魅力に惹かれていったというかたちですね。

大澤 陽樹
大澤

アカデミックな理論を社会に実装し、変えていく。その機運が高まっていたのですね。

小島 武仁
小島

そうですね。その代表的な事例が、アメリカ・ニューヨーク市の高校入試のマッチング問題の解消です。ニューヨーク市では毎年、10万人近くの生徒が高校に入学しますが、その3分の1が希望に添う学校のどこにも入学できずにいるというアンマッチが生じていました。そこにマッチングシステムを導入し、仕組みを変えたところ、アンマッチになる生徒は従来の10分の1にまで減少したのです。定員数を同じ年に特に増やすといったことはしていませんでしたから、これは画期的な成果だと言えるでしょうね。

大澤 陽樹
大澤

私自身、アルヴィン・ロス先生の著書『Who Gets What』(日経ビジネス人文庫)を何度も読ませていただきましたが、これほど素晴らしい理論が世界にあるのかと驚かされましたし、日本で「マーケットデザイン」が実装されていないことを不思議に思いました。小島先生は2020年から東京大学に復帰され、東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)のセンター長を務められています。社会の実装に向けて、並々ならぬ想いを抱いているのではないでしょうか。

小島 武仁
小島

そうですね。そもそも、日本では「マーケットデザイン」という概念があまり知られていなかったですし、アメリカ社会ではすでに実装され、世の中をよくしている実感もあったため、強い問題意識を抱いていました。とはいえ、研究者ひとりの力で何かを変えていくことはできません。UTMDは企業や学生をはじめとした多くの人々を巻き込み、その知見を次代に伝え、社会実装を進めていく起点となるべき存在です。幸い、東京大学には意欲に満ちた学生がたくさんいますからね。ここから、社会をよりよくするムーブメントを生み出していきたいと考えています。

アルゴリズムの力で「配置ガチャ」を解決。

アルゴリズムの力で「配置ガチャ」を解決。
大澤 陽樹
大澤

ここからは、「マーケットデザイン」の事例について伺っていきたいと思います。UTMDでは医療機器メーカーのシスメックス(株)と協働して、新入社員の最適配置に「マッチング理論」を導入しています。この取り組みによってどのような問題を解決したいとお考えだったのでしょう。

小島 武仁
小島

近年、「配置ガチャ」というワードをよく耳にします。「こういうことがやりたい」と入社したにもかかわらず、全然違う部署に配置されてやる気を失ってしまう……。そうしたケースを起こさないための実証実験でした。通常、人事部門は可能な限り新入社員の希望を聞き、調整作業を行います。ただ、企業は組織ですから、完全に希望を満たすことは難しいですし、その調整を人手でやろうと思うと、かなりの工数がかかることになるわけです。その部署配属にアルゴリズムを使い、手間なく「すべての希望を満たす」配置を実現しようというのがこのプロジェクトの狙いでした。ただし、シスメックス社は離職率も低く、エンゲージメントの高い企業です。一人ひとりの人材のキャリア形成を助けることで、企業の競争力を高めていくという意味合いが強かったと認識しています。

大澤 陽樹
大澤

具体的にはどのようなファクター(要因)を変数として扱い、マッチングを進めていったのでしょうか。

小島 武仁
小島

やっていることは、すごくシンプルですよ。新入社員には「どの部署に行きたいか」という希望順位をつけてもらい、各部門には「どの人材が欲しいか」を順位づけしてもらうというかたちです。実装の際には、それを判断するための情報を付け合わせることにも注意しました。新入社員側には自己アピールのような機会を設けましたし、各部門側は仕事内容や環境、求められるスキルなどの情報を開示します。そして、希望順位をもとに、アルゴリズムがニーズを満たすマッチングを実現してくれるわけです。

大澤 陽樹
大澤

これは「新入社員あるある」ですが、本当は社内の花形部署が第1希望なのだけど、通らないだろうと考えて第2希望を1位にして出すみたいな人もいます。ただ、マッチング理論を導入した配置では、そうした忖度は必要なくなりますね。小細工をすると逆にチャンスを失いかねない(笑)。

小島 武仁
小島

人が判断するのであれば、それも有効な策なのでしょうけれど……この場合は損です(笑)。もう少し説明を付け加えると、通常、配置を決めるときには、Aという部署を希望して、そこに漏れた人は他の部署の1次選考が一巡するまで「待ち」とするような仕組みが多いのではないでしょうか。しかし、我々が導入したアルゴリズムでは「いつでも敗者復活を認める」ように設定されています。そうすることで、小細工しなくてもより希望に添ったマッチングを実現することができるんですよ。

大澤 陽樹
大澤

一巡するまで待つことが平等に感じられてしまうけれど、実はそうではない、と。ただ、これを人手でやるのはとてつもない工数がかかりますね。「こうできたらいいな」と思う人がいても、実行するには至りません。それにしても、ここまで変数がシンプルであったことは驚きです。スキルや経験など、さまざまなファクターを反映しているようなイメージがありました。

小島 武仁
小島

スキルや経験、出身地、嗜好といった私的情報のデータから、最適なマッチングを実現することは難しいんですよ。例えば、「この人は独身だから、地方への配属でいい」という判断をAIがしたとします。ただ、その人は、恋人がいるから地元を離れたくないかもしれないし、アニメ・ゲームが好きで、秋葉原の近くに住んでいたいかもしれない。誰しも、自分しか持っていない情報があるし、自分のことは自分がいちばんわかっていることも多いです。可視化・共有された私的情報がすべてではなく、それらを変数として扱ってしまえば、希望からかけ離れる結果が生まれることもありますし、そこから「AI=ブラックボックス」という不信感も生まれかねない。さらにいえば、マッチングの仕組みによっては、社員はこういう私的情報を会社に正直に教えてくれるとは限らないという点も重要です。変数はあえてシンプルに、そして、把握している私的情報は交通整理をするための付け合わせとして活用する。そうすることで、各々の希望を最大限に尊重する仕組みを実現できたと自負しています。

新卒採用を変える、ポテンシャルがある。

新卒採用を変える、ポテンシャルがある。
大澤 陽樹
大澤

「マーケットデザイン」の活用で、日本の労働市場はよりよいものになる。私はそう考えています。日本の新卒一括採用には、若者の失業率低下というメリットもありますが、採用活動の早期化・長期化によるデメリットも顕著に見られます。OpenWorkのサービスは、就職活動を行う学生の半数以上に利用されているのですが、そのアンケート結果から大学3年生の夏から説明会に参加している学生が52%を占め、その活動は1年以上にわたることがわかっています。長期にわたる活動で心身を壊してしまう学生もいますし、早期化によって相思相愛のマッチングが実現していない側面もあります。さらに、皮肉な結果として、これほど長期間の活動をしているにもかかわらず、新入社員の約40%がその決断に後悔しているという統計結果が得られているんです。

小島 武仁
小島

時間をかけている割に、理解が進んでいない。そこに大きな問題がありますよね。すべての企業研究に時間を割けているわけではないし、早期に決まったところで、それはベストなマッチングではなく、「早く決めなければ」という危機感によるものであることも考えられます。また、その時は納得して決めた企業であっても、時間が経過して価値観が変わることだってありますよね。「学生にとっての1年半」ってそれくらいの変化が起きて当たり前の時間ですから。

大澤 陽樹
大澤

そうなんです。もし、新卒一括採用に「マーケットデザイン」を活用した仕組みをつくるとしたら、小島先生はどのようなかたちが望ましいと考えますか?

小島 武仁
小島

ルールを守っていると損をしてしまう。そんな状況を打破する仕組みが必要ですよね。アメリカにおける研修医マッチングの事例は、この問題のヒントになると思います。例えばアメリカの大学の医学部では入学して2年間を座学に費やし、残りの2年間で実技を行うというのが典型的で、その後それぞれが病院に研修医として配属されることになります。ところが、所属する病院が配属の2年前に決まっているというおかしな状況に陥っていたんです。その結果、医学生が希望どおりの病院に配属されないケースはもちろん、病院側も採用時の時点では「優秀な外科医になるはずだ」と思っていた人が、実技がまったくダメだったというミスマッチに悩まされることになりかねません。その解決策となったのが、「マーケットデザイン」を活用した仕組みです。早期化を防止するために、「自らが望む場所を保証する」「優秀な人材確保を保証する」アルゴリズムをつくり、「待つことがインセンティブになる」状況をつくり出したのです。待っていれば、いちばんいいところに行ける。最も優秀な人が来てくれる。日本の新卒一括採用にも、そうした「安心」をつくっていくことが大事なのだと思います。

大澤 陽樹
大澤

学生たちにとっては、ルールを守ったほうが素晴らしいキャリアが待っている。企業にとっても、ルールを守ったほうが優秀な人材が来てくれる。そうした仕組みができれば、「早く決める」ことに価値がなくなります。とはいえ、新卒採用はスキルでなく、主体性や挑戦意欲などのスタンスも求められます。どのような変数を設定するかなど問題はまだまだありますが、有効な解決策となるポテンシャルは秘めていますね。

小島 武仁
小島

そうですね。さらに、就職活動はステークホルダーが多すぎます。誰かが音頭をとって、多くの企業が参画する仕組みをつくらなければ、解決策にはなり得ませんから。ただ、実現した時のメリットは非常に大きいと思いますよ。学生たちも就職活動に右往左往することなく、自らを高めることに時間を費やすことができるようになるわけですから。

大澤 陽樹
大澤

昨今、新卒採用でもジョブ型雇用を前提とした採用が進んでいますが、そこに特化したような仕組みをつくることは比較的、実現可能性が高いのではないでしょうか。研修医マッチングの事例をお伺いして、社会実装に向けた大きなヒントをいただけたと思います。

テクノロジーが導く最も輝ける場所。

テクノロジーが導く最も輝ける場所。
大澤 陽樹
大澤

「マーケットデザイン」は、転職市場に対しても大きな可能性を秘めていると思います。日本の従業員エンゲージメントは調査国139国のなかでもワースト10となっています。さらに、興味深いデータとして、25~34歳の転職希望者が48%であるのに対し、実際に転職した人は16%しかいないことが挙げられます。つまり、出て行きたいのに、その会社に残り続けるという、思考と行動がバラバラな状態なんです。それでは仕事に対するモチベーションも生まれませんよね。「マーケットデザイン」の活用で、人材流動性を高め、生き生きと活躍できる場所とのマッチングを実現できれば、日本の生産性を飛躍的に向上させることもできると思っています。新卒採用と違って時期もバラバラですし、希望の求人が常に出ているわけでもない。さらには、給与・労働条件・人間関係・仕事内容など、扱うべき変数も多いため、難しい側面はあります。けれど、ディープラーニング(深層学習)の活用などで、有効な解決策となるデザインを示せるように思うのですが。

小島 武仁
小島

そうですね。変数が多い場合、特に「自分にとって何が最適かわからない」状況であれば、ディープラーニングの活用は有効な手法かもしれません。実際にアメリカのあるNPOでは、難民の受け入れと各州への配置にディープラーニングを活用したマッチングの仕組みを導入しています。他の国から逃れてきた人にとってみれば、有名な都市の名前は知っていても、「どこの場所が自分にふさわしいか」「どこに行けば、職を手にしやすいのか」「生活を軌道に乗せられるか」はわかりません。ただ、アメリカには雇用統計のデータがありますから、出身国や持っているスキル、家族構成といったデータから、例えば雇用確率をなるべく高くするという意味でその人に最適と思われる環境を導き出すことができます。転職市場は流動的な要素が多く、「いっせーのせ」で始まるマーケットではないため難しさはあると思いますが、注目すべきテーマだと気づかされました。

大澤 陽樹
大澤

転職のマッチングサービスを提供する企業は多くあります。ただ、日本が抱えるもったいない状況を見ると、その機会をより充実していくことが求められていると思います。

小島 武仁
小島

マッチング問題のすべてのイシューとして、特定の人やモノ、サービスに「人気が集中してしまう」ことが挙げられます。例えば、企業とフリーランスのエンジニアをマッチングするアメリカのサイトでは、すでにマッチングが終わった人気のエンジニアが、さも空いているかのように表示されるというケースが生じ、その影響で最適なマッチングができていないという状況に陥っていました。似たような問題は多くのマッチングプラットフォームで見られますが、こうした課題を解決するためのプラットフォームのデザインの研究は盛んです。「マーケットデザイン」を活用して交通整理を行う。そうした取り組みもマッチング問題を解消していくためには必要になりますよね。

大澤 陽樹
大澤

ありがとうございます。小島先生のお話から多くのヒントをいただくことができました。私たち企業側は「こんなことができたら」と実務に悩み、足踏みしてしまうことも多くあります。アカデミックの世界がもっと身近な存在になれば、その知によって、かつてない可能性を見出すこともできるようになるはず。今後もさまざまなことをご相談させていただければうれしいです。

小島 武仁
小島

この対談を通じて、私たちの知見が皆さんにとってのヒントにつながることがわかりました。一方で、まだヒントのレベルにとどまっているというイシューもあるな、と。私たちには、まだまだ研究すべきテーマがある。やるべき仕事がある。それがわかったことは大きな収穫ですね。

大澤 陽樹
大澤

AIをはじめとしたテクノロジーを活用したマッチングには、どこか無機質なイメージが伴うもの。ですが、小島先生のお話や数々の事例から、そのデザイン次第で人が担う以上の「温かみ」や「豊かさ」を持たせられると学びました。

小島 武仁
小島

「経済学者は冷静な頭脳と温かい心を持たねばならない」と言われています。その精神を忘れることなく、多くの企業・組織や研究者を巻き込みながら、「人々が幸せになれる社会の仕組み」を実現していきたいものですね。

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