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在日アイルランド商工会議所×THE MEANING OF WORK アイルランドと日本が紡ぐ未来への道 国際交流が生み出す可能性|意味のあふれる社会を実現する|土屋 善弘丨在日アイルランド商工会議所 会頭
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アイルランドと日本が紡ぐ未来への道 国際交流が生み出す可能性

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  • 土屋 善弘

    土屋 善弘YOSHIHIRO TSUCHIYA
    在日アイルランド商工会議所 会頭

    慶應義塾大学法学部政治学科卒。長らく損害保険業界に携わってきており、2010年から2013年の3年間、大手損害保険会社のアイルランドダブリンに所在する海外子会社CEOを務めた後、帰国後すぐ在日アイルランド商工会議所(IJCC)に招かれ、以降今日に至るまで、副会頭職7年間、会頭職5年間を含む13年間同会議所の役員を務めてきている。また、2014年より開始したアイルランドのアジア最大のShowcaseイベントであり、例年10万人以上の来場者があるグリーン・アイルランドフェスティバル(旧アイラブアイルランドフェスティバル)の立ち上げ以来実行委員長の役割を果たしている。特に、日本・アイルランドのビジネス交流の活発化、また日本におけるアイルランドの認知度、ブランド向上に尽力してきている。

  • 林 幸弘

    林 幸弘YUKIHIRO HAYASHI
    株式会社リンクアンドモチベーション
    モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員
    「THE MEANING OF WORK」編集長

    早稲田大学政治経済学部卒業。2004年、(株)リンクアンドモチベーション入社。組織変革コンサルティングに従事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員として、日本で働く外国籍従業員のエンゲージメントやマネジメントなどについて研究。現在は、リンクアンドモチベーション内のR&Dに従事。経営と現場をつなぐ「知の創造」を行い、世の中に新しい文脈づくりを模索している。

近年、目覚ましい経済発展を遂げているアイルランド。その発展は「アイルランドの奇跡」と称され、世界でも際立った存在感を示している。在日アイルランド商工会議所会頭を務める土屋善弘氏に、その歴史や文化、魅力について伺うとともに、同国との交流による新たな可能性を模索していく。


実は馴染み深い?アイルランドを知ろう。

実は馴染み深い?アイルランドを知ろう。
林 幸弘

土屋さんは日本とアイルランドの懸け橋となり、国際交流の活性化に貢献されていますね。近年、目覚ましい経済発展を遂げているアイルランドは、どのような国なのでしょうか。

土屋 善弘
土屋

アイルランドはヨーロッパの最西端に位置する、人口約515万人の小さな島国です。第二次世界大戦前位まで、イギリスに支配されていたこともあり、英語が第二公用語になっていますが、独自性が強く、その根底にはケルト文化が息づいています。ゲール語を使う人も多く、道路の看板は必ず、2つの言語で記載されています。

林 幸弘

アイルランドに馴染みがないという人は多いと思いますが、小さな島国で独自の文化・歴史を持っている、さまざまな文化が融合しているという点で、実は日本と親和性が高いのかもしれません。

土屋 善弘
土屋

小さな島国にまでローマやギリシャの侵略の手は伸びませんでしたから、歴史と伝統がじっくり育まれていったのでしょうね。また、現在のアイルランド国民の約7割がカトリック教徒ですが、古くから続くケルト信仰では、万物に神が宿るとする点や輪廻の考え方を見てみると、日本の八百万(やおよろず)信仰に近いものがあると言えます。そうした意味でも、日本との親和性の高い国だと思いますよ。

林 幸弘

一方で、日本との大きな違いとしては、「移民の歴史」を持っていることだと思います。

土屋 善弘
土屋

そうですね。飢饉や弾圧から逃れるために、アイルランドから多くの人々が新世界を求めて移民しました。現在では、世界中におよそ8,000万人ものアイルランド系の人が暮らしているといわれており、各地にアイリッシュコミュニティが存在しています。

林 幸弘

アイルランド系の人たちは、本当にさまざまな分野で活躍していますよね。

土屋 善弘
土屋

政治家にはジョー・バイデン、バラク・オバマ、ジョン・F・ケネディらが名を連ね、俳優や音楽家ではレオナルド・ディカプリオ、トム・クルーズ、ジョニー・デップ、ビートルズのジョン・レノン、ポール・マッカートニー、U2など、誰もが知っている著名人がたくさんいますね。

林 幸弘

「ラグビーが強い国」くらいのイメージを持っている人は多いと思いますが、知れば知るほど大きな驚きがあります。

土屋 善弘
土屋

そのとおりです。例えば、アイルランドは国章に楽器を使用しているほど、音楽文化に優れた国なんです。その伝統的な音楽はいろいろなシーンで使用されていて、日本のゲームやアニメにもたびたび登場しています。調べてみると、思わぬ発見があるかもしれませんよ。

アイルランドの魅力は希有なレベルのやさしさ。

アイルランドの魅力は希有なレベルのやさしさ。
林 幸弘

日本人である土屋さんがアイルランドと出合い、惹かれていった経緯をお聞かせください。

土屋 善弘
土屋

損害保険の分野でキャリアを歩んできた私は、主に海上保険、再保険という国際的な保険分野に携わってきました。保険市場の中心地であるイギリスをはじめ、ヨーロッパ中のお客さまを担当し、世界を飛び回っていたんです。日本で暮らしていると、どうしてもヨーロッパを一括りにしてしまいがちですが、それぞれの国に特徴と違いがあり、新たな価値観と出合う日々はとても刺激的なものでした。そうした中でも、突き抜けてびっくりさせられたのがアイルランドです。私はアイルランドに3年間住みましたが、数ある国の中でも特別な存在になりました。

林 幸弘

魅力的な国が多く存在する中で、アイルランドのどういった点が特別と感じられましたか。

土屋 善弘
土屋

魅力を挙げれば、キリがないのですが、やはり、アイルランド人が持つ思いやり、やさしさ、困った人たちに寄り添う心が一番の魅力でしょうね。アイルランド人は支配・迫害された歴史を持っているからこそ、弱い立場の人を思いやり、手を差し伸べることができるのだと思います。特に印象に残っているのは、私がアイルランドに駐在していた時に起きた、東日本大震災に対する支援の姿勢です。日本ではあまり知られていませんが、震災が起きて以降のアイルランドの日本への支援は、とても熱心なものでした。国全体を挙げた支援・イベントには小学生から大人まで幅広い人々が参加し、熱心な寄付やメッセージの数々が寄せられました。その熱さは、他の国でここまでやるところは少ないのではないかと思わせるほど。そうした姿を間近に見て、この国の人々は稀有なレベルでやさしく、日本に帰ったらこの恩返しをしなくてはと、強く決意させられました。

林 幸弘

歴史的に苦境に立ってきた人たちだからこそ、今、苦しんでいる世界の誰かに手を差し伸べられる。やさしさという根源的な魅力が、土屋さんに大きな転機を与えてくれたのですね。

土屋 善弘
土屋

国際交流を通じて触れたやさしさに人生を変えられたような気がしています。それが、アイルランドという素晴らしい国をより多くの人に知ってもらいたいという活動の原点にあるんです。まさに、アイルランドに惚れたという感じですね。もう、ほとんどアイルランド教と呼んでもいいくらいです(笑)。

アイルランドの先進性に学ぼう。

アイルランドの先進性に学ぼう。
林 幸弘

アイルランドは“欧州のシリコンバレー”と呼ばれるように、IT分野や医療などの分野を中心に飛躍的な成長を遂げています。2024年の1人当たりのGDP(国内総生産)は世界ランキングで3位。日本の3倍以上の数値を記録しています。

土屋 善弘
土屋

30年前までのアイルランドは、農業国で、工業も何もない、ヨーロッパの最貧国といわれていました。それが、政府の施策で外資企業の法人税を下げることで、グーグル社やアップル社といったGAFA※1の進出を後押ししました。さらには、ファイザー社をはじめ、世界の大手製薬会社の多くがアイルランドに製造拠点を構えるようにもなっています。ICT・医療・金融などの外資系企業の誘致によって産業は大きく成長し、その周辺産業も続々と集積している状況です。加えて、スタートアップを育てる体制も国家戦略で進められ、その飛躍はさらに続いていくことが予想されています。実際にアイルランドの若者たちは、高いスタートアップマインドを持っているようです。先進企業を招聘することで、そのための投資環境などのエコシステムも整いましたし、チャレンジ精神や起業を意識させる教育も充実していますからね。

林 幸弘

強い外資企業を招聘し、産業を強くする。変革を起こしていくための国家戦略に強いリーダーシップを感じます。日本ももっと変わっていかなければなりませんね。

土屋 善弘
土屋

国が小さいからやりやすい面はあるでしょうが、国のリーダーシップを含めて、本気で変わっていこうという意志を感じますよね。そして、アイルランドは国民の平均年齢が38.4歳という若い国でもありますので、政府陣の年齢も若い。積極的に海外に移民していった国民性も相まって、環境の変化に敏感かつ柔軟であることも変革を成功させた大きな要因なのではないでしょうか。ただ、リーダーシップとはいっても、その構造は縦割りではなく、フラットな印象があります。官が上にいてみんなを導くのではなく、うまく横のつながりで連携しながら、あるべき姿を目指し、より良い未来を築いていく。それも、弱者を思いやる国民性ゆえの関係性だと思っています。

林 幸弘

変革の在り方にも国民性が表れているのですね。アイルランドは就業者1人当たりの労働生産性も世界ランキングで1位。その数値は日本のおよそ2.5倍です。こうした背景には、どのような強みがあると思われますか。

土屋 善弘
土屋

もちろん、GAFAをはじめとした最先端の企業を誘致したことも大きいでしょうね。アイルランドの人たちは、AIやRPA※2を駆使しながら、非常に効率良く仕事を進めていきます。ただ、その背景には、ワークライフバランスへの意識の高さがあると私は考えています。彼らは決して、だらだらと仕事をしないし、その集中力にはいつも驚かされます。「残業なんてしないで、家族の時間をつくりたい」。その気持ちがとにかく強いんです。

林 幸弘

お話を伺っていると、日本が学ぶべき点は多いと思いますが、逆にアイルランドに提供できる価値はどのようなものだとお考えですか。

土屋 善弘
土屋

アイルランドは、きめ細かな技術や品質に強いわけではありません。日本の技術や、生産・品質管理の考え方は、彼らにとって大きな魅力だと思いますよ。両者が交流し、新たな発見を得ることで、より素晴らしい製品・サービスが生まれることになるのではないでしょうか。

※1 GAFA:米国を代表するIT企業 Google、Apple、Facebook(現 Meta)、Amazonの頭文字をとった略称
※2 RPA(Robotic Process Automation):ソフトウェアロボットによる定型業務の自動化

実践的な学びで目的を突き詰める。

実践的な学びで目的を突き詰める。
林 幸弘

先ほどお話しいただいたスタートアップに関する教育もそうですが、国を変革し、持続的な成長を実現するには、教育との一貫性も重要になります。アイルランドは、EU加盟国で大学卒業率1位。これは世界でも4位と高い水準です。実際に、アイルランドではどのような教育が行われているのでしょうか。

土屋 善弘
土屋

アイルランドの教育は、座学より実践を重視しているイメージですね。日本人が受けてきた教育とは真逆のもので、とても興味深いと思いました。決して、知識を軽視しているわけではなく、「実体験でそれをどう活かすか」「自分で考え、答えを出していく」ことを大切にしている。要は、「知識をいかに使うか」に重きを置いているんですよ。アイルランドの学校は小規模、クラスも少人数制で、先生と生徒のコミュニケーションやディスカッションを活発に行い、自らの考えを述べていくことを重視しています。また、学びの内容も一律のプログラムではなく、幅広い選択肢が用意されています。

林 幸弘

日本の教育もここ10年で大きく変わりましたが、その先を行っているわけですね。土屋さんが特におもしろいと思った教育面での取り組みはありますか。

土屋 善弘
土屋

最も独創的でおもしろいと思ったのは、高校1年時に行われるトランジションイヤーです。この1年間は、学校での授業は行われず、生徒たちは企業や団体での社会体験に全力を注ぎます。ひとりひとりの子どもたちが、「将来やってみたいこと」や「触れてみたい世界」を1年かけて体験する。そうした仕組みがあるんです。感受性や吸収力が高い時に、時間をかけて本気の体験をする。本当に衝撃を受けましたよ。これだけの時間があれば、自分自身の多様な可能性に気がつくことができるはず。とても実践的で、意味のある取り組みだと思いました。

林 幸弘

その年代で社会を体験する1年間は、とても濃密なものになりそうです。知識をいかに使うかを磨き、それを発揮できる自分だけの場所をじっくりと探す。これ以上ない実践的なプログラムだと思います。

国際交流で人生の「変革点」を。

国際交流で人生の「変革点」を。
林 幸弘

ここまでのお話で、アイルランドから私たちが学ぶべきことが非常に多いと感じさせられました。土屋さんは、2025年をアイルランドと日本の友好関係を大きく発展させる重要な一年と位置づけているそうですね。

土屋 善弘
土屋

2025年4月に、日本におけるアイルランドの新たな中核拠点、大使館新庁舎「アイルランドハウス東京」がオープンしました。この拠点は、アイルランド政府最大の海外投資であり、いかに日本との交流を期待しているかがわかります。毎年3月に私どもIJCCが主催開催している「グリーン アイルランド フェスティバル」も年々、10万人以上の来場者で盛り上がっていますので、より多くの人にアイルランドを知っていただく機会を今後も提供していきたいですね。

林 幸弘

そうした意味では、4月から始まっている大阪・関西万博は大きなチャンスになりそうですね。

土屋 善弘
土屋

SNSなどでは、万博開始前まではあまり万博に期待していない声も見受けられましたが、今その評価がポジティブなものに大きく変わってきていることを強く感じます。万博は日本と世界が交流する大きなチャンスなんですよね。実際に、海外では日本に大きな期待を寄せているんです。アイルランドでは、単独パビリオンを出展するほか、国を代表する140名以上の起業家集団が大阪関西万博の開催がきっかけで日本に初来日しました。これは、お互いの国にとって、ものすごいビジネスチャンスになったと断言できます。毎年、さまざまな国を訪れている彼らは、日本で学びたい気持ちを本当に強く持っています。異なる文化や価値観と触れ合い、互いの強みからシナジーが生まれる。国際交流は、人にとって、ビジネスにとっての変革点となるものです。海外旅行よりはるかに安い投資で、価値ある出会いを得られる半年間は、まさに絶好の機会です。皆さんには、それを逃がさないようにしてほしいですね。

林 幸弘

それぞれの歴史・文化・ビジネスがつながり、新たな変革点へとつながっていく。国際交流の意義を再確認させてもらいました。

土屋 善弘
土屋

日本は今、第二の開国の時期を迎えている。私はそう考えています。かつて、海外の先進国から多くを学び、飛躍的な成長を遂げた。その原点に返ることが、日本にとって大きなプラスになるのではないでしょうか。

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