
知のプラットフォーム、データベースとしてのAOM
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磯村 和人Kazuhito Isomura
中央大学 理工学部ビジネスデータサイエンス学科教授京都大学経済学部卒業、京都大学経済学研究科修士課程修了、京都大学経済学研究科博士課程単位取得退学、京都大学博士(経済学)。主著に、Chester I. Barnard: Innovator of Organization Theory(Springer, 2023年)、『戦略モデルをデザインする』(日本公認会計士協会出版局、2018年)、『組織と権威』(文眞堂、2000年)がある。
政府、企業の活動だけでなく、研究の活動においてもインテリジェンスの重要性が高まっている。研究成果を上げ、発信していくためには、最新の研究動向を継続的にウォッチし、どのように研究を進めていくかを十分に検討していく必要がある。グローバルに研究動向を把握する上で、経営学に関する世界最大規模の国際学会であるAOMが知のプラットフォーム、データベースとして機能していることを確認する。
はじめに

本稿では、経営学に関する世界最大規模の国際学会であるAcademy of Management(以下、AOM:米国経営学会)とはどのようなものであるか、その概要について論じる。AOMは、研究者を中心しつつも、実務家、コンサルタント、出版社など、多様な会員が参加し、それぞれが対等に知的な交流を深めるための知のプラットフォーム、データベースとして機能している。政府や企業の活動において、近年、インテリジェンスの重要性が認識されるようになるなかで、研究の活動も例外ではなく、つねに研究動向をウォッチすることは欠かせない。AOMでは絶えず最新の研究が発信され、年次大会に参加する価値は大いにあると考えられる。
AOMは経営学に関わる多様な研究分野を網羅する学会の連合体である。通例、7月下旬から8月上旬に北米で5日間、年次大会が開催される。そこでは、研究発表が行われ、研究動向を知り、共同研究者を探索することができる。また、研究者同士の打ち合わせ、出版社との打ち合わせ、就職の斡旋、面接なども行われている。そのために、年次大会に参加すると、研究を進めていく上で必要なことをほとんどワンストップで、対面で実現できる。AOMは、研究者として、グローバルに活動していく上で、ネットワーク形成に欠かせない機会を提供してくれる。
したがって、本稿では、AOMの概要を説明し、グローバルに多様なメンバーが連携していく上で重要な役割を果たすことを理解し、AOMへ参加する橋渡しとする。
AOMとは

(1)AOMの成り立ち
ホームページの紹介によると、AOMの始まりは以下のとおりである(Academy of Management, 2025g)。1936年11月2日、ミシガン大学のチャールズ・L・ジェイミソン教授とシカゴ大学のウィリアム・N・ミッチェル教授は、経営学のコースを担当する教員に対して、経営の哲学の発展を目指す教育者組織の結成について議論するために、シカゴ大学のクアドラングルクラブでの会合への招待状を送った。1936年12月28日に開催されたこの会合に出席した教授たちは、新組織をAOMと称することに同意し、今後の年次大会では、組織の目的を探求し、学術論文の発表と議論を行う場として活用することを決定した。
その後、AOMは、第二次世界大戦で大会が開催できないこともあったものの、着実に成長を遂げ、経営学に関する世界最大規模の学会へと発展した。当初、10名のメンバーで始まり、現在では、120カ国から、18,000人を超える会員を抱えている。例年、7月末から8月上旬にかけて5日間にわたって、年次大会が北米を中心に開催され、3,000を超えるセッション、参加登録者で10,000人以上が参加する。プログラムにリストされる人数では20,000人近くになる。
(2)AOMの構成
図表1のように、AOMは、26のDivision、Interest group(以下、DIG)から構成される学会の連合体である(Academy of Management, 2025b)。バーナード研究の第一者であるW.B. WolfがAOM会長であったときに、今後の学会をどうするかを議論し、現在の学会の連合体としてのAOMを組織した。
こうした構成をとっていることから、AOMは多様性が高く、理論的分野から応用的、実践的分野まで、幅広くフォローしている。具体的には、OB(組織行動)、OMT(組織・経営理論)、STR(戦略経営)、HR(ヒューマンリソース)、IM(国際経営)のような伝統的な研究分野をはじめとして、最近、急速に発展している新しい領域までカバーしている。新しい領域としては、DEI(多様性、平等性、インクルージョン)、SIM(経営における社会問題)、ONE(組織と自然環境)、PNP(公的と非営利)がある。また、MSR(マネジメント、スピリチュアリティ、宗教)のように、いわゆる科学とは一般的には見なされにくいものも含んでいる。
このように、経営学に関わる研究領域をほぼカバーすることから、年1回、開催される年次大会に参加すると、多様な研究領域における最新の研究動向を知ることができる。

世界最大規模の年次大会
学会の中心的な活動は、研究発表を行う年次大会と研究成果を出版するジャーナルの発行ということになる。まず、本節で、年次大会について見てみることにし、次節で、ジャーナルなど発行媒体について論じる。
(1)AOM年次大会の日程配置
AOMの年次大会は、5日間で構成される。金曜から始まり、日曜をはさんで、火曜で終了する日程になっている。通例では、最初の2日間には、Professional Development Workshop(PDW)などが中心に配置され、博士課程の学生、あるいは、すでに大学などの研究機関で職を得ているメンバーの能力開発にフォーカスしている。中日の日曜には、大会のテーマに関するセッションが配置され、シンポジウム企画が多くなる。最後の2日間にはペーパーセッションが多く配置され、研究成果の発表が中心になる。
ただし、2025年のコペンハーゲンの年次大会では、統一テーマが設定されていないこと、新たにポスターセッションをリニューアルし、参加しやすい時間帯に多く配置していることによって、プログラムが大きく変化している。
(2)開催地とテーマ
過去20年間の開催地とテーマは、図表2のようになる。北米であるアメリカ、カナダを中心に開催される。初回、シカゴで開催されてから、最も開催されている地がシカゴである。その他では、ボストン、フィラデルフィア、アナハイムなどでしばしば開催される。2005 年にはハワイのホノルルで開催された。カナダでは、モントリオール、バンクーバー、トロントで開催されている。
AOMの年次大会に毎年、参加していると、ほぼアメリカの主要都市を訪問することになる。今年は、初めてヨーロッパでの開催となった。これまでは、北米の学会であったが、国際学会へと脱皮したことを象徴する開催地である。また、今年のコペンハーゲンの年次大会では、統一的なテーマが設定されていない。これまで以上に広く、経営に関わるトピックを探索するためであると説明されている(Academy of Management, 2025c)。
さまざまな研究を網羅する学会の連合体ということもあり、統一テーマは、広く社会に影響を与えていることを取り上げることが多くなっている。経営学を通じて、社会に貢献し、よりよい社会を目指すというテーマがしばしば選定されている。

具体的には、環境問題、ケア、資本主義、ガバナンス、インクルージョン、イノベーションなど、多様である。また、文化的な多様性や歴史的に過去を見直そうとするものも含まれている。さらには、公共善、よりよい生活とは何か、経営に関わる倫理的、社会的な課題を問うものもある。ただし、今回のように、統一テーマを定めないというのは、新しい動きである。
(3)AOMでの発表形態
発表形態は多様で、伝統的なpaper sessionから、 professional development workshops(PDW)、poster sessions、caucuses、 symposiaまで、さまざまな形態が採用されている。PDWでは、研究者に対してスキルを向上させるセッションが用意される。Poster sessionsではインフォーマルなコミュニケーションが可能となり、共同研究を促す機会になる。Caucusesやsymposiaでは、新しい研究テーマを探索したり、すでに発表されたペーパーをベースに研究をプロモートしたりする機能を果たしている。以下では、ホームページでの説明にしたがって、それぞれの発表形態の詳細を見る。
PDW は、さまざまなセッション形式と学習体験を提供し、各分野における専門家が指導し、参加者にとっての実りある学びをもたらすことを目的としている。ここには、若手の研究者を育成する博士課程コンソーシアムや若手教員コンソーシアムも含まれる。ワークショップには、チュートリアル、タウンホールミーティング、分科会、討論会、円卓会議、ツアー、研究インキュベーターなど、さまざまな形式が採用される。PDWは、基本的にインタラクティブに行われる。また、研究発表だけでなく、出版、就職サポートなどのサービスも提供される(Academy of Management, 2025e)。
ポスターセッション(poster sessions)では、研究を共有し、ネットワークを進める機会が提供される。ポスターセッションでは、従来の発表形式と比べて非公式な雰囲気で研究成果を共有できる。発表者は、視覚的に表示されるポスタープレゼンテーションを作成し、研究結果、方法、結論を要約し、発表する。ポスタープレゼンテーションでは、情報を明確かつ魅力的にするために、グラフ、画像、テキストが含まれ、ネットワーキングのためのプラットフォームが提供される。この形式では、発表者は自身の研究について即座にフィードバックを受け取ることができる。1時間の対面ポスターセッションとして開催される(Academy of Management, 2025e)。
2025年から大幅に改良され、発表形態の中心的なものに位置づけられている。筆者は、ポスターセッションで実務家、コンサルタントの共同研究者3名とともにポスターセッションで発表を行うが、アブストラクトはプロシーディングに掲載され、事前に報告スライド、プロモーションビデオ、ポスターを提出すると、アプリで配信されるようになっている。また、プログラムの閲覧数や参加予約なども確認できるようにされている。
コーカス(caucuses)では、研究者がまだ育成段階にある新しいアイデアを考案し、共有し、議論する機会が提供される。コーカスは、参加者が協力し、新しいアイデアを開発し、会議のテーマに関する新たなトピックを、簡便に非公式な方法で探求する機会を提供するように設計され、コミュニティを育成し、将来的な共同研究のきっかけを作ることを目的としている(Academy of Management, 2025a)。
ペーパーセッション(paper session)では、論文は、1つのDivision、Interest Group(DIG)のみに提出可能となっている。論文セッションは、DIGプログラム委員長がDIGの関心や専門分野を反映した共通のテーマに基づいて、採択された論文をグループ化する。各ペーパーセッションは3〜5本の論文で構成され、司会者が紹介、時間管理、セッション内容の誘導を行う。各著者は自身の研究を発表するために決められた時間をもっている。ペーパーセッションは90分の時間枠で組まれる(Academy of Management, 2025f)。
シンポジウム(symposia)は、複数の講演者が共通のトピックやテーマについて議論し、その主題に新たな知見をもたらす。シンポジウムには、パネルシンポジウムと発表者シンポジウムの2種類があり、すべてのシンポジウムセッションは90分の時間枠で組まれる(Academy of Management, 2025f)。
会員に配信されたメールによると、2025年年次大会では、PDWが723、Poster Sessionsが893、Caucusesが28、Paper Sessionsが1,064、Symposiaが757となっている。
AOMが発行するジャーナルとプロシーディング
続いて、AOMの活動の中心であるジャーナルの発行について見る。図表3のように、AOMは、複数のジャーナルとプロシーディングを発行している。

AOMでは、長らくAcademy of Management Review(AMR)とAcademy of Management Journal(AMJ)の2誌が代表的なジャーナルであった。いずれも経営学の研究領域では、トップジャーナルとして高く評価されている。その後、新しいジャーナルが続々と創刊されており、現在では、図表3にあるように、7つのジャーナルと2つのプロシーディングが存在する。
AOMの会員になると、すべてのジャーナルとプロシーディングのアーカイブズにアクセスできるので、便利である。かつては、年次大会で発表したペーパーをリバイスし、他のジャーナルに投稿することが行われてきた。しかし、現在では、プロシーディングにフルペーパーが掲載されることから他のジャーナルに投稿することは認められていない。そのために、ジャーナルに投稿するのか、年次大会で発表してプロシーディングに掲載するのかを事前に検討する必要がある。その結果、ペーパーセッションはその様相を変化させている。
おわりに

本稿では、世界最大規模の経営学に関わる学会であるAOMについて論じてきた。グローバル化が進むなかで、海外から研究を受容するだけでなく、研究を海外に発信していくことの重要性も高まっている。こうした意味からも積極的に国際学会に参加していくことの意義を認識できるだろう。
ここでは、AOMに参加するメリットを整理する。18,000人以上の研究者が参加する経営学研究のコミュニティであり、年1回、開催される年次大会に参加することで、最新の研究動向に触れることができる。一時的に流行する研究もあるが、まだまだ陽の目をみない研究に地道に取り組む研究もあり、多様な研究が可能であると実感できる。国内で研究をしていると、世界の動向に疎くなりがちである。インテリジェンスの重要性を理解し、自らの研究の意義をグローバルなコミュニティのなかで位置づけることが大切である。国内で評価されない研究が世界では受け入れられるということも起きる。
AOMでは、研究者だけでなく、実務家、コンサルタント、出版社など、研究、教育に強い関心をもつさまざまな会員が参加し、グローバルにネットワークを形成していく上で、とても有効な場を提供している。その結果、年1回の年次大会に参加するだけで、研究の打ち合わせや出版の打ち合わせを行うことができる。また、AOMでは研究職の就職、転職に関する情報交換や紹介についてサービスが提供され、年次大会が開催されるホテルでは面接も行われている。さらに、出版社のブースが出展され、最新刊の書籍を手に取ることもできる。
これまでは、北米の学会であったものの、最近、急速に国際化が進んでいる。かつては、定量的な手法を活用する実証研究が中心であったが、欧州の研究者も増加したこともあり、定性的な研究も広く発表されるようになっている。これに合わせて、研究業績の評価に関する考え方も変化してきている。また、出版媒体も多様化し、すべての研究で発表されたものもアーカイブ化されていて、容易にアクセスが可能になっている。
以上のように、AOMは経営学に関する知のプラットフォーム、知のデータベースとして、機能している。年1回、開催される年次大会は、研究者として必要なさまざまな活動やサービスがワンストップで行われる貴重な機会であり、定期的に参加する価値は大いにある。研究者だけに限定されるわけではなく、実務家にも広く開かれており、また、北米に限定されることなく、地域的にも広がりを見せている。AOMの年次大会に参加し、グローバルな動きを実感することは大いに知見を広める上で、効果的である。
参考文献一覧
Academy of Management (2025a) “Caucuses,” https://aom.org/events/annual-meeting/annual-meeting-program/caucuses(2025年7月12日閲覧)
Academy of Management (2025b) “Divisions and Interest Groups,” https://aom.org/network/divisions-interest-groups-(digs) (2025年7月10日閲覧)
Academy of Management (2025c) “Is there a conference theme for 2025?”, https://support.aom.org/hc/en-us/articles/28280066872727-Is-there-a-conference-theme-for-2025#:~:text=There%20is%20no%20formal%20conference,global%20diversity%20of%20our%20field(2025年7月11日閲覧)
Academy of Management (2025d) “Journals and Publications,” https://aom.org/research/journals,(2025年7月12日閲覧)
Academy of Management (2025e) “Professional Development Workshops(PDWs), https://aom.org/events/annual-meeting/annual-meeting-program/professional-development-workshops(2025年7月11日閲覧)
Academy of Management(2025f) “Symposia and Paper Sessions,” https://aom.org/events/annual-meeting/annual-meeting-program/symposia-and-paper-sessions(2025年7月12日閲覧)
Academy of Management (2025g)”The History of the Academy of Management, ” https://aom.org/about-aom/history(2025年7月10日閲覧)