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Vol.1|現代の企業間競争における「三層構造」とは何か?|経営コンセプトの力|「理論」と「実践」の接続|Link and Motivation Inc.
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Vol.1|現代の企業間競争における「三層構造」とは何か?|経営コンセプトの力

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  • 岩尾 俊兵

    岩尾 俊兵Shumpei Iwao
    慶應義塾大学 商学部 准教授

    慶應義塾大学商学部卒業、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、東京大学博士(経営学)。第73回義塾賞、第36回・第37回組織学会高宮賞、第22回日本生産管理学会賞など受賞。近刊に『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)。

日本の組織はなぜ力を失ってしまったのか、それは組織内で働く個人にとってどんな問題を引き起こすのか、そこから抜け出すヒントはどこにあるのか。こうした問題意識のもとで、この連載では、「現代企業の競争状況は三層構造をなしている」ことを出発点に、この競争状況を認識することがなぜ現代の多くの(特に日本の)企業にとって必要不可欠なのか、また企業や組織で働く個人はこの競争状況にいかに対峙すればよいのか、この競争状況を認識し対峙することで個人と企業にそれぞれどのようなメリットがあるのか、といったテーマについて考えていく。初回では、この三層構造の競争について詳述する。

現代企業が直面する三層構造の競争

現代企業が直面する三層構造の競争

ここで、「現代の企業が行っている三層構造の競争」とは、具体的には、製品レベルの競争(品質競争、価格競争)、製品を生み出す組織能力レベルの競争(能力構築競争)、そして組織能力を生み出す経営コンセプトレベルの競争という、3つの層で企業同士がしのぎを削っている状況を指す。そして、この3層のすべてにおいて、「強みを育て弱みを克服する」マネジメントが必要となる(図1)。

現代企業が直面する三層構造の競争

一層目:製品間競争

一層目:製品間競争

このうち、製品間競争は多くの企業人が普段から認識している競争状況である。これは、製品の品質、コスト、差別化、ターゲットへの集中度合い、販売網の広さなどで勝負する製品レベルの競争の層である。ここでは、製品を物理的な存在よりも広く捉えて、トータルなビジネスシステムでライバルに勝つ必要がある。例えば、狭義の製品の品質(顧客の要求に合致する度合い)で負けても、販売網で勝つ、広告で勝つ、アフターサービスで勝つ、といった具合である。この製品間競争のレベルは一般にも広く認知されているうえ、この層の競争において利用できる経営理論・手法も数多く開発されている。

この時、製品間競争において「強みを育て弱みを克服する」ためには、例えば、コア部品やコアサービスを定めて、それ以外の部分を場合によって外注するといった経営方針がありうるだろう。ただし、この際に必要なのは、「自社にとってどこがコア部品やコアサービスなのか」を見定め、さらに、外注先が高効率で高品質なオペレーションができるようにする「中核部品の見定めと切り離しのマネジメント」である。この点は、武石彰『分業と競争』(有斐閣、2003年)などに詳しい。

次に、製品間競争には1つ上の層での競争を想定できる。それは、製品を生み出す組織能力レベルの競争である。典型的には、製品開発のヒット率が高い組織には一定の能力の束があるといった指摘がなされることがある。また、製品開発以外でも、製品の製造段階において設計品質と製造品質の乖離をなくす工場の組織能力や、顧客の不満をすぐさま解決するカスタマーサービス部門の組織能力などがありうるだろう。

二層目:組織能力間競争

二層目:組織能力間競争

ここで、単に「能力」ではなく「組織能力」という表現が使われている理由は、製品開発、生産、アフターサービスなどを高効率・高品質にする力は、単なる個人の能力の集合ではなく、企業組織に蓄積されるルーティンに依存するからである。例えば、長年の経験で洗練されたマニュアル、先輩から代々受け継いできた先達の知恵・知識などがこうした力を担保している。この組織能力レベルの競争は「能力構築競争」と呼ばれ、藤本隆宏『能力構築競争』(中央公論新社、2003年)などに詳しい。

能力構築競争とは、生産・マーケティング・財務・販売・アフターサービスなどの現場で企業人が切磋琢磨し、知識・知恵を蓄積し、組織能力を高めていく競争のことを指す。イメージとしては、ボディビルディングやウェイトリフティングが厳しいトレーニングと食事管理を通じて、意図的に筋線維・筋繊維の一部破壊、再構築を繰り返すことで筋肥大を起こさせて、筋力という潜在的な能力を高める競争を行う様子に似ている。能力構築競争においては、個人における筋トレと同じように、現状の能力よりも若干難しい品質・コスト・納期・フレキシビリティについての目標が設定され、これを達成するための「背伸び」を通じて、古い仕事のやり方の一部破壊、再構築が意図的に繰り返される。

こうして、「組織を鍛える」という発想で行われるのがこの能力構築競争である。ただし、無理な目標設定を行うことでいたずらに組織を疲弊させてはいけない。そのため、能力構築競争においては、「どのような目標ならばチームメンバーが無理なくついてきてくれるか」「会社の目的と照らし合わせて、どのような目標から取り組むべきか」といった目標設定のマネジメントと、得られた知見を会社全体で活かす知識創造・知識移転のマネジメント、中核能力を育てて、それ以外を必要に応じてアウトソーシングするマネジメントが必須である。

三層目:経営コンセプト間競争

三層目:経営コンセプト間競争

最後に、能力構築競争のさらに上位の競争として、組織能力を生み出す経営コンセプトレベルの競争がありうる。経営コンセプトとは、組織を個々人の総和以上にするために定められる、誰がどう働き、別の人がどう処理するかについての脳内のルール=「脳内プログラミング」のことである。組織は、個々人の能力の集合以上の価値を生み出さなければ存在意義を喪失する。そのため、きちんと存在している組織であれば、すべての組織は経営コンセプトを持っている。しかし、そこには巧拙の差があり、経営コンセプトが弱体化すると、もはや組織能力が個々人の能力を足し合わせたよりも低い「マネジメント・ディスカウント」状態になる。

この経営コンセプトレベルの競争においては中核的な経営コンセプトを定めたうえで、中核でない部分は借り物の経営コンセプトで補えばよい。例えば、生産についての経営コンセプトを中核として育てながら、財務についての経営コンセプトは、最新の金融工学を参考に借り物で済ますといった具合である。しかし、企業にとっての最上位レベルでの競争である経営コンセプトレベルの企業間競争においてのみ、(特に日本では)この「強みを育て弱みを克服する」当たり前のマネジメントができなくなっている。そこには明確な原因が存在するが、それについては次回、解説することとする。

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