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脳神経科学の知見が、私たちの可能性を切り拓く。

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  • 青砥 瑞人

    青砥 瑞人MIZUTO AOTO
    応用神経科学者
    株式会社DAncing Einstein
    FOUNDER CEO & NEURO-INVENTOR

    日本の高校を中退し、米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)神経科学学部を飛び級して卒業。脳の知見を医学だけでなく人の成長に応用し、AI技術も活用する「NeuroEdTech®︎」「NeuroHRTech®︎」という新たな分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得する脳神経発明家。新技術も活用し、ドーパミンがあふれてワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、2014年に(株)DAncing Einstein創設。

  • 大島 崇

    大島 崇TAKASHI OSHIMA
    モチベーションエンジニアリング研究所 所長

    京都大学大学院修了後、大手ITシステムインテグレーターを経て、2005年に(株)リンクアンドモチベーション入社。中小ベンチャー企業から従業員1万人超の大手企業まで幅広いクライアントに対し、プロジェクト責任者としてコンサルティングを行う。現場のコンサルタントを務めながら、商品開発・R&D部門責任者を歴任。

  • 林 幸弘

    林 幸弘YUKIHIRO HAYASHI
    株式会社リンクアンドモチベーション
    モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員
    「THE MEANING OF WORK」編集長

    早稲田大学卒業。2004年に(株)リンクアンドモチベーション入社。組織変革コンサルティングに従事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員として、日本で働く外国籍従業員のエンゲージメントやマネジメントなどについて研究。現在はR&Dに従事、経営と現場をつなぐ「知の創造」を行い、世の中に新しい文脈づくりを模索している。

個々の人材の「ウェルビーイング」は現代の経営・人事において、最も重要視されるファクターの一つとなっている。しかし、「幸せ」とは一定した概念ではなく、人によって異なるもの。そこにアプローチしていくうえで、貴重な示唆を与えてくれるのが脳神経科学だ。脳の仕組みを理解することで、より充実した仕事、学び、人生を実現していく……。脳神経科学の社会への実装・応用に取り組むパイオニア・青砥瑞人氏に話を聞いた。


「野球」と「恩師」が脳を学ぶきっかけに。

「野球」と「恩師」が脳を学ぶきっかけに。
林 幸弘

脳神経科学はモチベーションやストレスなど、私たちの心の動きに密接に関わってくる学問です。これからの経営や仕事を考えるうえで、青砥さんがお持ちの知見は非常に大きな意味を持っていると私は考えています。まずは、「青砥さんと脳神経科学との出合い」を紐解いていきたいと思います。

青砥 瑞人
青砥

私は小・中・高と野球を続けてきたのですが、最初のきっかけをくれたのは小学校の時に所属していたチームの監督でした。かつて名門・広島商業高校でエースを務めていた、すごい人だったんです。

大島 崇
大島

当時の強豪校、作新学院高校を甲子園で破った時のエースですよね。

青砥 瑞人
青砥

はい。野球好きには、かなり有名な方だと思います。10年以上前にがんで亡くなられたんですが、本当にいろいろなことを教えていただきました。その中で、特に印象に残っているのが、試合に勝つための精神集中法。下腹部にある「丹田(たんでん)」に意識を集中させる呼吸法でした。最初はなぜそんなことをするのかわからなかったのですが、監督に言われたので、とにかく真面目にやるしかない。で、実践してみると、「落ち着く」「集中できている」という効果的な感覚があって、その呼吸法をずっと継続しました。高校時代はピッチャーを務めていたのですが、それをやるのとやらないのではパフォーマンスが大きく変わるんですよ。あくまで自分の感覚でしかありませんでしたが、コントロールや試合への入り込み方がまったく違ってきましたから。

林 幸弘

その教えが脳につながっていくのですね。

青砥 瑞人
青砥

それから、高校2年生の時にケガをして野球ができなくなり、その流れで高校も中退してしまったんです。ふらふらとフリーター生活を送っていたのですが、周囲が就職先を決めていく中、だんだん「ヤバい!」と感じ始めて(笑)。「自分は何をやりたいんだろう」と真剣に考えたのですが、何回考えても野球しか出てこないんですよ。それもそのはずです。本気で臨んできたことが野球しかなかったのですから。トレーナーでもスポーツドクターでもいいので、何かしらの形で野球に関わりたいと思ったところ、思い出したのが呼吸法でした。それがなぜ、自分のパフォーマンスに影響していたのだろうと気になってしまって。それまで本をまともに読んだことすらなかったのに、スポーツ系の本を読み漁りました。ただ、脳が関係しているらしいことはわかっても、脳がどうなったからそのような効果が生まれたのかはどこにも書いていないし、わからなかった。要は、納得いかなくなっちゃったんですよね。脳について学び、知識を得れば、その理由がわかるかもしれない。そんな想いが脳神経科学との出会いにつながっていったんです。

林 幸弘

そうしたきっかけだったのですね。青砥さんの中には、どこか野球への恩返しみたいな気持ちがあったのでしょうか。

青砥 瑞人
青砥

正直に言うと、そうした崇高な想いはなくて(笑)。誰かのためにではなく、自分が好きで、やってみたいと思ったがゆえの選択でした。誰かのために選んだ道であったなら、これほどワクワクする気持ちは味わえなかったと思っていますよ。

アメリカでの学びは熱にあふれていた。

アメリカでの学びは熱にあふれていた。
林 幸弘

青砥さんはアメリカのUCLAに進み、脳神経科学を学んでいますね。

青砥 瑞人
青砥

実は、日本の大学受験に失敗しているんです。一次試験は通るのに、二次の面接で落とされる……。どこか消化しきれない想いがありました。今考えると、その挫折があったから、海外にも視野を広げられたのだと思っています。私は別に医学の道に進みたいわけではなく、脳について知りたかっただけ。だから、医学について学ぶ前に、脳を学ぶことができるアメリカのスキームは魅力的でした。さらに、UCLAは脳について先端の研究をやっていて、スポーツの強豪校でもありましたからね。もう、「ここしかない!」と。自分のやりたいことができる最高の環境を見つけた後は、本当にめちゃくちゃ勉強しました。合格通知が届いた瞬間は、これまでの苦労が認められた気がして、とにかくうれしかった。両親も泣いて喜んでくれましてね。ずっとフラフラしていたので、「諦められているんだろうな」なんて思っていたけど、心配して支えてくれていたんだなって。

大島 崇
大島

それはうれしいですね。UCLAでの学びはどのようなものでしたか?

青砥 瑞人
青砥

やはり入学してからが大変でした。世界中から強者たちが集結してきて、めちゃくちゃ勉強するわけですからね。図書館も24時間、開きっぱなし。図書館にこもってエナジードリンクを飲む、みたいな毎日が当たり前でした(笑)。それでも、各国から集まった強者たちと一緒に学べることは、本当に刺激的でしたし、ワクワクが止まらなかった。例えば、ケニアからやってきた友人は「ケニアの医療を変えるために来た」と、国を支える覚悟を持って勉強しているのです。一緒に勉強したり、情報交換し合ったりする日々は、本当にいい経験だったと思います。

林 幸弘

めちゃくちゃ勉強する。いいですね。

青砥 瑞人
青砥

それが当たり前なんですよ。だから、アメリカの大学生はテストが終わった後に「Undie Run」と呼ばれる“儀式”を行うんです。「死ななかった! 乗り越えた!」という気持ちを下着になって走ることで表現する。その熱には、本当に圧倒されました。まあ、医学系の学部は、テスト期間が長いので、みんなが走っている時も、まだ勉強しなきゃいけないんですけどね(笑)。

変化に立ち会う。その喜びに魅せられた。

変化に立ち会う。その喜びに魅せられた。
林 幸弘

脳神経科学に魅せられていった青砥さんは、医師や学者ではなく、学んだ知識を社会に応用していくために起業する道を選びます。その決断に至るまでにどのような経緯があったのでしょうか。

青砥 瑞人
青砥

最初は、MD-PhD※という医者になり、研究をする道にも行こうと考えていたんです。ただ、その道に進めることがわかった瞬間に、「それはいつでもできる」と思ったんです。医学や薬学はもちろん大切だけれど、この知見で人生をいい方向に変えられたり、成長できたりする人がたくさんいるはず。脳を知れば知るほど、この知見を応用することに魅力を感じるようになったのです。私にとって、一つの転機になったのが、ギャップイヤーで帰国した時にさまざまな大学生たちと対話したことでした。東大や京大で学んでいても、目が輝いてない。どことなく楽しそうじゃない。「あれ?」と思っちゃって。

林 幸弘

先ほど話題に出た「Undie Run」とは対極の世界ですね。

青砥 瑞人
青砥

いろいろと対話を重ねていくうちに、大学生たちは「自分のやりたいこと」を見出していったんです。その後、アフリカに行った人もいれば、スウェーデンに行った人もいれば、ハーバード大に留学した子もいて。そうすると、目の輝きが違ってくるんですよ。その変化に立ち会えたことは、私にとって「これ以上なく楽しいこと」だったんです。

大島 崇
大島

脳神経科学の知見を駆使して、人の変化や成長を促す。今に通じる機会だったと。

青砥 瑞人
青砥

脳神経科学を通じて、私自身も変わったし、多くの人たちが変わったのも目の当たりにしました。けれど、脳神経科学を社会に応用していくビジネスを行っている会社はほかにありませんでしたし、具体的に何をするかも定まってはいませんでした。そのためにも、まずはいろいろなことを知らなければと思っていました。そこで、アメリカ中の研究者にアポイントをとり、話を聞きに行く旅に出ることを決めたんです。脳神経科学と教育、人の学び、成長……。どのような知見があって、どのような出会いが待っているのか。ワクワクしっぱなしの3カ月でした。

林 幸弘

アメリカ中の研究者を探訪する。すごい熱量を感じますね。

青砥 瑞人
青砥

西海岸から東海岸まで縦横無尽に移動して、さまざまな人に会いまくる。そうした中で特に印象に残っているのが、UCLA卒のジュディー・ウィリスという研究者と話したことでした。彼女はもう70歳過ぎの大先輩。神経内科医を辞めた後に教職免許を取り直し、子どもたちの現場にアプライしているという情熱にあふれた方です。「あなたは何をやりたいの?」という彼女からの問いは、その後の人生を大きく決定づけるものでした。私が最もワクワクする瞬間は、どんどん出てくる脳神経科学の論文を読み、新たな英知の面白さに出合った時。そして、「これって、こういうところに使えそう」「実生活で言えば、こういうことだよね」と妄想を膨らませることが好きだったんです。最先端の脳神経科学を世の中に実装・応用していくには、まだまだ大きな乖離がある。彼女との対話を通じて、私がやりたいのは「そこだ」と確信できました。世界中から生まれる最先端の知見をキャッチアップしながら、いかにして世の中に応用するのかを考える。今の自分があるのは、彼女との出会いがすごく大きかったと思っています。

林 幸弘

青砥さんの行動の根底には、いつも「好き」という気持ちがハッキリと見えますよね。その気持ちは「ウェルビーイング」というテーマに大きく関わってくるものであるように感じます。

※MD:Medical Doctor、PhD:Doctor of Philosophy

ハッピーな反応を「記憶の痕跡」に残す。

ハッピーな反応を「記憶の痕跡」に残す。
林 幸弘

脳神経科学の知見によって、「ウェルビーイング」は自らの手でつくり出すことができる。青砥さんの著書を読んで衝撃を受けたのは、自分自身の脳をつくり上げる「自己造形」というキーワードでした。私たちも従業員の働きがいを高めていこうとする時に、「仕事の捉え方」や「時間の捉え方」を変えていくアプローチをすることがありますが、それと同じようなことが脳神経科学の世界でもできると。どのようなメカニズムで自分の脳をつくり上げることができるのでしょうか。

青砥 瑞人
青砥

例えば、英単語1つ覚えるにしても、今まで自分の中になかったものが記憶として残るわけじゃないですか。実は、これって不思議なことだと思うんです。今までなかった世界を自分の中につくるためには、自分の内側が何らかの変化をすることになりますよね。

林 幸弘

言われてみればそうですね。これまでにいろいろなことを暗記してきたはずですが、そこに「なぜ」という疑問を持ったことはありませんでした。

青砥 瑞人
青砥

新しい知識を記憶として残す。その際に、細胞・分子レベルで神経細胞が構造を変化していることが確認され始めています。「何か新しい体験をする」「学習する」ことは、自分の内側を変化させることなんです。その変化の在り方をつくっていくことが「自己造形」。ただし、変化には良い変化もあれば、悪い変化もあります。では、自分を「ウェルビーイング」な状態に変化させていくためには、どうすればよいか。まずは、「ウェルビーイング」とは何かを考えなければなりません。

林 幸弘

近年、盛んに使われているワードではありますが、「ウェルビーイング」がどんな状態かと聞かれるとよくわかりませんね。

青砥 瑞人
青砥

一般的には、「心身共に健康」みたいな定義で使われていますよね。何となくはわかるけど、私は偏屈なので「それってどういうことなの?」って首を傾げてしまいますし、「ハッピーとどう違うのか」も明確に語られることはありません。これは私なりの解釈ですが、「ハッピー」とは瞬間瞬間の反応なんですよ。幸せを感じている瞬間は体内・脳内で化学物質がつくられたり、神経伝達物質がつくられたりして、神経細胞がアクティブになっていく。けれど、少し時間が経てば、またそれが普通の状態に戻るんです。

林 幸弘

なるほど。「ハッピー」とは、すぐに戻ってしまう、瞬間の反応であると。

青砥 瑞人
青砥

現れては消えていく、無形な状態。それが幸せの在り方。ただ、人間の脳は、それを瞬時のものだけにとどまらないようにすることもできます。ハッピーな反応を「記憶の痕跡」として残していく仕組みがあるんです。「ウェルビーイング」とは、良い状態のままでいることですから、そのままなくなっていくはずのハッピーな反応を常態化・神経細胞化させていくことが「ウェルビーイング」であると言っていいと思います。

林 幸弘

瞬時の反応で終わらせず、記憶の痕跡に残すと。

青砥 瑞人
青砥

その流れをつくるうえで大切なのが、どのような情報に注意を向けるかです。人間の脳には、自分に入り込んでくる情報を「フィルタリング」する能力があります。同時に、半自動的にネガティブ情報に注意を向ける「ネガティビティバイアス」という仕組みがあって、生存確率を高めるためにエラー検出をすることが優先される傾向にあるんです。けれど、自分の注意の向け方を意識的にポジティブな方向に変えることができれば、ハッピーな反応を導き、「ウェルビーイング」な状態で「自己造形」を行うことができるようになります。こうした能力を後天的に体得できるのは、脳におけるセントラル・エグゼクティブ・ネットワークと呼ばれる部分を使って、意図的に注意を向けられる「トップダウン注意」ができるからです。どのような情報をキャッチするかを意識的に選択し、自分の行動や感じ方、思考の在り方を意識的に誘導することができれば、自ずと「ウェルビーイング」な状態につながっていくということです。

内面の対話を通じて“自分”は自分でつくる。

内面の対話を通じて“自分”は自分でつくる。
林 幸弘

「ウェルビーイング」は、労働市場・働きがいといった背景において、非常に重要なテーマだと思います。この脳神経科学と、いわゆる働くみたいな部分との結びつきでいうと、どんなところが浮かびますか。

大島 崇
大島

労働市場の観点で言えば、「ウェルビーイング」って千差万別だと思うんですよ。会社側も「ウェルビーイング」を実現するみたいなことを掲げているけれど、どうもうさんくさい。結局、「ウェルビーイング」な状態であるかどうかを判断できるのは個人しかいないんですよね。大切なのは、個人が気づけるかどうか。会社側もウェルビーイングにしようではなくて、個人がウェルビーイングに気づけるようにする、といったアプローチが大事だと思っています。

林 幸弘

仕事をしていると目の前のことでいっぱいになって、自分にしかわからない「ウェルビーイング」を見失ってしまうこともありますよね。

大島 崇
大島

私はリンクアンドモチベーションに入社した時に、「お前に小人(こびと)はいるか」と問われたんです。「小人」というのは、今の言葉でいう「メタ認知」。客観的・俯瞰的に自分自身を捉えられないとダメだと。ただ、仕事においては、自分でコントロールできる範囲ってほとんどないことは理解しておくべきですよね。自分の内面は自分で気づき、改善に向けたアクションをとることはできるけど、「上司が」「会社が」ということを考えても、自分の幸せなネクストアクションにはつながりません。青砥さんが話す「ウェルビーイング」は、私たちが手がける「モチベーション」との接続点だと思っています。セルフ・モチベーション・マネジメントを考えるうえでは、まず、自分が触れる部分と触れられない部分を分けること。自分がマネジメントできる範囲は狭いということも踏まえて、その中でどう幸せに気づいていくかを企業が支援できたら、素晴らしいことだと思います。「ウェルビーイング」は押しつけられるようなものではありませんから。

青砥 瑞人
青砥

これまで私が話してきたことも、すべて自分の内側との対話なんですよ。先ほど出た「小人」の話もそう。ただし、自分と向き合うだけで終わってしまったら、一過的な反応で終わります。よく「自分を持ちなさい」などといわれますが、それは自分との対話を重ねることで、自分の情報が細胞分子レベルで宿され、ようやくかなうもの。英単語を1つ覚えるのに、何回も書いて発音して覚えられるようになるのと同じです。自分のことを理解できていない人って、実は相当、多いと思います。例えば、スマホのどこに何のアプリがあるかだって、即座には答えられないでしょう? 「汝自身を知れ」という言葉が紀元前から言い伝えられているのも、やはりそれだけの価値、意味があるから。それだけ自分自身を知ることは難しいし、重要な意味があるんだと思います。やりたいことや、譲れない夢、自分にとってのやりがい……。そうした想いや幸せを脳に刻むことが、やがてウェルビーイングになっていくのです。

林 幸弘

そうですね。自分のことは自分がいちばんよく知っていると言うけれど、実は「つもり」になっているだけなのかもしれません。

青砥 瑞人
青砥

今の世の中って、他者からのフィードバックで自分がラベリングされるじゃないですか。上司や同僚、家族から、「あなたの強みはここで、弱みはここだよね」「あなたってこうよね」といった感じ。子どもたちもそうです。テストで悪い点をとった時に、「ああ、オレってばかだな」となって、先生にも、親にも「これではダメだ」と同じことを言われる。でも、これは間違っているんですよ。算数や国語、社会の成績が悪いというファクトだけで、その人がダメなわけじゃない。他者がネガティブなラベルを貼ることで、自己がつくられる。そうした傾向の中では、ますます自分を持てなくなってしまう。だからこそ、自分と対話して、自分を知り、自分が“自分”をつくっていく意識を持つことが必要なんです。もう一つは、時間を横断して、自己との対話を行うことですね。人はポジティブな体験をした時に、1日単位でそれを振り返ることはあっても、時間を経て振り返ることはなかなかできないもの。異なる時間軸での記憶を脳の中で同時に発火させれば、その神経細胞が結びついていくんです。例えば、つらかった記憶と、それがあったから成長・成功できた記憶を同時に引き出すことで、ワイヤリングされるのです。それができる人は、再び苦悩・葛藤した時に、「これがあるから大きな成功、成長につながる」と前に進める。できていない人は、もうつらい、やめようと後ろ向きになってしまうわけです。

すべての人に幸せの神経細胞を。

すべての人に幸せの神経細胞を。
林 幸弘

若手の頃にひどく怒られたことが、5年目くらいになって身に染みるみたいなことってありますよね。ちなみに、青砥さんは著書『自律する子の育て方』の中で、「思考の随伴者」の存在が非常に重要であると述べています。教育現場においては先生、企業においては先輩や直属の上司がそれに該当する存在になるべきですが……。

青砥 瑞人
青砥

自分をつくっていくのは自分だと言いましたが、いかに客観的・俯瞰的になっても偏りは生まれてしまうものです。随伴者とは答えを持っている人ではなく、相手の視点を広げていく可能性を示す人。本当なら、そうした部分も自分でつくっていければいいのでしょうが、なかなかうまくはいきません。加えて、先生も上司もそうですが、「自分が持っている答え」を教えてしまう人がほとんどですよね。それでは、その人の脳に「学習」を促すことはできません。これは過保護だと思いますよ。

林 幸弘

効率が求められるビジネスの世界では、答えを伝えた方が簡単ですからね。でも、それでは、脳に刻まれる「学習」が行われないと。科学の目を通すと、さまざまな事象の解像度が高まりますね。

青砥 瑞人
青砥

科学は「How to」を教えるものではありません。「What」と「Why」を提示するものです。けれど、そのWhatとWhyは、How toを考えるヒントになっていきます。脳神経科学のナレッジから構造化し、理論化する。そうすることで、社会への応用が実現すると私は信じているんです。

林 幸弘

共通の土台となる学問・知見があれば、目の前の人や組織に確かな軸を持って向き合うことができますよね。脳神経科学の世界に触れてみて、「一人ひとり違うんだ」という当たり前の事実を突きつけられた気がしているんです。私たちは「1年目」「Z世代」といったラベリングをして、人を見てしまうこともあります。人によって、神経も細胞もまったく違うものである――その理解のもとに人と向き合うことがとても重要だと感じました。最後に、青砥さんが抱いている今後のビジョンをお聞かせください。

青砥 瑞人
青砥

世界を「ウェルビーイング」な状態にしたい。そう考えています。その状態になるには、世界中の人々に細胞・分子レベルの構造変化が起こり、物理的な質量が生まれることになります。私の夢は、世界中の「幸せに伴うウェルビーイングの神経細胞」を1g重くすること。決して、実現できない夢だとは思っていません。まあ、計測するのは難しいですけれど(笑)。

林 幸弘

曖昧な人間の可能性に脳神経科学の目線を入れることで、分子レベルで自分が変わっていける。私たちにとって、非常に大きな発見でしたし、自分自身に「変わっていける」という可能性を感じるきっかけになりました。

大島 崇
大島

「ウェルビーイング」を脳神経科学の側面から覗く。とても興味深いお話でした。当社では「ウェルビーイング」を企業経営やモチベーションという側面から覗いています。それぞれの知見がうまく組み合わさって、変化を生んでいくような世の中にしていきたいものですね。1つの視点(窓)では、どのような素晴らしい知見も押しつけになってしまう。窓がたくさん存在することで、ウェルビーイング搾取・働きがい搾取みたいなものもなくなっていくのではないかと思っています。

aoto_oshima_hayashi
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