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「ビジネスと人権」の本質に迫る。|鼎談 SDGパートナーズ × THE MEANING OF WORK|意味のあふれる社会を実現する|Link and Motivation Inc.
人間とは、正義とは、理想の社会とは何か。

「ビジネスと人権」の本質に迫る。|鼎談 SDGパートナーズ × THE MEANING OF WORK

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  • 田瀬 和夫

    田瀬 和夫KAZUO TASE
    SDGパートナーズ有限会社 代表取締役CEO

    東京大学工学部原子力工学科卒業、ニューヨーク大学法学院客員研究員。1992年外務省入省。国連政策課、人権難民課、アフリカ二課、国連行政課、国連日本政府代表部一等書記官、人間の安全保障委員会事務局補佐官などを務める。2005年外務省を退職、国際連合事務局・人間の安全保障ユニット課長、パキスタン国連広報センター長歴任。2014年デロイトトーマツコンサルティングの執行役員就任。2017年に独立しSDGパートナーズ(有)を設立。また「国連フォーラム」の共同代表を務める。

  • 大島 崇

    大島 崇TAKASHI OSHIMA
    株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションエンジニアリング研究所 所長

    京都大学大学院修了後、大手ITシステムインテグレーターを経て、2005年、株式会社リンクアンドモチベーションに入社。中小ベンチャー企業から従業員数1万名超の大手企業まで幅広いクライアントに対して、組織変革や人材開発を担当。現場のコンサルタントを務めながら、商品開発・R&D部門責任者を歴任。2015年、モチベーションエンジニアリング研究所所長に就任。

  • 白藤 大仁

    白藤 大仁DAIJI SHIRAFUJI
    株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ 代表取締役社長

    2006年リンクアンドモチベーション入社、同社の採用支援部門の事業部長を務め、業務効率向上コンサルティング等に従事。2015年には新規グループ会社を設立。企画室室長としてマーケティングやセールスプロセス構築のコンサルティングに従事した経験を持つ。多くの経営者および経営ボードとの実務を経て、2019年に株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズの代表取締役社長に就任。「オンリーワンのIRを。」をメインメッセージとし、企業のオンリーワン性を導き出すことで、IR活動や経営活動を支援する事業を行う。

誰一人取り残さない。一層大きな自由を。SDGsの根底にある概念。それは「人権」だ。ビジネスにおいて、その概念を意識している人はどれだけいるだろう。「ビジネスと人権」。急速に重要度の高まるテーマをSDGパートナーズの田瀬和夫氏と共に掘り下げる。


企業には負うべき責任がある。その「地殻変動」に気づくべき。

企業には負うべき責任がある。その「地殻変動」に気づくべき。
白藤 大仁
白藤

1948年の世界人権宣言以降、人権に対する意識は大きく変化した部分と、いまだ変わらない部分があります。近年、ようやく日本にも変化が表れてきましたが、問題は根深いと感じます。田瀬さんは、理想の人権世界に向けて、現在どの程度のステップまで来ていると捉えていますか。

田瀬 和夫
田瀬

社会に「人権」という概念が登場したのは、1215年にイギリスで承認された「マグナ・カルタ(大憲章)」です。そこには「王様も絶対ではないですよ」という人民からの請願が記されていました。その後、1628年にイギリス議会が国王チャールズ1世に提出した「権利の請願」や、1776年の「バージニア権利章典」などでも、人は生まれながらに権利を有するということが明示されたのです。ただ、実際の社会では常に強い立場にある者が勝ち、弱者は虐げられてきました。人類は、2000年以上もそうした歴史を歩んできたのです。そこで、世界人権宣言で明言されたのは、国家には人々の権利を実現する義務があるということ。以降、国連がしてきたことは、「各国政府にその義務をいかに課すか」であったと言えます。

白藤 大仁
白藤

古くから「権利」というものはあったけれど、その裏側にある「義務」という概念が出てきたわけですね。

田瀬 和夫
田瀬

ただし、そんなことは欧州が決めたことだと言う国や、個人の権利よりも国家という集団の権利が上回るという考えを持つ国、大切であることはわかるが実行するお金がないという国もありました。1980年代に至るまでは、国家が果たすべき義務が実現されない状況が続きます。そして、法の隙に乗じて、不正を行ってきたのがグローバル企業です。例えば、途上国の法律が未熟であるのをいいことに、パキスタンやインド、バングラデシュなどでは、幼い子どもたちが労働を強いられるという状況が生まれていました。行為の主体が国家であれば、この状況が人権侵害にあたることは明らかであるにもかかわらず、企業の行為となると、それは許容され続けてきたわけです。そこで、2011年に国連が打ち出したのが「ビジネスと人権に関する指導原則」です。企業には、人権を守る責任がある。自社だけでなく、サプライチェーン全体で誰かが困っているならば、それは企業の責任とみなすというわけです。これは、国際法上の大きなパラダイムシフトであったと思いますし、ここ10年で無法な利益を縮小させるルールにもなってきています。もはや、国家主権は絶対であるという時代は終わっており、企業にとっても極めて重大な課題になっている一方、その基準がどれだけ守られているかということには、はなはだ疑問が残ります。特に日本企業は、この地殻変動に気づいてすらいない。現時点での評価は、100点満点中、30点といったところではないでしょうか。

白藤 大仁
白藤

大島さんは科学的管理法(※1)の時代から労働市場のモチベーションを研究していますが、 この人権への向き合い方の変化は、人間モデルの変遷とも関係がありそうですね。

※1:20世紀初頭にアメリカの技術者・経営学者フレデリック・テイラーが提唱した管理手法の一つ

大島 崇
大島

「人が組織を成立させる時に、それほど致命的な事態にはならない」という前提が崩れた時に、組織論はその事実への反抗として大きな発展を遂げてきました。例えば、社会心理学者のクルト・レヴィンは、ナチ政権によるホロコーストから逃れ、アメリカに渡って新たな知見を世に送り出しています。では、日本の場合はどうでしょうか。国家によって戦争に行かされ、苦しい目にあっているにもかかわらず、「集団管理」からなかなか抜け出せずにいました。高度経済成長期から続いていた年功序列・集団雇用・労働組合というのは、その代表的な例ですね。また例えば、会社組織の中の「00年入社組」や、プロ野球における「松坂世代」といったように、年代・世代でまとめるケースも多い。2000年代に入って、一人ひとりのエンゲージメントを捉えなければいけないという風潮も出てきましたが、まだまだ集団管理の概念は強い。それが、田瀬さんが30点と評されるように、日本の人権や個々人への対応がグローバル水準に満たない要因なのでしょうね。

「期待」という言葉を過小評価してはいけない。

「期待」という言葉を過小評価してはいけない。
白藤 大仁
白藤

日本は世界の潮流に追いつけていない。その事実を痛感しました。ビジネスと人権をつなげて考えることは、非常に重要になりますね。

田瀬 和夫
田瀬

前述でのホロコーストの話は、今日の人権を考えるうえで発端となる事実であったと言うことができます。SDGsの前文には「in larger freedom(一層大きな自由)」というキーワードが記されていますが、これは1941年にルーズベルト大統領による演説で語られた「4つの自由」から来ている言葉なのです。その中の「Freedom from fear(恐怖からの自由)」は、ドイツのホロコーストに対して発したものだといわれています。よく「人権ってSDGsの17の目標のどれに当てはまりますか?」なんて言う人がいるのですが、人権はすべての根本原理。すべてのゴールにつながる、文明の在り方そのものです。人材開発の世界におけるゴールと国連が目指す未来が一致しているというのは、興味深い事実ですね。

白藤 大仁
白藤

つまりは、すべての企業価値の根底に人権があり、人的資本経営につながるということですよね。ただ、社会の理解がどうかというと、いまだ乖離があるように感じます。

大島 崇
大島

「ピンとこない」というのが正直なところでしょう。実際に、世界の人権にまつわる法律にどのようなものがあるかと考えた時に、「現代奴隷法」といわれても現実味を感じることができない。世界でどういうことが起きているのか、意識できないんですよね。一方で、悪意なく、人権を侵している場面もあります。日本企業におけるミクロなマネジメントの世界を見てみると、「つべこべ言わずにやれ」という考え方が蔓延しています。その原因は「同じ船に乗っているのなら、自分と相手は価値観が同じだ」「それが相手のためになる」と思い込んでいるから。ところが、若手社員からすると「そういう考え方についていけない」と思っている。利益を創出するビジネスの世界で人は別人格を持つものですが、こうしたハラスメントで人権を侵害しているケースは非常に多いですよね。

田瀬 和夫
田瀬

大島さんの話にあったイギリスの「現代奴隷法」ですが、これは、わざと「奴隷」というおどろおどろしい名前をつけることで、人権侵害は表立って見えてはいないけれど実際に起きていますよ、と伝えてくれているのです。外国人労働者などを例に挙げても、その上流をたどれば、悪意のある人身売買が行われていることもあります。そうした恐れもあるのに、向き合うことを避けて自分とは関係のないことだと思っている。これは大きな問題ですよね。そして、悪意のないケースにおいても、「相手のため」と考えているのに、それが人の自由を奪っていることもあるわけですから、認識を変える必要があります。国連の「ビジネスと人権に関する行動計画」では、「人権デュー・ディリジェンスのプロセスを導入することを期待する」とありますが、実際は期待では足りません。この「期待」は地球市民全体からの期待であり、応えられなければアウトです。この認識が甘い企業は、いずれ市場から排除されてしまいます。「期待」という言葉を過小評価してはいけないのです。

可視化は、利益だ。

可視化は、利益だ。
白藤 大仁
白藤

田瀬さんは、著書『SDGs思考』の中で、「レバレッジポイントをつくることが必要」だと述べられています。私はIRのビジネスを担っていますが、人権への課題についてはIRのメッセージがレバレッジポイントになると確信しています。今や欧州ではハードロー(※2)が多く発出され、GRIスタンダードにおいてもTCFDと人権デュー・ディリジェンスの優先順位が非常に高くなってきており、開示は必須の状況です。世界が良い方向に動こうとしている中で、どのようなレバレッジポイントをつくっていけばよいとお考えでしょうか。

※2:国家・自治体・企業・個人に対して強制力を持つ規則

田瀬 和夫
田瀬

TCFDと人権デュー・ディリジェンスは、実は構造がまったく同じなのです。カーボンニュートラルを実現するために、自分たちが燃やしているものだけでなく、サプライチェーン全体で燃えているものを特定し、可視化して、削減していく。自分たちが苦しめている人はいないか、また、サプライチェーン全体で苦しめられている人はいないかを把握して、改善していく。今後、ここに生物多様性も加わっていくことになります。「What gets measured gets done(成果が測れるものは、必ず成し遂げることができる)」という言葉がありますが、可視化することは重要なレバレッジポイントとなります。要するに、毎日、体重計に乗りなさい。そして、それをインスタグラムに載せなさい、と。それが一番の痩せる方法になるはずです。それと、もう一つは「女性の活躍」ですね。これは日本で最も足りていない部分です。経験に基づく個人的な意見ということで聞いてほしいのですが、日本の男性は変化に弱く、同質の中でしか生きられない傾向が海外と比較して強いように感じます。その意味では、女性の活躍の促進は一番のレバレッジポイントになるかもしれないと考えています。

大島 崇
大島

測れるものは、成される。本当にそうですね。私自身、想像できないものは実現できないと考えています。自分たちのせいで誰かが苦しんでいるかもしれないと思っても、それをイメージできなければ、組織も個人もうまくはいきません。だからこそ、イメージできるようにすることは大事だと思っています。海面上昇しているという事実だけでなく、その影響を受けている子どもが「どうなるんだろう」と不安げに海を見ている映像を見れば、それは自分の世界の出来事になるはず。そうした世界を見せていくことが、協働システムとしての組織を変えることにもつながるのだと思います。その役割を果たすのが「テクノロジー」ですね。

白藤 大仁
白藤

新型コロナウイルス感染症というインパクトによって、物理的距離の制約が破壊されました。見えないモノや意識できない世界を身近に感じることは、十分に可能ですね。

田瀬 和夫
田瀬

『海底二万里』で有名なフランスの作家ジュール・ベルヌも「人が想像できるものは実現できる」と語っていました。私は外務省勤務時代に「日本をトレーサビリティの分野でトップの国にしましょう」という提案をしたことがあります。例えば、商品にQRコードをつけて、スマホをかざすとその商品をつくっている工場の映像が出たり、原材料の製造現場が見られたり……。今の技術なら、それ以上の取り組みができるはずですよね。サプライチェーンを可視化すれば、課題が明確にわかります。それは効率化につながり、生産性を向上させます。そして、それは競争力となり、利益につながるのです。人権の側面からの必要性はもちろん、可視化=利益なのです。誰にでもわかる計算式ですよね。

ゼロサムからプラスサムへ。

ゼロサムからプラスサムへ。
白藤 大仁
白藤

私たちは、事業をどうする、売上をどうするといったことに目を奪われがちですが、大切な気づきを得られました。事業の透明性は利益につながる。次世代に誇れる社会をつくるためにも、多くのお客さまにそれを発信していかなければと感じました。

田瀬 和夫
田瀬

人を大切にしないとロクなことが起きない。最終的には戦争にまで発展することもある。外務省や国連での経験でそのことを痛感しています。ビジネスにおいても、中心は「人」です。人を大切にして、まっとうな商売をしましょうということです。そして、その想いを自らのビジネスに関わる人にも広げていく。たとえ利益を上げていても、自分たちのせいで困っている人や苦しんでいる人がいると嫌じゃないですか。人権という言葉にピンとこない。そして、それを放っておくととんでもないリスクが生じ、それは自らに返ってくる。会社がなくなってしまうこともあるかもしれません。サプライチェーンも含めて、人を大切にする会社は社会的善を為しながら利益と成長の両方を手に入れます。大企業も中小企業も関係ありません。少しずつ、できることから始めていただきたいですね。

大島 崇
大島

先ほど、日本の男性が変化に弱い傾向があるという話がありました。ずっと同じ環境で仕事をしていると、感覚が麻痺しますからね。この機会に自分に言い聞かせたいと思っています。「つべこべ言わずにやれ」でも、まっとうな商売であれば救われるのでしょうけれど……。いずれにしても、「いい会社」の定義は大きく変わることになりますね。

白藤 大仁
白藤

自分だけよければ、という価値観は通用しなくなります。これからは、自己成長をいかに先の世界につなげていくかを考える必要があります。

田瀬 和夫
田瀬

これまでのビジネスは「ゼロサム」で戦ってきました。しかし、それではいつか成長は止まってしまいます。それが資本主義の限界だといわれていますよね。これからは「プラスサム」の考え方で進んでいかなければなりません。プラスサムの資本主義の世界では、自分自身が、周囲の人が、地球がハッピーになれることが大前提です。今、私たちは新たな世界への入り口に立っています。注意しながら、しかし楽観的に、プラスサム資本主義の世界に向かって、共に歩んでいきたいものですね。

なぜ、今、SDGsなのか?|SDGパートナーズ × THE MEANING OF WORK

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