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日本型組織×逆輸入人材 多様性の本質に迫る ヤマハ発動機のDNAとグローバル人事改革|意味のあふれる社会を実現する|Link and Motivation Inc.
日本型組織×逆輸入人材 多様性の本質に迫る

日本型組織×逆輸入人材
多様性の本質に迫る
ヤマハ発動機のDNAとグローバル人事改革

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  • ラブグローブ・ダリル

    ラブグローブ・ダリルDARRYL LOVEGROVE
    ヤマハ発動機株式会社 人事総務本部
    グローバル人事部長

    2000年に、出身の南アフリカにあるヤマハの国内独立代理店にファイナンシャル・ディレクターとして入社。ニュージーランドに移住後、ヤマハ発動機ニュージーランド支社長を経て、ヤマハモーターオーストラリアのグループCFO、取締役、カンパニー・セクレタリーに就任。現在は、日本に駐在し、ヤマハ発動機(株)のグローバル人事部長を務めている。

  • クレイマージョーンズ・ジェイ

    クレイマージョーンズ・ジェイJAY KRAEMER-JONES
    株式会社リンクグローバルソリューション
    コンサルタント

    ドイツ生まれ。イギリスのカーディフ大学でビジネスおよび日本学を専攻し、立命館大学に1年間交換留学、2014年に学士号(BSc)を取得。卒業後、会計、税務、コンサルティングなどのプロフェッショナル・サービス事業を展開するアーンスト・アンド・ヤングLLPに入社し、ロンドン本部で人材の国際間異動に関わるコンプライアンスとコンサルティングサービスを提供。2016年に日本政府のJETプログラムに参加、公務員として山形県で地域における国際化に寄与。2018年に(株)リンクグローバルソリューションに異文化コミュニケーションインストラクターとコンサルタントとして入社。日本語能力試験およびビジネス日本語テストともに1級合格。英語とドイツ語を母国語とする。

今、日本企業はかつてない変革を求められている。グローバルにビジネスを展開し、多様なニーズに応えていくこと。前例や慣習にとらわれることなく、イノベーションを創出していくこと。そのためには、より多様で、より優秀な人材が活躍できる環境の整備が不可欠となる。グローバル人事部長として、ヤマハ発動機の改革を推進するラブグローブ・ダリル氏に、同社の取り組みや、グローバルから見た日本、ヤマハ発動機のDNAが持つポテンシャルについて伺った。


多様性に満ちた国が与えてくれた学び。

多様性に満ちた国が与えてくれた学び。
ジェイ
ジェイ

ダリルさんは、ヤマハ発動機でどのような道を歩んできたのでしょうか。

ダリル
ダリル

私の「YAMAHA」ブランドとの旅は、2000年に南アフリカで始まりました。当時、私は30歳。ヤマハの国内独立代理店のファイナンシャル・ディレクターの職を任されました。その後、10年間にわたり、担当範囲はマーケティングおよび販売を除くすべての業務に広がりました。波瀾万丈の歴史を持つ南アフリカは、さまざまな民族と11もの公用語が存在する、要は多様性に満ちた国です。だからこそ、多様性がビジネスにさまざまな影響を与えることをかなり早い段階から気づき、そうした多様なメンバーをマネジメントしていたことから、多数の異なる考え方や独自の観点を統合すること、別の見方に信を置くことの重要性について、折に触れて口にしていました。これは、多様性がもたらす真の価値を引き出すうえで不可欠でしたし、個人個人で異なる見解があるにもかかわらず、コンセンサスと共通の目標に集中する環境をつくる助けにもなりました。

ジェイ
ジェイ

南アフリカという国の環境が大きな学びを与えてくれていたということですね。

ダリル
ダリル

そうですね。ダイナミックな環境がさまざまな商業的・社会的・政治的影響を生み出し、それによって南アフリカは大きく変化しているところでした。ただ、南アフリカのヤマハの代理店で11年間働いた後、私は個人的な理由から、ニュージーランドに移住することを決めたんです。けれど、新しい環境に慣れ、「これから何をしようか」と考えた時に、「YAMAHA」のことばかりが頭に浮かんできました。私のキャリアにおいて、「YAMAHA」ブランドへの情熱や誇りは、何よりも重要なものだということに気づかされたんです。私はヤマハ発動機に直接アプローチし、その後、地域を統括しているヤマハモーターオーストラリアの取締役と面談したところ、ニュージーランド支社長として仕事をすることが決まりました。

ジェイ
ジェイ

それほどまでに「YAMAHA」ブランドに魅了されていたのですね。ニュージーランドでの仕事はどのようなものだったのでしょうか。

ダリル
ダリル

商売をするためのリーダーとしての能力が要求される仕事でした。さらに、印象に残っているのは、文化的な行き詰まりがきっかけで、オーストラリアでの事業とニュージーランドの組織との関係に困難が生じたことですね。同じような歴史的背景を持ち、同じ言語を使っていても、両者の間には文化的な違いが大きかったです。ここでも、南アフリカでの経験が一層活かされることになります。多様な考え方をめぐってコンセンサスを構築し、最終的に組織のKPIや関係者の期待を超える利益を出すことができました。やりがいのある時期でしたよ。

ジェイ
ジェイ

その後、ダリルさんはヤマハモーターオーストラリアに移り、グループCFOと取締役を歴任され、現在は日本でグローバル人事部の統括を任されています。人事部に携わるのは初めてだそうですね。日本企業において、日本人が海外に出向するのではなく、海外拠点から日本に出向してくるのは、非常にめずらしいことですよね。

ダリル
ダリル

オーストラリア時代には、自身の権限の中に総務と人事が含まれていました。私は人事の専門家ではありませんが、最初から、人事というのは常に私の担当職務であったと言えるでしょう。私が担当してきた職は、どれをとっても人事としての管理・監督の役割が含まれています。人事がビジネスに与える影響や、ビジネスが個人に与える影響には、少なからず関心と知見を持っていると自負しています。私は現在、ヤマハ発動機のグローバル人事部を統括しています。これは主に戦略的な役割で、グローバル人事戦略と組織の長期的なビジョンとの整合性を重視しています。真に世界的な広がりと影響力を持つ分野での仕事に、大きなやりがいと責任を感じています。

ジェイ
ジェイ

南アフリカに比べると、日本という国は画一的で均質な文化に見えるのではありませんか? 極端な言い方をすれば、多様性の対極にあるような……。

ダリル
ダリル

ヤマハ発動機に20年間以上在籍しているわけですから、当然、何度も日本を訪れたことはあります。この間に、仕事上においても、プライベートにおいても、日本のメンバーとも良好な関係を築きました。それでも、日本で仕事をする中で、かなりのカルチャーショックがあったことに変わりはありません。私が日本に移り住んだ初日に、興味深いことがありました。浜松(静岡県)で働く別の外国籍社員に「日本について知っておくべき最も重要なことは何ですか?」と尋ねたところ、「『なぜ?』と尋ねることをやめることです。背後にある理由を理解することができないから、さらにわからなくなります」と言われたのです。

ジェイ
ジェイ

それくらい、グローバルで仕事をする環境と乖離があるということなのでしょうね。ダリルさんご自身は、どのようなスタンスで日本に向き合ってきたのですか?

ダリル
ダリル

私は、彼のそのアドバイスには従わないことにしました。その代わりに、日本の文化・歴史・仕事の仕方・慣習に“浸る”ことで、この国をより理解しようとしました。言語や食べ物など、目に見える文化の違いは簡単に調整できたり、理解できたりします。しかし、水面下に一歩踏み込むと、日本独特の言葉以外の表情や行間を読むなどハイコンテクストな性質は、目に見えない深層部分と表面的な理解との隔たりを生みます。これは、今まで住んできたどの国よりも大きいものです。ですから、基本的なビジネス習慣や意思決定の進め方などについて、常に考え続けなければなりません。日本のビジネス習慣は、世界から必ずしも正しく理解されているとは言えないと思っています。同僚からのアドバイスに反して、「なぜ」と聞くことで私の理解は深まりますし、同僚たちに日本と海外の働き方の違いを教えることもできます。

日本でのDE&Iはチャレンジングだ。

日本でのDE&Iはチャレンジングだ。
ダリル
ダリル

今、私たちのビジネスで話題になっていることの一つがDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)です。その点から言うと、日本は間違いなく、最もチャレンジングな国であると言えるでしょう。なぜなら、その推進はビジネス文化を改革するだけでなく、社会文化の改革にもつながってくるからです。その象徴的な事例に、日本の「承認文化」と呼ばれるものがあります。承認の輪の外に誰も出たがらない。さらに、無意識のうちに同調圧力にもつながっているのですが、それは必ずしも認識されていません。そのような環境でイノベーションを起こすことは非常に難しく、日本独自の文化は、海外のメンバーには理解しがたいものなのです。

ジェイ
ジェイ

確かに、日本では、意思決定においてコンセンサスを重要視しますね。

ダリル
ダリル

日本がプロセスや方針が明確な焦点であるのに対して、欧米では一般的に結果が重要な指標となります。かつての日本の成功は、製造の品質と、継続的な改善のプロセスによって実現したものです。このコンセプトは世界的に広まり、例を挙げると、トヨタ(トヨタ自動車(株))がご承知のとおりです。こうしたプロセスは日本の一般的なビジネスにも色濃く反映されていますが、今日のビジネスにおいては、マイナスに働いてしまうケースが多い。海外では単純な判断となるものが、日本では必ずしも単純な判断とはならなくなってしまうんです。日本の慣行を理解できていない、誤解しているということは、真のグローバル環境を構築するうえで大きな課題となります。だからこそ、組織として成功を収めるためには、文化の違いを深く理解できるような共通基盤をつくることが重要になってくるのだと思います。

ジェイ
ジェイ

相手を理解し、自分を理解する。そのための共通基盤をつくる。ダリルさんが考える、多様性のある組織の実現と革新への第一歩ですね。

ダリル
ダリル

日本文化は簡単に読み取れるようなものではないのです。人口の98.5%が日本人である日本の均質な文化的環境下では、多様性がほとんど作用しませんし、多様な意見をどう受け入れるかという理解にも限界があります。だから、多様な意見はほとんどが敬遠されてしまう。IMD(国際経営開発研究所)による「世界競争力ランキング」での日本の順位は、海外のアイデアへの受容の指標において、63カ国中61位です。対策として、ヤマハ発動機のグローバル人事部では、代表取締役とこういったコンセプトを浸透させることに取り組み、真の変化をもたらすトップダウンの原理を取り入れることに力を注いできました。さらに、そのコンセプトは海外拠点の幹部や人事部の地域代表者と共有されています。
日本での時間は、私にとって学びと共有の“すばらしい旅”であり、ゴールにたどり着くまでの道のりにはさまざまな出来事があります。一つ、事例をご紹介しましょう。私が担当する部門では、会議をする時に「日本式会議」か「欧米式会議」かを明言しています。いくつかの決定を行う必要があるのであれば、「今日は欧米式会議」だと宣言するのです。ユーモラスに聞こえるかもしれませんが、実際には、前もって期待値を設定し、定義しておくことで、参加者にとって結果がどうなるかを明確に示すことができますよね。多様性を知らない文化圏では、細部にまで気を配ることがとても大事になるんです。

強さと弱さはコインの表と裏。

強さと弱さはコインの表と裏。
ジェイ
ジェイ

製造の品質を実現するうえで、品質を確かめるプロセスは重要なものです。しかし、今の世界では、もう少し柔軟性を持たせて、決められた道から少し外れたほうがより良い結果につながるかもしれませんね。一方で、世界が日本から学ぶべき強みもあるのではないでしょうか。

ダリル
ダリル

「強さと弱さは表裏一体」といわれますが、日本ほどそれが当てはまる国はないでしょう。日本企業を強くするもの、真の強さのバックボーンを与えるものは何かと考えると、それは確実にプロセスであり、組織のDNAを明確に理解し、行動に結びつけていく能力だと言えます。しかし、それは強さであるのと同時に、機敏性や成長、特にグローバルな意味での能力を制限してしまう要因にもなりうる。多様性を取り入れることにより成長を遂げたヤマハ発動機の事例は、まさに完璧な表裏融合であったと自負しています。私たちは、日本中心のローカルビジネスから、売上の90%を海外で生み出す組織へと変貌を遂げています。多くの新しい取り組みが海外からもたらされ、発展し、サービス産業の分野にも派生しています。

ジェイ
ジェイ

多様な視点やアイデアがビジネスを発展させているのですね。

ダリル
ダリル

ヤマハ発動機は、長期ビジョンで「ART for Human Possibilities」というスローガンを掲げて、ビジネスの変革に取り組んでいます。新しい領域、新しい時代、新しい顧客を獲得するためには、グローバルな人材と連携し、必要なリーダーシップの能力をどのように開発していくかが重要なポイントです。これまでの製品は、日本の組織で進化したものであり、エンジニアリングや製品開発の領域についても日本が主要拠点です。既存のビジネスから新たなビジネスへの移行を考えるなら、より多様性に富んだ組織へと変革する必要があります。そして、私たちが長期ビジョンを達成するには、ビジネスのやり方に対するアプローチを効果的に見直すことも必要です。真のグローバル組織とは、本社だけでなく、さまざまな中枢機能を持っているもの。これまでの、日本がすべての中心という環境を大きく変えていかなければなりません。競争的な環境に組織を置くことは、イノベーションと変化を促進する最大の方法であり、競争力強化にもつながります。進化するビジネス環境を活用するためには、タレントマネジメントの枠組みを構築し、グローバルで活躍できる未来のリーダーを育成することが重要だと私たちは考えています。

ジェイ
ジェイ

日本企業が起業家精神や俊敏性に欠けているとされる一方で、100年以上存続している世界の企業のうち、90%以上が日本企業であるという事実もあります。これは、本当に驚くべきことですよね。

ダリル
ダリル

この点も、ある意味、コインの表裏のようなものですね。同質性・継続性・緩やかな変化は企業成長を促進する強みにもなります。というのは、それらのおかげで、長期ビジョンや長期目標がストイックに優先される傾向にあるからです。ただ、優先して考えるべきは、これまで続いてきたことではなく、「今後100年以上、今日まで積み上げたものを存続することができるのか」です。私自身、そうであってほしいと願っていますし、私たちはタレントマネジメントの枠組みを組み込み、会社が次の100年に向けて準備できるように積極的に取り組んでいます。

「数字」を組織の共通言語に。

「数字」を組織の共通言語に。
ジェイ
ジェイ

日本滞在中に、より革新的な枠組みや機敏性を重視した組織づくりのために取り組んだことをお聞かせいただけますか? イノベーションを起こすために、多様性を取り入れることを誰もが望んでいますが、それを達成する道は一つではありません。

ダリル
ダリル

私が日本のグローバル人事部に異動した当時は、基本的な枠組みは確立されている状態でした。自社のタレントマネジメントフレームワークのロードマップをもとに、グローバル・グレーディング・システム※によりコアポジションを特定、グローバルなコア人材が誰であるかを把握し、そのうえで人材育成につなげる取り組みが行われていたのです。しかし、私はプロセス間のつながりが強化できると考えました。一つひとつの独立したプロセスをつなげることで得られる価値は、それぞれを足し算するよりもずっと大きなものとなります。私が注目したのは、マトリクスを活用することで理解を深めていく手法でした。日本は、人事的なプロセスの多くを主観に基づいて行ってきた過去があります。日本と世界の人事制度がまったく違うことを考えると、その2つを統合して、グローバルな人材と世界中の職務を結びつけることができるかどうかが重要になります。ある人事システムでは、ポジショニングステートメントや役割説明が基本となっているのに、別の人事システムでは役割説明がまったくないということがあったのです。

ジェイ
ジェイ

かなり大きな乖離がありますよね。

ダリル
ダリル

客観的に判断する能力が確実に損なわれます。そこで、私たちは「データ」という共通言語を使って、客観的に経営陣にメッセージを伝えるというアプローチを貫きました。これは、私たちに欠けていた要素の一つでした。多くのデータが蓄積されたので、次のステップは洗練化です。そこで、人事情報システム、具体的には、コア人材の客観的な管理を可能にする既存の人事ITシステムを強化することに焦点を当てています。

ジェイ
ジェイ

日本と世界の人事制度を統合することは、簡単なことではありません。

ダリル
ダリル

そうですね。私が着任したばかりの頃は、グローバル人事部と日本の人事部は明らかに関わり合っていませんでした。しかし、そうした障害を取り除き、懸命に協力し合って、それぞれの目標に関する明確かつ共通の理解が得られるようになりました。常に意識していたのは、それぞれのポリシーを刷新するのではなく、違いを認識したうえで共通の部分にフォーカスしていくこと。主観的に改革を断行しようとすると、グローバルで一貫したアプローチができなくなってしまいますから。

ジェイ
ジェイ

その結果、貴社が得られるものは計りしれないほど大きいですね。

ダリル
ダリル

マネージャー候補者がそのポジションの準備ができているかどうかを定量的に理解すれば、日本でのオペレーションを変える足がかりとなります。私たちのフレームワークは、「人」と「ポジション」、そしてその最適な組み合わせに焦点を当てています。グローバルにおけるコアポジションを明確に深く理解するために、さらに統一性を高めるグローバル・ジョブディスクリプションのような制度を導入しています。グローバルな流動性を実現するには、少なくともポジションに必要な能力に共通性を持たせる必要がありますから。

ジェイ
ジェイ

人事情報システムや制度の統合にとどまらず、さまざまな研修プログラムも充実させていますね。

ダリル
ダリル

メンターシップ、リーダーシップ、マネジメントなどの行動推進プログラム、さらには個人開発などにも注力しています。そして、ヤマハのDNAはすべてに存在するファクターであり、念頭に置いています。ヤマハ発動機独自のコンピテンシーについて調べて語り、それが私たちにどのような影響を与えるのかを学ぶ。私たちの成長を担う、重要なファクターだと考えています。これらのグローバルな学習構造や評価システムは、サクセッションプランニングにつながるものです。社員一人ひとりのリーダー的役割を推進し、力を与え、教育する。そうすることで、現在のポジションだけでなく、グローバルな意味での潜在的役割に備えることができるようになるわけです。

ジェイ
ジェイ

だから、一人ひとりの人材の未来を見据えて、グローバル化を推進しているのですね。

ダリル
ダリル

私たちが考えるグローバル化とは、必ずしも個人をある国から別の国へ異動させることを意味するものではありません。ヤマハ発動機では、コアポジションのおよそ50%を日本人が担当し、そのうちの何名かは海外で活躍しています。ただ、この割合がより適切なものにならなければ、多様性のある組織にはならないわけです。そこで、私が導入した変革は、実際にその役割を一つひとつ見て、ローカライゼーションへのロードマップ、特定した後継者開発計画の包括性、状態または準備態勢を定義することでした。私が常に意識しているのは、今ある課題を具体的な指標に反映していくこと。そして、それが具体的になれば、実行可能になります。

ジェイ
ジェイ

新しいシステムの導入、イコール目的達成とはならないもの。真のグローバル組織を実現するためには、さまざまなチャレンジが必要であることがわかります。

ダリル
ダリル

タレントマネジメントフレームワークは組織を成功に導き、コンテキストを提供しますが、適切に使用しなければ目標を達成できませんし、持続可能な変化も起こりません。タレントマネジメントでの可視化のためにグローバル人事情報システムを確立・展開することは重要ですが、各国には現地の規制で独自の要件があり、それが単一の運用システムの標準化を困難にすることを認識しておく必要があります。単一のデータリポジトリを、運用している人事システム外に持つことで、記録上の人材と役割に対するポジション要件を非常に細かく定量的に相互参照できます。このような具体的な活動はグローバルなタレントマネジメントを推し進め、流動的手法を促進するうえで価値があります。プロセス主導型から結果主導型へ(またはその逆)の範囲全体での移行プロセスを通じて両者に共通する一つの言語が「データ」です。すべてはデータと、その分析から得られる価値に関連づけられます。

※グローバル・グレーディング・システム(GGS):ポジション評価システム

相違点を調整する。

相違点を調整する。
ジェイ
ジェイ

このような変革を行うのは必ずしも容易ではなかったと思います。日本的ではない考え方を理解し、実行していくうえで、どのような反応があったのでしょうか。場合によっては、「このやり方ではダメだ」という反発もあったのでは?

ダリル
ダリル

「このやり方が悪い」と言われることはないんですよ。だから、難しい。違和感があっても、黙ってしまうことが多いんです。この変化の段階を私は「相違点の調整」と呼んでいます。そして、これはコミュニケーションの美しさにつながるものです。これこそが重要なポイントなのです。そうした状況では、教育やコミュニケーションが非常に重要な意味を持っていました。そもそも、私が現在のポジションに就いた時、日本のコアポジションを持つ人たちは、日本から現地の人事を管理していました。しかし、グローバル人事として、彼らの育成に責任を持つことになったのです。かつては、まだ日本の人事制度が改革されていなかったこともあり、変革をもたらす必要性は実践的な理解よりも机上の空論で終わっていたのですが、「本当に実現したいことは何か」を議論し、突き詰めていく作業を重ねる中で、このような変化が生まれたのです。

ジェイ
ジェイ

「相違点の調整」ですか。確かに、日本の人事慣行には世界と大きなギャップがあります。

ダリル
ダリル

日本では55歳になるとラインマネジメントから外されるといったように、役職定年が一般的に実践されています。しかし、私からすれば、55歳というのは、その人が持っている知識レベルが最も高くなる時期です。年齢に関する制約が日本では人事慣行として一般的で許容されていますが、アメリカで同じようなことを行ったら、どうなるでしょうか。それほどにギャップがあるからこそ、コミュニケーションでそれを調整していくことが大事になる。そして、そのアプローチもトップダウンのアプローチに限定したものではありません。現在、グローバル人事部には、グローバル・ワーキング・フォースと呼ばれるメンバーが世界の主要な11の地域を任されています。真の理解を得るためには、1つのプロセスでは不十分ですからね。この仕組みを使って、所期の取り組みや方針を討論し、磨きをかけているのです。

ジェイ
ジェイ

さまざまな違いがある中で、メンバーたちを1つにまとめる共通点がヤマハ発動機のDNAであるように思います。

ダリル
ダリル

ヤマハ発動機のDNAを視覚的に共有し、共通認識を持つことは、定量的な指標を理解するのに役立ちます。そのため、私たちはDNAをオープンに共有しています。私たちには情熱があり、それがヤマハ発動機の在り方の根幹を成すものであることは言うまでもありません。しかし、日本で共有されている情熱は、子会社で見られる情熱とは明らかに異なったものです。日本では、高いポテンシャルを持った多くの新卒学生を一斉に採用しています。しかし、当社のブランドや製品に対する情熱や想いは、2番目の採用判断材料になっています。その一方で、海外子会社の社員は高確率で、個人的な経験や情熱を通じて当社のブランドとある程度のつながりを持っています。製品の開発の多くは日本で行っているにもかかわらず、製品にかける情熱は海外子会社のほうが一般的に大きいという、興味深い対比があるのです。海外の面接で志望者が語る情熱は、お客さまの視点であり、願望です。お客さまは私たちのすべての活動の中心であり、私たちの行動、市場へのアプローチ、新しい市場や新製品の方向性を決定する存在ですよね? これは多くの日本企業に共通している課題であり、見直すことで文化的変化をもたらすことができる分野です。

ジェイ
ジェイ

確かにそうですね。

ダリル
ダリル

今、日本の組織が直面している最大の課題は、迅速に変化できる能力の欠如と世界市場の急速な変化です。大量消費主義が発展しつつあり、人々が求める価値の中心はもはや製品(モノ)ではありません。若い世代を注意深く観察すると、体験やサービス(コト)が重要であることに気づかされます。週末にツーリングに出かけるために、バイクを所有する必要や願望はもうありません。従量課金制の製品が使えれば、ニーズが満たされるのです。私たちはそうした光景をヨーロッパメーカーや製品の販売で目の当たりにしてきました。彼らは現代に即したアプローチでお客さまを惹きつけているのです。そして、そのような実践を後押しするのが、組織・事業の再編成とマーケットプレイスであることは言うまでもありません。私たちは、そのような市場において、ブランドの関連性を確保するために、より一層努力しなければならないのです。

なぜ、ヤマハ発動機に情熱を注ぐのか。

なぜ、ヤマハ発動機に情熱を注ぐのか。
ジェイ
ジェイ

日本では、製品への情熱があまり見られないという話がありましたが、欧米に比べれば、多くの若者がかなりの割合で長く勤めることを想定して入社していると言えます。だから、長く付き合いたいと思う会社を選ぶのであれば、そこには必ず情熱があるはずなんです。私自身、特に印象に残っているのが、ヤマハ発動機が最初の250ccバイクを開発したエピソードです。それまでヤマハが創り出してきたモーターサイクルは、ドイツを中心とした欧米の既存のモーターサイクルをベースにしたものだった。しかし、250ccの製品を開発するとなった時に、日本の若い技術者たちが「何かユニークなことをやってみよう」「自分たちでやってみよう。自分たちのデザイン、自分たちのメカニックでやっていこう」と挑戦し、独自の価値を創造した。ヤマハ発動機のDNAについて考える時、私はこのストーリーを思い浮かべます。原点にある想いに回帰することは、「自分たちならできる」という意気込みを取り戻すために必要なことなのかもしれません。

ダリル
ダリル

ヤマハ発動機を革新し、大胆不敵な方法で前進させたいという一途な情熱と願望は、私にとって常に大きな刺激となっています。ただ、「なぜ、ヤマハ発動機にこれほどの情熱を注げるのか」と問われると、それは「革新」というDNAの一つに共感しているからだと思います。当社のブランドスローガンである「Revs your Heart」は、制定してからまだ10年ほどしか経っていない新しいもの。私たちが立ち返る本当に大切なものは、「発(Innovation)」「悦(Excitement)」「信(Confidence)」「魅(Emotion)」「結(Tie)」という5つの柱であり、これがヤマハ発動機の本質だと私は考えています。そして、私たちは、それぞれに自分が好きな柱と、その理由を持っている。これらはブランドとして、そして、もっと重要な個人としての私たちをつなぐポイントになっています。

ジェイ
ジェイ

貴社ではブランドについて語ることに多くの時間を費やしていますね。

ダリル
ダリル

ブランドは個人と深いつながりを持っています。ここで言う個人とは、イノベーターであり、サポートサービスであり、ディーラーであり、最も大切なお客さまでもあります。もし、お客さまが「感動」を覚えなければ、あるいは「発」や「魅」を体験できなければ、そして「悦」や「信」を得られなければ、ヤマハ発動機のブランドは、他ブランドと差がなくなってしまうでしょう。お客さまとの深い「結」が私たちと他ブランドとの違いであり、存在意義であり、情熱を注いでいることなんです。ヤマハ発動機のDNAとその重要性を見失わないことが、グローバル人事部の私たちに求められていることだと私は確信しています。大切なのは、一人ひとりの人材がそれを実践し、自分自身のストーリーをつくっていくこと。私たちにとって、未来のリーダーたちにDNAを明確に理解させることは、非常に重要なことだと思っています。

ジェイ
ジェイ

私自身、ヤマハ発動機のDNAを浸透させるプログラムのいくつかに携わってきましたが、それはとてもユニークなものでした。そして、貴社のニュース記事を見るたびに、自分のことのようにうれしい気持ちになります。ほかにはない情熱があるからこそ、私はヤマハ発動機のファンになっていくのです。そこから燃え上がる炎はきっと美しいものになるのだと思います。

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