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人間とは、正義とは、理想の社会とは何か。

Vol.2|すべての「いのち」に「共感」を。|鼎談 共感資本主義×THE MEANING OF WORK

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  • 堂目 卓生

    堂目 卓生TAKUO DOUME
    大阪大学総長補佐
    社会ソリューションイニシアティブ長 大学院経済学研究科教授

    慶應義塾大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修士課程修了、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。立命館大学経済学部助教授を経て、大阪大学大学院経済学研究科教授に。専門は経済思想史。未来社会を構想するシンクタンクとして、2018年に「社会ソリューションイニシアティブ(SSI)」を立ち上げる。2019年、紫綬褒章受章。著書に『アダム・スミス』(中公新書)

  • 大島 崇

    大島 崇TAKASHI OSHIMA
    株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションエンジニアリング研究所 所長

    京都大学大学院修了後、大手ITシステムインテグレーターを経て、2005年、株式会社リンクアンドモチベーションに入社。中小ベンチャー企業から従業員数1万名超の大手企業まで幅広いクライアントに対して、組織変革や人材開発を担当。現場のコンサルタントを務めながら、商品開発・R&D部門責任者を歴任。2015年、モチベーションエンジニアリング研究所所長に就任。

  • 白藤 大仁

    白藤 大仁DAIJI SHIRAFUJI
    株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ 代表取締役社長

    2006年リンクアンドモチベーション入社、同社の採用支援部門の事業部長を務め、業務効率向上コンサルティング等に従事。2015年には新規グループ会社を設立。企画室室長としてマーケティングやセールスプロセス構築のコンサルティングに従事した経験を持つ。多くの経営者および経営ボードとの実務を経て、2019年に株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズの代表取締役社長に就任。「オンリーワンのIRを。」をメインメッセージとし、企業のオンリーワン性を導き出すことで、IR活動や経営活動を支援する事業を行う。

アダム・スミスが『道徳感情論』『国富論』で示した「共感資本主義」。そこには、現代を生きる私たちへのヒントが満ちあふれている。共感がもたらす可能性と未来について、堂目卓生教授とともに議論を重ねていく。


感情を無視した変革は成功しない。

感情を無視した変革は成功しない。
白藤 大仁
白藤

前回の対話の最後で「体系の人」というワードが出てきました。アダム・スミスは、植民地貿易においても、「体系の人」が個人の感情を無視して変革した結果、喜べない状況を生んだと論じています。

堂目 卓生
堂目

アダム・スミスの言う「体系の人」というのは、精密な設計図によって社会をつくり替えることができると考える人のことです。具体的には、フランス革命を準備していた人たちを指します。彼らは、科学的な知見に基づいて、また人間は理性的な存在であるという前提に立って、個人が理性的になりさえすれば、設計図に描いたとおりの社会を実現できると思い込んでいました。しかしながら、人間はチェス盤のコマではありません。そうやって設計図を押しつけられたり、理解するように強制されたりすれば、逆に反発し、動かなくなってしまいますよね。

白藤 大仁
白藤

そうですね。企業経営においても、同じ課題を突きつけられているような気がします。ふだん、経営者として理想を語ってはいても、現場では、どうしても売上に目が奪われてしまう。経営者が「体系の人」になってしまってはいけません。

堂目 卓生
堂目

アダム・スミスは、科学・知識への過信を戒め、諸個人の諸感情に配慮した社会の穏やかな改革を提案しました。ただ、彼が保守的であったかというと、そうではありません。アメリカ独立戦争が起こった時には、戦争を続けるよりも自発的に分離すべきであるという、当時としては過激な提案をしています。英国がその提案どおりにすることはありませんでしたが、結果的にアダム・スミスが示したとおりになります。変革が拙速なものに終わってしまうのか、それとも時宜を得るのかは、時代の流れをつかんでいるかどうかにかかっていると言えます。そして、時代の流れをつかむには、過去の歴史をよく知っていることが必要です。

大島 崇
大島

私はITの世界からキャリアをスタートしたこともあって、どちらかといえば「体系の人」寄りのタイプ。経済合理思想が強めなんです。アメリカ独立戦争のエピソードを聞いて、これまでにいくつか喜べない状況を生んできたのは、人間性に関する洞察が甘かったからなのだと気づきました。もしくは、考慮すべき人数が少なすぎた。その決断を周囲の人やその先にいる人がどう受け止めるのか。その結果、何が起こるのか。それを洞察する力がとても重要だと感じました。歴史を振り返ってみても、「拙速な変革」を志したクーデターは、自分のシンパ(支持者)以外を皆殺しにしてしまうケースがほとんどです。何かを変革する出発点で、どれだけの範囲の人間性をどこまで深く洞察できるかが、非常に重要なのだろうと思います。

堂目 卓生
堂目

組織についても同様ですね。単に設計図を押しつけるのではなく、日常的には組織を支える人々の諸感情に配慮しながら、「公平な観察者」の視点に立って互いに尊重し、助け合うことでしょうね。一方、組織の運営に責任を持つ者は、過去を振り返りながら時代の流れに注意する必要があります。そして、どうしてもなすべきこと、変革すべきことが明らかになれば、それを実行しなくてはなりません。それが構成員に受け入れられるか否かは、彼ら・彼女らの感情、尊厳をどれくらい大切にしてきたかによると言えるでしょう。理想を断行することと、日常的に一人ひとりの感情や共感を大事にすることは、実は矛盾した行動ではないのですよ。

働くことは、生きること。

働くことは、生きること。
白藤 大仁
白藤

私自身、経営者として、「言い訳でなく実現の方法を考えてほしい」「一人ひとりに敬意を込めたコミュニケーションをとってほしい」「自社の発展だけでなく、業界全体を発展させる健全な領域侵犯をしてほしい」と社員にお願いしています。アダム・スミスの『国富論』でも、国を「Nations」と表現し、特定の国民ではなく、諸国民の豊かさを探究することを示していますよね。「富」は市場によってあらゆる人間をつなぐものですが、富を生み出すには、やはり一人ひとりの今を生きる本気度や熱量、そして国や社会、組織とつながるエンゲージメントが必要だと思います。

堂目 卓生
堂目

「富」は生きる手段です。アダム・スミスもそのように富を捉えています。富が社会の隅々まで届くことによって、みんなが安心して生きていける。それは、富がなくて生きていけるかを心配しなくてよいというだけではなく、「富がなくて生きていけない人がいるのではないか」「そうした人の分を奪っているのではないか」という心配がないことを意味しています。「見えざる手」は、みんなが安心して、「心の平静」を保って生きていけるように働くものだと、彼は考えていました。ですから、富を生み出す行為というのは、「みんなが生きていくこと」「安心して生きていけること」に関わることだと捉えなくてはなりません。特に、経済活動がグローバルな外部性を持つ今日において、「みんな」とは人類全体を指し、人間以外の生命体もそこに含まれなくてはなりません。自分が生きていくこと、そのために富を生産し、交換し、消費すること、このことがすべての「いのち」によって支えられ、またすべての「いのち」に影響する……。つまりは、すべての「いのち」とつながっているわけです。このことをどれくらい実感できるか。それが、これからの社会や経営を考えるうえで必要不可欠であると私は考えます。その実感をもとに、すべての「いのち」に対する愛着、つまりエンゲージメントを抱き、今を生きる情熱を個人として、そして組織として生み出していかなくてはならないのです。

大島 崇
大島

堂目教授のお話を聞いて、「見えざる手」を誤解していたな、と気づかされましたね。好き勝手にしていても、誰かが調整してくれる。富を強欲に求めていても、それが結果として世の中のためになっていると理解していたのですが、実は違った。一人ひとりの活動が、想いが、世の中のためになっていく。そして、それが一人ひとりに還元される。そうした意味だったのですね。そして、エンゲージメントについても、考えさせられる部分が多かったです。企業と従業員のエンゲージメントだけでは、まだまだ狭い。企業のステークホルダーは従業員だけではなく、投資家もいれば、商品市場におけるお客様もいる。エンゲージメントスコアを通じて、あらゆる人々の「共感」を示すことができれば、「見えざる手」の効果・効能を明らかにすることができるかもしれませんね。

堂目 卓生
堂目

「働くこと」は「生きること」と分けられるものではなく、「生きること」そのもの、もしくは、その中にあると言っていいと思います。ですから、「MEANING OF WORK(働きがい)」は、「MEANING OF LIFE(生きがい)」と結びついているべきなのです。生きがいを大事にしてくれる組織だから働きがいがある、すべての「いのち」を大切にする組織だから誇りに感じる。このようにして組織に対するエンゲージメントを生み出すことが求められているのだと思います。「共感資本主義」とは、すべての「いのち」が安心して生きていけるような「いのち」と「いのち」の間の関係を成り立たせる経済の在り方を意味します。それは、アダム・スミスが『国富論』の中で示した「見えざる手」が求める、究極の在り方だと思いますよ。

白藤 大仁
白藤

ありがとうございます。変革の時代を生きる、多くの人々にとって勇気をもらえるお話をいただきました。さて、現代の多くのビジネスパーソンは、イノベーションを生むことを求められています。成果を出し続けなければならない。新しい価値を創り出さなければならない。非常に大きなプレッシャーを感じているのではないかと思っています。最後に、すべての働く人にメッセージをいただけますでしょうか。

堂目 卓生
堂目

イノベーションに対する認識を変えたい。私は、そう思い続けていました。高校の歴史の授業などでは、特定の個人が1人で変革を成し遂げたみたいな教え方をされますよね。「ワットの蒸気機関の発明が産業革命をもたらした」といったように。でも、実際は違うのです。そこに至るまでには無数・無名の人たちの努力の積み重ねがあり、最後の階段を駆け抜けたのがその人だったというだけ。宗教革命でも、ルターが一人でしたのではなく、彼以前に教会の支配に対して異議を唱える無名の活動家たちがいて、彼らは厳しく処罰されても、その想いを書物などに残しました。その想いが共感を呼び、新たな人のアクションが生まれ、引き継がれる。そして、偶発的な条件も相まって、大きな改革が成し遂げられる。歴史はそうやって動いてきたわけです。たとえ、最後に階段を上る人になれなくても、その人は捨て石ではありません。一人ひとりのチャレンジが積み重なり、いつしかイノベーションへの階段が構築される。そうした、みんなで成し遂げているんだという実感が、さらなる力を与えてくれると私は信じています。

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