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SINIC理論×THE MEANING OF WORK “知の羅針盤”が導く、私たちの未来可能性|意味のあふれる社会を実現する|Link and Motivation Inc.
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“知の羅針盤”が導く、私たちの未来可能性

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  • 立石 郁雄

    立石 郁雄IKUO TATEISHI
    株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 代表取締役社長

    慶應義塾大学経済学部卒業。学生時代はラグビー部で主将を務める。大手銀行での勤務を経て、1996年、オムロン(株)に入社。インダストリアルオートメーション事業の国内外の営業、商品企画、事業企画、海外子会社経営、マーケティングなどに従事。2021年には、障がい者と健常者が共に活躍する日本初の事業会社・オムロン太陽(株)(大分県)の社長に就任。2023年1月より現職。1970年に国際未来学会で発表された未来予測理論「SINIC理論」を触媒に、企業の枠を超えて、よりよい未来社会づくりに邁進中。オムロン創業者である立石一真氏の孫。

  • 林 幸弘

    林 幸弘YUKIHIRO HAYASHI
    株式会社リンクアンドモチベーション
    モチベーションエンジニアリング研究所 上席研究員
    「THE MEANING OF WORK」編集長

    早稲田大学政治経済学部卒業。2004年、(株)リンクアンドモチベーションに入社。組織変革コンサルティングに従事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員として、日本で働く外国籍従業員のエンゲージメントやマネジメントなどについて研究。現在は、リンクアンドモチベーション内のR&Dに従事。経営と現場をつなぐ「知の創造」を行い、世の中に新しい文脈づくりを模索している。

変化の時代。人は、組織は、社会は、どのような変容を遂げ、どのような未来を実現していくべきなのか。よりよい未来社会の創造に向けて、“知の羅針盤”たる「SINIC理論」の研究・普及に取り組む立石郁雄氏に話を伺い、変容に向けたヒントを学ぶ。


SINIC理論とは

オムロンの創業者・立石一真氏らが1970年の国際未来学会で発表した未来予測理論。立石一真氏は「事業を通じて社会的課題を解決し、よりよい社会を創るにはソーシャルニーズを世に先駆けて創造することが不可欠になる。そのためには未来を見通す羅針盤が必要だ」と考え、自ら未来研究を行い、創設して間もない中央研究所のメンバーとともに「SINIC(サイニック)理論」を構築。パソコンやインターネットも存在しなかった高度経済成長期の真っ只中に発表されたこの理論は、当時の近未来として情報化社会の出現、さらには21世紀前半までの社会シナリオを描き出している。

SINICとは「Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic evolution」の頭文字を取ったもの。基本的な考え方は、科学・技術・社会が相互に影響を与え合いながら発展していくというもの。科学が技術の種になり、技術が社会の革新を促すとともに、社会から技術の必要性を発し、技術が科学の刺激となるという、科学・技術・社会の3者間の相互作用を人間の共生志向意欲がエンジンとなって、円環的に進化を加速させていくという基本構造を表している。さらに、価値観の循環構造や、発展プロセスの成熟曲線の適用という3つの特徴を持っている。

SINIC理論は未来への「世界観」

SINIC理論は未来への「世界観」
林 幸弘

本日は「“知の羅針盤”が導く、私たちの未来可能性」と題して、「SINIC理論」の世界観とこれからの未来創造について語っていきたいと思います。私自身、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)を共通言語に、業界や地域、立ち位置の異なるビジネスパーソンや行政関係者と共に「越境知的コンバット」を開催しています。そこで感じる「共通言語でつながるエネルギー」にはすごいものがあります。共通言語の存在が「もっと社会をよりよくしたい」という人たちの出会いと化学反応を生み、地域の間の問題をつないでいく。SINIC理論も”知の羅針盤”として同じように、壁を越えていく「越境の力」があると私は考えているんです。

立石 郁雄
立石

世の中には、数々の経営学や経営論があります。けれど、立石一真は、それらは過去学だと言い切っているんですよ。これからは何かを参考にして企業経営を行う時代ではなく、新しい時代を創っていかなくてはならない。未来を創っていくには、経営者自身が未来学を研究し、未来を考えなくてはならない。そうした思想がSINIC理論をおもしろい存在にしているのだと思います。また、この理論で描かれている社会シナリオの根底には東洋思想の発想があることもユニークなポイントです。林さんが開催している勉強会では、あらゆる立場の人がさまざまな壁を越えて議論しているそうですが、これってすごく大事なことだと思うんですよ。因数分解をして、それぞれの課題を解決していく西洋的なアプローチも有効なのでしょうが、経済は経済、科学は科学、技術は技術といったように、それぞれのフレームの中で考えてしまうと、どうしてもそこから抜け出せません。そこに現代の課題があると私は考えています。SINIC理論は予測理論だとされていますが、実は「世界観」だと私は思っているんですよ。異なるものがつながり、枠を超えていく必要があるからこそ、『世界標準の経営理論』にも、SINIC理論にも光が当たっているのでしょうね。

林 幸弘

SINIC理論は革新と変容につながる「世界観」である。とてもおもしろいですね。結局、経営は人ですので、いかに人のイノベーションを起こすかが大きなポイントになる。ですが、その人に対する見立ては、学問によって大きく異なります。経済学から眺めると、人は利得を最大化する生き物であり、心理学的に見る人は、感情によって意思決定がゆらぐ限定合理的な存在です。一方、社会学から見ると、集団の環境によって挙動が変わる存在でもある。人という存在を俯瞰的に見るには、それぞれの立ち位置を知ったうえで、向き合っている人がどこに立脚しているかを考えながら話をすることで、つながっていけるようになります。そして、それらを要素分解して理解するだけでなく、思考をスパークさせることができる。それによって初めて、イノベーションや新たな価値が生まれることになるという意味では、非常に近しい存在なのかもしれませんね。

立石 郁雄
立石

スパークですか。いい言葉ですね。

林 幸弘

私は以前、貴社が主催した「比叡山未来会議」というイベントに参加させていただいたのですが、大きな刺激を受け、思考がスパークする感覚を味わいました。基調講演に登壇したのは確か、ゴリラ研究の第一人者である総合地球環境学研究所所長(前京都大学総長)の山極壽一氏。700万年以上前に遡り、一気に現代へと駆け上がる。とんでもないスケール感のお話でした。

手放すことで人は次に進める。

未来社会のコンセプト・イメージ
林 幸弘

SINIC理論では、効率や生産性、モノや集団が重視される工業社会から、情報化社会を経て、現在を精神的な豊かさを求める自律社会へと移行する過渡期である「最適化社会」の状況にあるとしています。私自身、神奈川県の鎌倉市や静岡県の三島市、愛媛県の松山市など、さまざまな地域コミュニティーでの活動やイベントに参画していて、「社会共創機会」が拡大する機運のようなものを感じます。そこで強く感じているのが「自立・連携・創造」という3つのキーワードです。それぞれが自立した存在として未来を考え、同じ志を持った仲間と枠を超えて連携し、新しい何かを創り出す。特に、クリエイションまで入ってくることによって、関係の質が大きく変わってきていると感じています。例えば、三島市では、同市をプロモーションする映画を創るプロジェクトが仕掛けられていますが、中学生や高校生、大人も参画し、大いに盛り上がっている。一方、鎌倉市では「カマコンバレー」と題したコミュニティーがあり、ヒューマンファンダメンタルズやソーシャルキャピタルといった、地域を創っていく活動が活発です。こうした自律社会への動きは、確実に増幅されていると言っていいでしょうね。

変化は辺境から起こる
立石 郁雄
立石

やはり、「変化は辺境から起こる」んですよね。人間の体がそうであるように、社会も同じ。いろいろな方がこの世界で生きる窮屈さを感じ、「変わりたい」「こんな社会はおかしい」というパワーがスパークし、自律社会への動きになっているのでしょう。最近、『トランジション』(ウィリアム・ブリッジズ著)という本を読んだのですが、自分の力だけで変容することはとても難しいのだそうです。大事なものを失ったり、自分が描いていた夢を思いっきり否定されたり、左遷されたり……。そうした強烈なことがあって初めて、自分の今まで正しいと思ったものを手放し、その時に初めて次のステージに行けるというのが人間の本質だと言うんです。それは、社会を見てもまったく一緒ですよね。今までの延長線上に未来があるかが怪しくなってきている中で、これまでの常識を捨て、枠から飛び出ようとしている人が集まり始めている。

林 幸弘

新たな未来の創造は、手放すことから始まる。確かにそうですね。

立石 郁雄
立石

少し話を戻しますが、人間らしさを突き詰めていくと、最後には参画と創造が残るんです。立石一真も「人間らしさとは、自分のやりがいや生きがいを感じることだ」と語っていて、それがちゃんと文献に残っています。先ほど、自立・連携・創造が重要だという話がありましたが、ここは林さんの慧眼ですね。究極の人間らしさである創造性を大切にすることが、最適化社会から自律社会、そして、自然社会へと至る、人間の変容の在り方だと思っています。

変容の「臨界点」と五感で得る「違和感」

変容の「臨界点」と五感で得る「違和感」
林 幸弘

リンクアンドモチベーションでは、組織の風土変革を支援するうえで、ある意味で熱力学的な「臨界点」という概念を大切にしています。お風呂を沸かす時に、じわじわと暖かくなってきて、突然熱くなる、対流という現象があるじゃないですか? 組織においても、ある「臨界点」を超えたタイミングで、一気に変化が進んでいくことがあるんです。まずは、リーダーから変わり、新しい言葉を使い、それを行動で示していく。その変化が組織の2~3割を超えたタイミングで、広がってくるんです。みんなの視界が一致する瞬間のエネルギーとでも言うのでしょうか。そうした熱いものを地域のコミュニティーにも感じるんですよね。立石さんは、学生時代にラグビー部の主将を務めていたそうですが、チームが1つになった時の感覚や、人間を駆動するエネルギーみたいなものをお感じになったことがあるのではないでしょうか。

立石 郁雄
立石

ヒューマンルネッサンス研究所で行っている研究からもわかってきているのですが、スポーツとアートの世界は、変容に向けた大きなヒントを与えてくれるものですね。制約のない自由なアートの世界は、理屈ではなく、それを私たちに「臨界点」を超えるきっかけを与えてくれるし、スポーツの世界にも、理屈抜きでの感動や驚きの現象が起こることがあります。私は慶應義塾大学のラグビー部でしたが、相手にするのは明治大学や早稲田大学といった世代別の代表をそろえたスター軍団。「1対1だと絶対に勝てない相手」なわけですよ。ただ、メンバー全員のエネルギーが一体となった瞬間には、しっかりと戦えることだってあった。とにかく、仲間とつながった時の力っていうのはすごいじゃないですか? アートやスポーツで「臨界点」を超える経験は、座学では得られないインプットを与えてくれますよね。

林 幸弘

観戦しているだけでも、「臨界点」を超える瞬間はありますよね。サッカーやラグビーのワールドカップがまさにそう。居酒屋で日本代表の試合を観戦していて、隣にいる見ず知らずの人と突然仲良くなってしまう、あの感じです(笑)。

立石 郁雄
立石

ありますね(笑)。その瞬間は、共感を通り越して、共鳴・共振している感じがあります。「今までの所属」や、「自らが規定している自分」を超えて、魂と魂がつながる感じ。SINIC理論では、「超心理技術」が「自律社会」から「自然社会」に向けた技術として示されています。今後、さまざまなエビデンスが出てくる科学技術分野だと思います。

林 幸弘

超心理技術と言うと、難易度が高そうに思えるけれど、実は、みんなが当たり前に体験していることなんですよね。感性が研ぎ澄まされて、直感が働く状態。論理の世界ではない超心理的な何かが働いている。SINIC理論が予測する自然社会には、そうした可能性を感じさせます。ビジネスをしていても、そうした第六感が働いているような感覚を覚えることがありますから。

立石 郁雄
立石

SINIC理論には、「人間が弱体化していく懸念がある」という表現が残っているんです。人と機械の関係が深まるほど五感も弱まり、それによって人間の心や身体、脳などが弱体化していくことにつながります。だからこそ、そこに違和感を抱いた人たちが、ヨガやマインドフルネスといったアクティビティーを通じて、もう一度、五感を研ぎ澄ませようしているんですよね。ポイントは「違和感」なんですよ。違和感って、めちゃくちゃ大きなヒントだと思うんですよ。「何かおかしいな」「腑に落ちないな」という、理屈ではなく五感が感じている違和感を大事にすることは、人間が変容していくうえですごく大事なところだと思います。

リーダーに求められる百万年規模の「大局観」

林 幸弘

多くの人が今の社会や組織に違和感を覚えているはずなんです。たぶん、おかしいぞって。でも、それをなかなか言い出せないのではないでしょうか。「昔からそうだから」「それを言ったら誰かの顔が潰れるから」「職を失うから」といった理由で。だからこそ、サードプレイスの存在が大事だと思うんです。会社員という立場では言い出せないことも、社会人なら言い出せる。社会で自立し、どんなに小さな活動でも社会に貢献している。そうであれば、ちゃんと言えると思うんですよ。そういう意味では自分で立つ「自立」も大事ですし、価値観の多様性と人材の流動性という、いい流れが加速していくと思うんです。

未来シナリオの1周期
立石 郁雄
立石

そうした状況はコロナ禍で加速しましたよね。SINIC理論では、思想家や人類学者、哲学者、宗教家の意見も参考にしながら、心やモノ、集団といった対抗軸を置き、人類が百万年かけて一周する未来を円錐の形で表現しています。そこで、私たちは、現在を産業革命以来の「セカンドルネッサンス」と位置づけているんです。コロナ禍によって、個人と組織の関係や都市と地域の関係、ひとりひとりの価値観は大きく変わりました。先ほど、組織の風土改革の話がありましたが、リーダーから変わるというのは、確かに王道の王道だと思います。けれど、企業が大きくなればなるほど、次の時代にジャンプしにくいと言えるかもしれません。なぜなら、資本主義や市場に対する責任があるので、新しい未来の動きに追いつかなくなってしまうからです。そこで大事になるのが、大企業の論理ではない新しい動きや新しい場です。そうした出島的な場所をつくり、オールドパワーとニューパワーをいかにつないでいくのか。変革を目指す大企業がチャレンジすべきところはそこだと思っています。それと、これは余談ですが、「みんながソースな人になる」ことも大事だと思います。例を挙げると、天安門事件の時に、戦車の前に立ちふさがった方がいたじゃないですか。あの方は別にトップでもなく、リーダーでもなかったけれど、天安門事件に火をつける存在になりました。個人の違和感からの行動が一人のリーダーを誕生させたわけです。

林 幸弘

現代に求められるリーダーシップの在り方は、幅が大きく広がったと思いますね。だからこそ、本流のビジネスはもちろん、辺境での活動も行って、視野を広げていくことが大切です。そこで得られた知見や、視野の広さは、さまざまな世代を巻き込んでいく力になるはず。このリーダーだったら話がわかる。伝わる。そう思ってもらえることは本当に大きいですから。

立石 郁雄
立石

そうですね。今、求められている大企業でのリーダーシップは、まさにそれだと思いますね。その意味で言うと、立石一真は、見ている時空の広さが常人と違ったのではないかなと思っています。企業だけでなく、社員ひとりひとり、人間、地域、文化……。捉えている空間がとにかく広かったし、時間についても短期・中期・長期といった概念を超えて、人類の歴史というスケールを持っていました。今、大事なことをやりながらも、長期的に大事なこともきっちりと受けるし、受け入れる。新たな価値観や動きも一つのパワーとしてどう取り込むかを考える。実際に、日本で最初のベンチャーキャピタルは、京都経済同友会が母体となって設立され、その初代社長を務めたのが立石一真なんです。自社の利益や枠にとらわれることなく、社会を動かしていくには、そうした取り組みが必要だと考えていたのでしょうね。

林 幸弘

リーダーとして、百万年規模の目線を持って今を捉える。大局観を持てと言われても、なかなかピンとこないかもしれませんが、SINIC理論を理解し、その中で自分なりの考えを持つことができれば、さまざまな変化を起こすことができると思います。ただ、多くの人が変化の先の社会を見通せずにいることも事実です。そうですね。「新たな価値観を受け入れられない」「外国人と仕事がしづらい」「年齢が違うと仕事がしづらい」といったように、現在のカルチャーから出られずにいる。

立石 郁雄
立石

先ほども「手放す」というキーワードを出しましたが、神話の研究本を見ていると、同じようなことが書いてあるんです。神話には人が生きていくための指針や社会の進化に必要なメッセージが盛り込まれています。そして、あらゆる話において、変容するためには「住み慣れたコミュニティーからの離脱」が絶対に必要であることが記されているんです。家族や自らの所属組織から強制的に捨てられ、新しい体験をする。でも、結果的に元の場所に戻ってくる。それを「王の帰還」と言うそうです。私たちが勝手に思い込んでいる「理想の生き方」からいったん離脱して、新しい感覚を注入し、それを体に織り込む。そしてまた、住み慣れた故郷に戻ってきて、その場所を変容させていく。そうした流れは、現代においても重要なことだと思いますよ。

林 幸弘

SINIC理論でも、原始社会から1サイクルで、一次元上の自然社会に至ると予測されています。神話にも通じる人類の本質なんですね。

立石 郁雄
立石

日本の技術者であり経営学者のYouTubeを見ていたら、同じことを言われていたんですよ。物事は螺旋状に、スパイラルアップしていくように変化していくと。それで、一周した時に、同じところに戻ってくるのだけれど、以前とは違うステージに達している。けれど、どこか懐かしい感覚がする。そのようなことを言われていて。対抗軸にあった概念がどんどん近づいてきて、一体化していく……。個人と集団を例に挙げると、「自分は何者だ」と考えた時に、関係性の中にこそ本質があることに気づくといった感じですね。

“知の羅針盤”の社会実装を目指して。

“知の羅針盤”の社会実装を目指して。
林 幸弘

今、世界は、個人と全体の幸せが両立する自律社会に向けて動き出しています。立石さんが以前、社長を務めていたオムロン太陽は、それを象徴する先進的な組織だと言えますね。

立石 郁雄
立石

1972年に誕生したオムロン太陽は、障がいのある人とない人が一緒に働く、日本最初の会社です。その特徴は、福祉目的ではなく、利益を出していく事業会社として立ち上げられたこと。誕生のきっかけをつくったのは、社会福祉法人「太陽の家」の創設者である故・中村裕医師でした。「太陽の家」には、障がいのある方がたくさんおられたのですが、その人たちの声を聞くと、「自立したい」「社会復帰したい」という声があったのだそうです。若い世代の方はご存じないかもしれませんが、当時は、障がいのある方はかなりの差別を受けている時代でした。中村医師は、1964年の東京パラリンピックにて日本選手団団長を務めた方なのですが、その時に目の当たりにした現実に、大きな違和感を覚えたのだそうです。海外の選手は練習・試合が終わったら、自由に食事に出かけたり、買い物を楽しんだりしているのに、日本選手団はすぐ宿舎に戻り、引きこもってしまう。なぜ、そのような違いが生まれたのか。それは、海外の選手が自分で働き、自立しているのに対し、日本の選手は自立の機会を与えられず、税金で守られていたため、そんなことをしていたら「税金の無駄使いだ」などと陰口を叩かれてしまうからでした。その光景をまざまざと見せつけられた中村医師は、その状況を変えたいと、障がいのある人が働ける場所、自立できる場所をつくろうと動き始めたそうです。ところが、200社くらい回っても、すべて断られてしまった。そこで出会ったのが、オムロン創業者の立石一真だったんです。

林 幸弘

時代や社会に対して違和感を抱き、それを行動に移した。変容のモデルケースでもあったわけですね。

立石 郁雄
立石

なぜ、立石一真がその申し出に応えたのか。それは、「機械できることは機械に任せ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」という企業哲学を持っていたこと。そして、障がいのある人を支援することで、オートメーションのレベルも上がっていくし、ほかの会社に負けないような利益を出す会社にできるという自信があったことが理由でした。ただ、最も大きな理由としては、その2年前に発表したSINIC理論の存在があるのだと思います。みんながありのままでいられて、でも全体が調和して、個人と全体の幸せが両立している。そんな未来の社会を描いたのだったら、自分たちがそれを創る側にならなければならないという想いがあったのではないでしょうか。私自身、創業50周年のタイミングでオムロン太陽の社長を務めさせてもらったのですが、みんなでSINIC理論を学び、議論し、実現したい未来を語る動画を作成したんです。その動画は、オムロン太陽のコーポレートサイトで公開されていますので、ぜひ多くの人に観ていただきたいですね。

林 幸弘

私も、すべての社員が生き生きと活躍するオムロン太陽の現場に感銘を受けた一人です。未来社会の創造に向けて、多くの方々に動画を観ていただけたらと思います。そして現在、立石さんは、オムロングループ内シンクタンクであるヒューマンルネッサンス研究所の社長を務めていらっしゃいます。

立石 郁雄
立石

ヒューマンルネッサンス研究所が発足したのは1990年。2005年からの最適化社会をたぐり寄せるために、肝いりで創られた組織です。現在は、主に人文系のアプローチによって未来研究を進め、SINIC理論のアップデートや、自律社会や自然社会の姿について言語化し、解像度を上げていく取り組みをしています。特徴的な取り組みとしては、グループの枠にとらわれることなく、SINIC理論をはじめとする研究内容をオープンソース化していること。未来に向かってチャレンジし続ける人たちと垣根を越えてつながり、自律社会・自然社会の実現に向けて、SINIC理論を社会実装していくチャレンジを行っています。

林 幸弘

”知の羅針盤”であるSINIC理論を自社のためだけではなく、社会に実装する。創業者の想いをしっかりと受け継いだチャレンジですね。最後に、今後、どのような目標をお持ちなのかを教えてください。

立石 郁雄
立石

かなり突き抜けたことを言いますが、私はSINIC理論を人類の宝だと信じています。SDGsにも役割・使命がありますが、17の課題を分断して、ウチの会社はこれをやっていますと言うだけでは、本質的な課題解決には結びつきづらい。その結果、どのような世界を創りたいかが共有されていないからです。これから、beyond SDGsの議論が始まっていくことになりますが、その一番上の概念にSINIC理論を置くことが私の目標であり、夢です。私はSINIC理論が言っていることだけが正解ではないと理解しています。ただ、その考え方や世界観は、とても意味のあるものだと思っているんです。思考をスパークさせて、壁を越え、一緒に未来を考える。私は、SINIC理論を未来創造に向けた羅針盤にとして活用したいのです。

林 幸弘

”知の羅針盤”の存在があることで、より多くの参画と創造が生まれていきますね!

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