「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開
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大島 崇Takashi Oshima
モチベーションエンジニアリング研究所 所長大手ITシステムインテグレータを経て、2005年リンクアンドモチベーションへ中途入社。中小ベンチャー企業から従業員数1万名超の大手企業まで幅広いクライアントに対して、プロジェクト責任者としてコンサルティングを行う。現場のコンサルタントを務めながら、商品開発・R&D部門責任者を歴任。
エンゲージメントスコアの向上は営業利益率・労働生産性にプラスの影響をもたらす
2018年9月18日、株式会社リンクアンドモチベーション(以下弊社)の研究機関であるモチベーションエンジニアリング研究所は、 慶應義塾大学大学院経営管理研究科/ビジネス・スクール岩本研究室と共同で「エンゲージメントと企業業績」に関する研究を行いました。結果の概要は以下の通りです。
1.「従業員エンゲージメント」向上は、「営業利益率」「労働生産性」 にプラスの影響をもたらす
2.「エンゲージメントスコア」を経営の新たな指標に置き、向上に継続的に取り組むことが重要
研究を行った背景
「働き方改革」の本質と「エンゲージメント」
経済の成熟及び、労働人口の減少を背景に、日本において「労働生産性」の向上は喫緊の課題となっています。こうした中、政府が推進する「働き方改革」が本格化していますが、主な議論は労働時間の削減といった“効率”に偏りがちです。「働き方改革」の本質が、労働人口減少期にあっても競争力を失わない企業経営を目指すこととすれば、限られたリソースでいかに最大の“効果”を創出するかという点も、見落としてはなりません。
そこで昨今注目が集まっているのが「従業員エンゲージメント」です。「従業員エンゲージメント」とは、言いかえれば企業と従業員の相互理解・相思相愛度合いのことです。
しかし、その注目度に反して、「従業員エンゲージメント」を経営の重点課題に掲げ、具体的な取り組みを行っている企業は未だ少ないのが実情です。その主な原因は、「従業員エンゲージメント」向上がどの程度経営に影響するのか定量的な分析が不足していることにあるのではないでしょうか。
今回、弊社の「エンプロイーエンゲージメントサーベイ」のデータを活用し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科/ビジネス・スクール岩本研究室との共同研究にて、「エンゲージメント」の経営への影響度を「営業利益率との相関」と「労働生産性との相関」の2つの観点から分析しました。
分析概要
エンプロイーエンゲージメントサーベイの概要
社会心理学を背景に人が組織に帰属する要因をエンゲージメントファクターとして分類し、(※1)従業員が会社に「何をどの程度期待しているのか」、「何にどの程度満足しているのか」の2つの観点で質問を行っています。
(※1)エンゲージメントファクターの一覧
その回答結果から「エンゲージメントスコア(以下ES)」、言うなれば「エンゲージメント」の偏差値を算出し、エンゲージメント・レーティング(ER)として整理しています。(※2)
(※2)エンゲージメントスコア(ES)とエンゲージメント・レーティング(ER)
分析対象及び分析内容
分析対象は、弊社で「エンプロイーエンゲージメントサーベイ」を実施した企業のうち、有価証券報告書が公開されている上場企業66社とし、「ES」と「営業利益率」「労働生産性」との相関を分析しました。尚、労働生産性は様々な定義がありますが、本分析では「労働生産性」=“従業員に支払われる給与1円あたりの正常収益額”としました。従業員1人あたりの当期正常収益額(※3)を平均給与額で割って算出し、その数値とESの相関を分析しました。
(※3)正常収益額:EBITDA
営業利益算出の際の費用分から、減価償却費を差し引いて算出される金額
分析結果
エンゲージメントがもたらす営業利益率労働生産性へのプラスの影響
「エンゲージメント」と「営業利益率」
「エンゲージメントが高いと営業利益は高まるのか」を、「ES」と「営業利益率」を用いて分析した結果が下のグラフです。結果、両者には相関が見られ、「ES1ポイントの上昇につき、当期の営業利益率が0.35%上昇する」ことが分かりました。つまり、「エンゲージメント」は営業利益率にプラスの影響をもたらすということです。
加えて、「翌四半期の営業利益率」と「ES」の相関を見た結果、「ES1ポイントの上昇につき、翌四半期の営業利益率が0.38%上昇する」ことも分かりました。この結果から、「じっくりと時間をかけて、効果を期待するもの」と考えられていた「エンゲージメント」向上は、「比較的短期間で、実際に成果に寄与する」ということも言えそうです。
「エンゲージメント」と「労働生産性」
続いて、「エンゲージメントが高いと労働生産性は高まるのか」を、「ES」と「労働生産性」を用いて分析した結果が以下のグラフです。結果、両者には相関が見られ、「ES1ポイントの上昇につき、労働生産性(指数)が0.035上昇する」ことが分かりました。つまり、「エンゲージメント」は労働生産性にプラスの影響をもたらすということです。
終わりに
経営の新たな指標としての「エンゲージメントスコア」
これまで「エンゲージメント」が経営にもたらす影響について、定量的な分析が不足していましたが、今回の分析で、「ES」の向上は「営業利益率」並びに「労働生産性」向上に寄与することが分かりました。更に、「営業利益率」については「翌四半期の営業利益率」との相関もあり、比較的短期間で成果に寄与することも分かりました。
また、今回の分析は、現在の「エンゲージメント」状態の良し悪しに関わらず、「エンゲージメント」を向上できれば、「営業利益率」「労働生産性」も向上するということが重要なポイントです。
つまり、「ES」の向上に継続的に取り組むことで、「営業利益率」「労働生産性」も継続的に向上する可能性が高いといえます。このことは、企業経営において事業・商品サービス戦略といった”商品市場”への適応に向けた取り組みだけではなく、「エンゲージメント」向上、即ち”労働市場”への適応に向けた取り組みも重要な意味を持つということを示しているのではないでしょうか。